溶けかけ。
2024-12-21 19:28:05
1195文字
Public ほぼ日刊
 

冬の始まり

寒い日の始まりはみんなと一緒に。

 上を見上げれば、白が多分に含まれた空色に青灰の雲がヴェールを纏ったかのように薄っすらとかかっていた。遠くに連なる高い山々の頂には雪化粧が施され、青と白のコントラストが美しい。
 フォンテーヌ廷内を少し歩くだけであちらこちらで乾いた木々の香りが鼻腔をくすぐる。すれ違う人々は薪と茶葉を両手いっぱいに抱え、誰も彼もがマフラーに顔を埋めて早歩きで帰路へとついていく。呼び込みをする店員たちも鼻先を赤く染め、忙しなく体を上下左右に揺する。まるで、止まったら凍りついてしまうとでも思っているかのようだ。
 ふっと口元を緩めたフリーナの足先にも冬の息吹がしんしんと忍び寄る。吸い込んだ冷気は肺を侵し、こほんと咳を一つして身震いをした。
 ────早く帰ろう。
 フリーナは先ほどの人々と同じように早足で家路を急ぐ。人波を抜ける彼女の後を白息が追いかけた。

 ぱたんと閉じた扉の隙間からぴゅう、と北風が入り込む。出掛けの熱が僅かに燻る室内にフリーナはほっと息を吐き出すとコートを脱ぎ、悴んだ手を擦りながら暖炉へと買ってきたばかりの薪を投げ込んで火を着けた。次第にゆっくりと立ち上る炎を眺めていれば、とろとろと瞼が重くなる。
 ぱちん、と爆ぜる音で目を覚ます。いけない、いけない。やらねばならぬことは、まだ、山ほどあるのだから。
 フリーナはゆらゆらと揺れる炎を名残惜しく思いながらも暖炉のそばから離れると部屋の隅で丸まっていた絨毯へと手を伸ばす。自身の身長と同じほどあるそれは、しっかりとした重さと厚みを持っていた。彼女はよちよちとした足取りで絨毯を暖炉の前まで運ぶと両手で転がす。毛足の長い絨毯を広げ終わり、クッションや毛布を運び込む。お気に入りの本を積み上げて出来た小さな砦は長い夜を共に過ごすための友人だ。

 ピーッという甲高い笛の音に、慌ててキッチンへと飛び込む。音の主は長い注ぎ口から勢いよく湯気を立てていた。フリーナは火から薬缶を下ろすとティーポットへと注ぎ込み、すぐに捨てる。今度は茶葉を掬い、ティースプーンで計って入れるとティーコジーを着せて、砂時計をひっくり返した。
 薬缶に残ったお湯をマグカップとティーカップに入れて、先ほどと同じように捨てる。最後の砂が落ちるのを待って、ティーカップへと湯気の立つ紅茶を注ぎ入れる。ふんわりと広がる柑橘の香りは、暖かさを演出する舞台装置そのものだ。
 マグカップに湯を注ぎ、ティーセットと共にトレーへと載せて暖炉の前に置く。お茶に合うお菓子も忘れずに。
 お茶の準備が終わったのを見計らったように鳴り響いた規則正しいノックの音にフリーナは頬を緩めた。

「ようこそ、僕の城へ」

 ヌヴィレットに、ナヴィアにクロリンデ。それに、パイモンと旅人。みんなから香るのはツンとした冬の匂い。

 冬の足音がすぐそこまで迫ってきていた。