三毛田
2024-12-20 21:26:32
3113文字
Public アドベント24
 

20. 力一杯抱き締めて

20
悲鳴を上げる、それより前で止めるけど

 後ろから、抱え込むように。
 前から、抱きつくように。
「穹。離してくれ」
「やだ〜」
 俺が答えると――見えないけれど、きっと――困った表情に。
 丹恒が苦しくない程度に力一杯抱きしめ、肩に額をこすりつける。
「どうしたんだ」
「そういう気分なだけ」
……何か辛いのなら、きちんと言葉にしないと分からないからな」
「丹恒がそれを言う?」
「俺にそうしろと教えたのは、お前だろう」
「そうだっけ。忘れた」
「まったく」
 今度はきっと、呆れたような表情をしているのだろう。
 手に取るように分かる。
 そっと背中に腕が回ってきて、抱きしめ返され。
「丹恒」
「なんだ」
「俺は、もうちょっと強く抱きしめても壊れないから」
「だが」
「痛かったら、ちゃんと声を上げるから。抱きしめて欲しいから、ね?」
「それなら」
 ちょっと強く抱きしめてきた。まだ大丈夫。うん。
 強く抱きしめられたことで、丹恒の温もりをいつもより感じられる。
「丹恒、ストップ」
 限界手前で声をかけると、ふっと力が抜けて。
 ちょうどいい強さの抱擁は、とても心地よい。
 丹恒も心地よいと感じてくれているのか、側頭部に頬ずりしてきて。
 可愛い。可愛すぎて、このままベッドに連れ込んでしまいたい。
「いいぞ」
「え。俺、何も言ってないけど?」
「お前の考えていることなど、お見通しだ」
「じゃあ、お願いします」
「こちらこそだ」
 抱擁を解き、俺の部屋へと向かう。
 パーティー車両に入った瞬間、シャラップが冷やかすようなことを言ってきたのでスイッチを押して黙らせた。
 誰かが押し直さないと、しばらく喋ることは出来ないだろう。
「丹恒、好き」
「ああ。俺も好きだ」
 動いたことで、汗で湿った髪を撫でる。
 お互いの気持ちを確認し合い、キスを繰り返して。
 幸せって、今の状態をいうのかもしれない。
「丹恒、今は幸せ?」
「幸せっていうののが、アーカイブにあったとおりであるならば、幸せなのかもしれない」
 断言しないあたりが丹恒らしい。
 頬を撫でると、気持ちよさそうに目を細めて。
 俺が満足するまで撫でた後、丹恒も俺の頬を撫でてくれる。
 これ、気持ちいい。
 ちょっとだけ火照っている頬に、丹恒の俺よりも体温の低い手が触れる度に気持ち良くて。
 すごいみっともないけれど、眠くなってきた。
「眠ってもいいぞ」
「じゃあさ、丹恒も一緒に寝ようよ」
「いや。俺は眠くない」
 とは言いながらも、目は半開きになっていて。
 意外と負けず嫌いで強情っぱりだもんな。
 背中を軽くトントン叩いていると、やはり眠かったようで俺よりも先に眠ってしまう。
 体を重ねた後の丹恒の寝顔は、年相応の時もあればそれよりも幼く見える時もあって。
「本当、謎だよな」
 ほっぺをツンツンつつくと、体を丸めて。そのタイミングで、シーツも全部持っていかれてしまう。仕方ないので、服を着てから予備のシーツを持って来てそれをかぶって俺も眠る。
……
 なんか、腕が重い。
 視線だけ向けると、丹恒が俺の二の腕を枕に殻を丸めて眠っている。
 これ、いつからこの体勢で寝ているのだろうか。
 腕がしびれる前に起きてもらえたら、いいなぁ。
 というか、本当に顔の作りがいいな、丹恒って。
 睫毛は長いし、鼻筋が通っていて。肌のきめも細かい。
 多分、ニキビとかは無縁なんだろうな。
 片手で髪を撫でてから、頬を撫でて。最後に唇に触れ。
 もちもちの頬に、ぷにぷにの唇。
 ちょっとだけ指を入れてみると、不快そうに眉を寄せ。でも、俺の唇だと気付いたのか、酔った眉はゆっくりと広がっていき。
