Yes以外はありえない

ハピエンオンリーの展示でした!!
開催ありがとうございました♡

やることやってる30年後ロドがくっつく話です

ど定番だけどまだ書いたことないなって思ったので書きました🫶

「愛してる」

死ぬことさえ許さないほど抱き潰した後、ロナルドは意を決してその言葉を口にした。
ドラルクは言葉を受け止めると重い瞼を限界まで開き、情事の余韻だけではなく真っ赤に染まるロナルドを見つめ、時間をかけて起き上がると震える指先を口元にあて。

?」

声にもならないカスカスの息で呟いた。


狭い予備室のベッドの上。
五十を越えたロナルドは耳に届いた、しゃがれたおっさんの声を反芻すると室内を見渡した。




『朝がきても一緒にいたい』と涙目で言われたその日の夜に買いに走った、吸血鬼御用達最高級遮光カーテン。
『そろそろ大きなベッド買おうよ』キスに慣れた頃、そう言われて慌てて決めた濃い色のベッドとセットで勧められたサイドテーブル。
『背中が痛くて気になるんだよね』ぺらぺらのマットレスの上で抱いたあと、息が整う前に言われて買いに走ったマットレスに、肌触りの良いシーツ。
『匂いが気になるんだよ』俯き加減に言われ、すぐさま取り寄せた情事の匂いも一瞬で消える空気清浄機。
『最中は暑くて辛い』普段汗のひとつもかかないドラルクがじわりと汗を滲ませ、すっぽりとタオルに顔を埋めたのを見て、家電売り場で悩みに悩んで決めた優しい風の出るエアコンと、暖房を使う時期にはこれも必要ですよと勧められた加湿器。

他にも細々としたものはあるが、それらのほぼ全ては目の前で口元に手を当てて驚愕の表情を浮かべ固まっている吸血鬼のために、ロナルドが自ら出向いて購入したものだ。
ドラルクと同居しているのを知っている店員の、なんともいえない生温かい視線を思い出すと、今でも噴火しそうなほど恥ずかしい。
穴がないなら掘って入りたいほど恥ずかしかった当時も、全てはキスひとつするたびに『震えてるね』と言い、それはそれは大層かわいらしく微笑む恋人のためにと、現金を詰めた財布を文字通り握りしめ、ありとあらゆるネットの情報に踊らされながらも、なんとか手に入れた家具家電その他諸々。

ロナルドは愛の言葉に出せない代わりにと、目に見える形で愛情を示してきたつもりでいた。
それなのに、自分の決死の『愛してる』に対する返答が『うそ』と言われては、セックス後の温度と湿度の高さが自慢の空気も、一瞬にして冷え切ってしまうというもの。

しんと静まり返った予備室の、それなりに奮発して買ったダブルベッドの上。
汗だけでないものにまみれ、すっかり元の色に戻った肌を晒すドラルクを前に、ロナルドは脳が静かに停止するのを感じた。






一方ドラルクは停止していた脳が動きだすのを感じ、さくさくと後始末を始めた。

サイドテーブルに鎮座するちょっといいティッシュを取り、下半身を中心に飛び散ったあれやそれを拭い『もう少し大きいのがいい』と言ったら、翌夜には買ってきていた今度は大きすぎるゴミ箱に投げ入れた。

あい……?)
ゴミ箱から視線を上げ、くるりと巡らせる。




『朝がくる前に棺桶に戻してくれ』と火傷した肌を見せて伝えたら、すぐさま用意された遮光カーテン。
『そろそろベッドくらい買ったら?』と抱かれ慣れた頃にポロッと溢したら、夜には組み立て済みになっていたベッドとサイドテーブル。
『背中痛いんだよね』と薄っぺらのマットレスに押し付けられて軋む背中を庇いつつ伝えたら、開店時間と同時に駆け込んだ寝具売り場で一番高いものを選んだというマットレスと、肌触りの優しいシーツ。
『換気しても匂いがついてる気がする』と連夜のセックスをやめろと夕飯作りのついでに遠回しに話したら、その場で注文していた空気清浄機。
『君の汗が落ちてくる』前後どちらからシていても、ぽつぽつと落ちてくる汗にまで反応してしまうのが嫌で、ガツガツと突かれているときに言ったら設置されたエアコン。
もの凄い量の蒸気を発生させるせいで、水を頻繁にいれないといけない加湿器。

