しゃどやま
2024-12-21 16:16:47
1563文字
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【宗戴】キス

マジでキスをするだけの小話(ギャグ)

 戴天のグラスの中の、白ワインが尽きた。宗雲の日本酒も既に飲み終わり、ふたりは言葉を無くす。もう、ふたりの会合を引き延ばす理由はない。再び酒を足すには、夜は更けすぎていた。語り合う話題も残らず、戴天は軽く息を吐く。
 意を決したように、壁を見たまま言った。
「キスをしましょう」
 宗雲は意外そうに眉を持ち上げる。けれど戴天の顔は覗き込まずに、ゆっくりと返す。
……俺たちは他人だろう」
 他人。無関係。ふたりを繋いでいた絆はとうに断ち切れ、今はライダーとして情報共有するだけの、ビジネスパートナー以下の関係。表面上の友好的な振る舞いさえする価値のなくなった、ただのふたり。
 だからこそ戴天はキスを提案した。好意などない相手ならば、キスをしても何も思わないだろう。恋人の真似事をすることで、恋人ではないことを決定づける。動かない心を証明する。
「ええ。他人であるために……最後のキスをして、確かめましょう。私たちに愛など無いと。キスをしても蘇るものなど無いことを、証明しましょう」
「わかった」
 宗雲は頷く。無感情のように振る舞うこの男が、戴天は憎らしかった。動揺でもしてみせれば、まだ可愛げがあるものを。
 立ち上がった戴天にあわせて、宗雲も歩みを寄せる。個室のドアを背にし、向き合う。
 宗雲の端正な顔立ちと、特徴的な黒子。見飽きるほど見た顔が、久方ぶりに戴天の目の前にある。少し厚みのある唇が、動いた。
「目を閉じろ」
「ええ……
 戴天は目を閉じ、唇を薄く開く。一瞬の口づけであっても規範を守る。真面目すぎるふたりにとって、手順は大切なものだった。
 宗雲の手が戴天の背に回る。戴天はその手に応えるように腕で抱きしめた。お互い拒まない。
 戴天の、緊張した唇に宗雲の唇が重なった。お互い唇のケアは欠かしていない。ふっくらと柔らかな温かさが伝わり、戴天の心が過去に引き戻される。あの頃は人目を避けて、唇を重ねていた。言葉と唇と体を重ね、お互いの心を理解しようとしていた。理解など、できることは無いと知らずに。
 ――ぢゅる。
 宗雲の舌が、戴天の唇に滑り込んだ。下唇の内側を愛撫するように、ゆったりと掻き回す。
……っ!」
 戴天はびくりと体を震わせる。宗雲のジャケットの背に指を立てる。
 何をしているんだこの男は。怒りに似た感情が戴天の中に浮かび上がる。薄く目を開けて、宗雲の様子を見る。思いっきり目を開けていた。
「ん、ふ」
 戴天は鼻で呼吸する。その様子を、余裕に溢れた瞳で見つめている。呼吸は宗雲のペースだ。
 負けていられない。屈辱を感じた戴天は、宗雲の舌に舌を絡める。扱き上げるように軽く持ち上げた。唾液の音が、吐息に混ざり聞こえる。押し付けられる熱い舌が、戴天の体の中に侵食していく。
「んんん……っ!」
「ん……
 宗雲も心地よさそうに目を細めた。火照っていく体と、敏感になっていく唇。このまま身を任せてしまえば、骨まで蕩けさせられてしまう。
「ぅ、ん、は……っ」
 戴天は、宗雲の舌が唇の表面を舐めた瞬間に両手に力を込める。宗雲の体を引き離した。
 震える声に怒りを乗せ、戴天は叫ぶ。個室の外に聞こえない範囲の声で。
……っ、舌を入れる人がありますか! この流れで!」
「確かめるなら徹底的にやらなければならないだろう」
 宗雲は己の唇を指で撫でながら言う。陶酔したような表情は余裕綽々だ。戴天は怒りに拳を作る。
「ロマンチックに唇を一瞬重ね、それで別れるというのが定石です!」
 宗雲は「ふ」と嗤う。戴天に呆れた表情で言った。
「忙しい割に恋愛テレビドラマは観ているのか」
 戴天はドアを乱暴に開ける。
……悪逆無道!」
 吐き捨てるように言うと、ドアを閉めて去っていった。