「ふわ……
 何かと間違えているのか、ちゅぱちゅぱと吸いだす。
 これ、本当に丹恒? 幼児返りしてる?
「可愛い……
 思わず呟くと、一瞬動きが止まって。でも、すぐに俺の指を吸うのを再開する。
 これ、下半身に大変よろしくない。
 ひと眠りして落ち着いたはずなのに、またムクムクと元気になっていく。
 どうにかしたい気持ちはあるのに、丹恒が俺の指も腕も離してくれなくて。
 指は、ちょっと唇が緩んだ隙に抜けた。若干ふにゃふにゃだけど、まあいいだろう。
 ここで丹恒の唾液がついた指を、口に持っていくほど変態ではない。
 が、本音を言うと、丹恒の唾液の味はちょっとは気になる。うん。
 いや。キスした時に唾液を舐めればいいんじゃ? と気づいた。
「俺、自分で思ってるより変態?」
「ん……きゅ、う?」
「おはよう、丹恒。腕がしびれそうだから、起きてくれたら嬉しいな」
「んん……
 唸った後、腕の下の辺りで体を丸めて。お陰で何とかしびれる前に腕を回収することが出来た。
 ついでに、トイレに行くことも出来そうで。急いで行って抜いて帰ってくると、ベッドの真ん中で眠っていて。
「丹恒、俺の寝るスペースがないんですけど~」
 と言いながら、端に転がす。
「起きてるでしょ」
 動かなかったので、肩を撫でながら問いかけると口元に笑みを浮かべ。
「おはよう、穹」
「おはよう。いつもより早い時間だけど。腰は?」
「今日は大丈夫だ」
「怠かったら、朝風呂入って体をほぐす?」
「たまにはいいかもな」
「じゃあ、準備してくる」
 お風呂にお湯を張る間に、リラックスできる入浴剤を選び。
 部屋に戻って丹恒をシャワーブースまで連れていき、頭のてっぺんからつま先まで丁寧に洗い合って。
「ふう」
「お風呂に浸かりながらの仙人爽快茶もいいかも」
「俺は、冷やした熱浮羊乳がいい」
「スラーダでも、スーサ水でもいいかも」
「温かいと冷たいのマリアージュというやつだな。この間、ネットで見た」
「丹恒もそういうの見るんだ」
 膝の間に座らせた丹恒の胸を横から寄せて、その後下から持ち上げてみる。
 そしたら、手の甲をつねられた。地味に痛い。
「穹、辞世の句は読むか?」
「ゴメンナサイ。俺が悪かったです」
 パッと手を離すと、たゆんと揺れた。思わず凝視していたら、わき腹に肘が入って。
「穹」
「だって。恋人の胸がさ、こう揺れたら見ちゃうじゃん?」
「俺にはわからないな」
「わからないなら、それでいいよ」
 ちょっとだけ強く抱きしめ、うなじに頬ずりする。
 ショートヘアの時は、うなじが丸出しなのでとても魅力的だ。
「丹恒、噛んでいい?」
「お前はまた……
「だって、こういう時じゃないとうなじに触れられないし」
 許可を貰えなかったので、噛むのはやめておいてキスだけ。
 途中で水分補給をして、お風呂でイチャイチャ。しようとしたら、丹恒はさっさと出ていってしまった。
「お前の設定する温度は、ちょっと高い」
 とむすっとした表情で言われてしまい。
「今度は水風呂を用意してくれ」
 更にはそんなことまで。
 水風呂なんか喜ぶのは丹恒だけだろう。とは言えなかった。
「丹恒、ドライヤーかけるよ」
 ずぼらなこの恋人は、時々必殺技で全身を綺麗にしてそのまま髪の毛も乾かしてを行う。
 だからか、俺と一緒に風呂に入った時でもたまーにそうしているからこうやって確認を取るのだ。
「頼んだ」
 とはいえ、ご機嫌というか甘えたい時はこういう風に何もしないでいることもある。
「そろそろ皆起きてくるだろうから、ご飯食べに行こうか」
「ああ」
「その前に、抱きしめても?」
「いいぞ」
 それぞれ髪の毛を乾かし終え、また抱きしめ合う。痛いと悲鳴を上げる一歩手前まで力を込めて。
「丹恒いい匂いする」
「そうか」