晴れ渡った空に浮かんだ巨大な水の玉が、太陽の光を浴びてキラキラと光る。澄んだ水は球状にまとまりながら絶えず縦横無尽に流れ続け、それに反射する光もまた常に表情を変える。透明な水のスフィアはくすくすと笑うように蠢き――ふいにぱしゃんと弾けた。
「あっ」
制御を失った水の塊が重力に従い落下し、地面にぶつかってドオ、と音を立てた。
その落下地点にいた者がくぐもった悲鳴をあげる。
「ジャミルー! すまん!!」
感情の昂りに伴ってうねる長いパールグレーの髪を抑えるように両手で握りしめながら、水に続いて地面に降り立ったカリムが大声で詫びる。普段は痩身を覆うようにふわふわと浮いている髪は、持ち主の心情を表すように力無く垂れ、地面につきそうになっている。
その毛先を掬いあげたのは、黒い蛇たち。その身は瀑布に押しつぶされ地に伏した男の黒髪に繋がっている。
蛇の髪を持つ男はゆっくりと身を起こす。長い前髪が濡れて顔の右半分に貼り付いている。
「カーリームー……?」
「ジャミル、大丈夫かぁ?」
ジャミルは前髪を払うことなく、ニコリと笑う。
「ああ、とても調子が良いよ。水神サマが出したうまい水をたっぷり浴びたからな」
「そうか! 良かった!」
「皮肉だよ気づけこの鈍感神!」
ぱぁ、と満面の笑みを浮かべるカリムに、ジャミルは噛みつかんばかりに詰め寄った。長く伸びていた蛇がシュルシュルと身を引き、腰までの長さになる。
「はあ、もっと安定してコントロールできるようにならないと、水神として認められないぞ?」
「うん、オレがんばるな!」
「返事だけは立派なんだがな……」
カリムは再びふわふわと浮かび出した自身の髪を指先でつついた。
「なあ、ジャミル」
「なんだ?」
「オレが水神として認められたら、お前は正式な眷属になれるんだよな?」
「ああ、そうだ。蛇の妖と人間の間に産まれた紛い物の俺が、水神の眷属になるんだ。頭の固いヤツらの鼻を明かすのが今から楽しみだよ」
「それが、ジャミルの本当の望みなんだよな?」
カリムが確認するように問う。カリムとジャミルは昔ひょんなことから知り合い、必要に迫られて主従の契約を結んだ。それからジャミルは長いことカリムに仕えていたが、本当は自由を渇望していた。カリムがそれを知ったのは少し前、ジャミルがカリムから水神としての力を奪おうとしたときだった。
それから紆余曲折あり、二人は今も共にある。
ジャミルの、薄闇にほんの少し青を垂らして混ぜたような瞳に、カリムの宝石のような紅い瞳が映る。決して濁ることのない輝きは、まるで太陽のようだと思う。
ジャミルはかすかに微笑み、カリムの髪をひと房掬い上げるとそっと口付けた。
「そうだ、それが今の俺の望みだ。そしてお前は絶対に水神になれる、この俺が傍にいるんだからな。頑張ってくれよ、カリム」
「おう、ジャミルのためにもがんばるぜ!」
カリムが拳を天に突き上げる。すると雲もないのに降り注ぐ雨が二人を包んだ。
「あ」
「だから、コントロールできるようになれって!」
「あっはっは、わりぃ!」
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