そして見渡した先のゴール地点で固まっている『愛してる』と言ったロナルド。

この状況なら間違いなく自分に向けられた言葉だろうと見当はつけたものの、体を重ねるようになってかれこれ十年は経過してるが?とドラルクは首を捻った。
吸血鬼の自分ならまだしもロナルドは人間であるから、同居して二十年、セックスするようになってさらに十年となれば、それなりの時間だろう。
増えた皺がそれを物語っているが、本人がかっちこちに固まっているので問いただそうにも無理。
ドラルクは大小の皺が刻まれ、よく見ればシミもちょんちょんとあるロナルドの顔をじっくり眺め何かの催眠か?と思い至ったが、それなら最中にも愛を語らっていただろう。
伊達に三十年もシンヨコに住み、ロマンチストロナルドの相棒兼セフレはやっていない。

それならばとドラルクは逆に首を捻って考えた。

体を重ねるうちに沸いた情を、恋愛感情と勘違いしている可能性が高い。
最近の猥談を思い出してみても「スラリとした腰」が追加されたくらいで、AVのラインナップも二十代の頃から特に変化は見られない。
なんなら“実りの時期♡たわわな果実を収穫♡シリーズ”は増える一方だ。
事務所からリビング、トイレの隅々まで掃除をしているのは自分なので、そういった性癖の変化があれば嬉々として記録をとるし、揶揄いのネタにするのもやぶさかではないのだから、日々の探索に余念はない。

ではなぜ『愛してる』なんて言葉を自分に囁いたのか。



▽▽▽



ロナルドとドラルクがセックスするようになった最初のきっかけは、酔った勢いだった。

同居してから数年が経ち、なんの予定もないところに同居記念日が重なって始まった宅飲み。
メビヤツとジョンは静かに眠り、キンデメは呆れて隠れ家の中に入り、死のゲームはスリープモードに入ってうんともすんとも言わなくなった午前二時。
テーブルの上には空の缶ビールがいくつも並び、二本目のブラッドワインも空になったのがその横に並んだ。


酒も肴も尽きたリビングで、起きているのは酔っ払いの二人のみ。

「ろなぅろくんはぁいつはにぃ♡ができぅの?」

いつも通りの童貞弄りに。

「ぉうるせぇれすわぁ」

いつも通りの暴力の返事。

「どーてーのままおじぃちゃになぅの?w」

指差し笑って再生したドラルクの目の前にあったのは、酔っ払いロナルドの赤ら顔だった。

ぷに。

降ってきた唇に「べびちゃんのちゅぅだ」とドラルクがさらに揶揄い。
ロナルドは子供のように頬を膨らませて、からころと笑う薄い唇に迫り。
再び柔らかく合わさったと同時に、ドラルクは広い背中に腕を回した。


そしてパーフェクト朝チュンをした二人。


双方記憶はしっかり残っていることを確認すると、憧れの裸ジャージに立ち上がれなくなったロナルドをドラルクが笑い、応戦したロナルドがドラルクをソファに押し倒し、今度は間違いなくシラフの二人が体を重ねた。

それから、なんとなく予備室に引きこもる日が増え。
時間がない夜は手や口で。
ほぼ毎夜二人だけの時間ができていた。



▽▽▽



そしてそのまま十年。

はた。とロナルドは意識を取り戻した。
そういえばと己の言動を振り返り、肝心なひと言を照れているせいにして、目の前のドラルクに伝えていなかったことを思い出した。
いやそれでもと、ロナルドは腕を組んだ。
かれこれ十年。
ドラルクのような吸血鬼ならいざ知らず、人間にとっての十年を何だと思っていんだろう。
初めての夜以来、ドラルクの前で彼女が欲しいと言ったことはない。
退治人仲間でも『ドラルクが恋人だろ』と暗黙の了解ができているくらいだ。
それなのに目の前にいる男は、大欠伸をして今にも眠ろうとしているではないか。

「いや待てや。寝んなよ」
ロナルドがこのまま寝かせてたまるかと、被っていたタオルケットを剥ぎ取ると「さむっ」と肩を縮めて小さく丸まった。
「もう朝だから、」
「これから大切な話をします」
「はぁぁぁぁぁ手短にお願いね」
仕方ない。と手を伸ばしてきたドラルクを起こし、ロナルドは自身を背もたれにして座らせた。

ごほん。

ひとつ咳払いをすると、最短で確認してやろうと意を決した。
「お前、俺のこと、恋人と思ってねぇの?」
いけない。傷ついちゃう。タスケテにぃに。
ロナルドの中にまだ残っている童貞の心が、ツキリと引き攣った。

そんな元童貞の心は知らないドラルク。
キョトン顔でロナルドを見上げると。
「え?私たちはセフレでブエェェェ!!!!」
ハグで殺された。

「なっっっにすんじゃクソガキ!!」
「お前は!俺の!恋人だ!」
「っはぁ!?!?!?」
「恋人!!なんだよ!!」
「冗談は顔の良さだけにし、」

ぼろっ
ぼたぼたっ
っおれ、と、ぉまえ、ごいびど」
ずび。
ずずっ。

瞬く間に降り出した大粒の雨のような涙に、めんどくさと思っていたドラルクも、仕方ないなとだるい体に喝を入れて向かい合って正座した。

はぁ。
ひとつため息を吐けば筋肉の詰まった肩が縮こまり。
ちっ。
特大舌打ちをしたら泣きながら正座をした。

こほん。

先ほどのロナルドの真似をして、ドラルクもひとつ咳払いをすると。
……あの日から今夜まで『好き』とか『愛してる』どころか『付き合ってください』すら、本当に、何も言ってこなかったのは君だよね?それで恋人と言うのはどうかと思う。それとも何?これだけセックスしてたら何も言わなくても『自分と恋人だ』って伝わってると思ってたの?私の気持ちは確認しなくてもいいってこと?私のこと好きならちゃんと気持ちを伝えて色よい返事をもらいたいとか思わないの?それに兼業とはいえ、言葉を生業にしてる作家先生としてもどうなの?言葉は書いたり話したり、発信することで伝わるものでしょ?吸血鬼なら念で感じ取れなんて私には無理だし、周りからどう見られていたとしても、少なくとも私は君の恋人じゃなくくて、君に恋人ができるまでのセフレだと思っていたよ?それを今夜いきなり『愛してる』なんて言われてもただのピロートークの真似事かと思ったよ。さすがに君の表情で違うと気付いたけど、はいはいって流してたらこの勘違いに気付かずに、私は勝手に恋人扱いされたままになってたんだよ?それは三十年共に生活してきた相手に対して酷い扱いだよね」
最低限の息継ぎで矢継ぎ早に話すと、ドラルクは正座をしたまま腰に手を当て、鼻を啜り続けるロナルドの顔を覗き込んだ。

汗と涙と鼻水が混じった大変ばっちぃ顔ではあるが、水分に反射する光と元々の顔の良さで全てをカバーしている。
つん、と固い膝小僧をつつき、ドラルクは緩みそうになる口元を引き締めた。
「なんとか言いなさい」

『やっぱなし』でも『勘違いでした』でも、どんな言葉であろうと受け止めてやろう。

「ロナルド君、なみだ引っ込めて」
あの夜、面白半分とはいえ誘ったこと。
その後も抱かれることに抵抗はなかったこと。
『愛してる』の言葉に首は傾げたが、その言葉に不快感ひとつなかったこと。

「ちゃんと話してくれるね?」

すとん。と胸に落ちてきた気持ちを受け止め。

くしゃくしゃの天使の髪を撫でるとロナルドの頬を挟んで持ち上げ、ドラルクは真っ赤に染まる鼻先にキスをした。










「ごめんなさい」

「それで?」

「ずっと好き愛してる」

うん」

「俺、おじさんになっちまったけど、ドラルクと付き合いたい」