雪華
2024-11-01 21:40:26
2332文字
Public テリサイ
 

【テリサイ】内緒の姿

お題もらったやつでした!「付き合ってるテリサイで、戦闘中に髪紐が切れたサイラスにそっけなくするテリ(要約)」でした。髪ほどけた先生、美しいだろうな……と想像してとても楽しかったです。

――魔物の咆哮が耳を劈く。旅人達を取り囲み、空中から威嚇しているのはホウルの群れだった。軽い体と大きな翼で宙を駆ける魔物で、終始鳴き声を絶やさずにいるのは、視力が弱くとも互いにぶつからないようにするためである。
空を飛ぶ魔物に対しては、弓矢や魔法による攻撃が有効だ。サイラスは魔導書を手に高らかに詠唱する。

「雷鳴よ、轟き響け――!」

空を裂く稲妻は速く、逃げる隙を与えない。轟音と共に迸る魔力がホウルの身を焼いた。そして稲妻の間をハンイットの矢が的確に貫き、彼らの翼を奪う。地に落ちてしまえば、圧倒的にこちらが有利だ。次の一手を考えながら周囲を見渡した時、突如として視界がぶれた。――手首を捕まれて引き寄せられた先には、紫色の外套があった。そのままテリオンの肩口に顔を埋める。

「テリオン」

呟くように名を呼ぶと同時に何かが耳の裏を掠めた。痛みはなかったが、飛び去ったホウルの姿を見てぞっとする。背後から首や後頭部を狙って襲ってきたのだ。もしもテリオンが気付いてくれなければ、致命傷を負いかねなかった。

「先生! 大丈夫か!」
「ああ、……っと、髪が……
……

ホウルの鋭い爪が掠めたせいで、髪を束ねていたリボンが切れて地面に落ちていた。顔を動かすだけではらはらと頬や首筋をくすぐる髪が邪魔で、とりあえず耳にかけておく。幸いにも毛髪自体は殆ど切れていないから、代わりの紐さえあればまたすぐにまとめられるだろう。テリオンはサイラスの姿を一瞥すると、僅かに目を細めた。

……怪我はなさそうだな」
「キミのお陰だ、助かったよ」
「別に。邪魔だろ、さっさと結べ」

素っ気なく答えて、テリオンは懐から革紐を取り出した。短剣で適当な長さに切ったそれを、サイラスの手に押し付ける。礼を言う前に彼はこちらに背を向けて、まだホウルと交戦している他の仲間達の元へと駆けていった。

「あ、ありがとう……
「サイラスさん、大丈夫ですか?」
「ああ……見ての通り無傷だ。私達も加勢に加わろう」
「はい!」

手早く髪を束ね直して、オフィーリアと共に魔法を詠唱する。――その傍ら、ついつい視線でテリオンの背中を追った。なんとなく彼の態度に違和感のようなものを抱いたのだ。いつもだったらもう少し心配してくれるのだが、今日はやけに淡々としている。怒らせるようなことをしてしまったか、と自らの行動を省みたが、思い当たる節はなかった。

***

ホウルの群れとの苛烈な争いを制し、サイラス達は無事に町へと辿り着いた。門をくぐった頃には既に日が暮れかけていたため、酒場で夕飯を摂ってから宿屋へ向かった。町で一番大きいという宿には風呂場が併設されていて、久々にゆっくりと湯に浸かれた。

「テリオン……私はキミを怒らせてしまっただろうか?」

当たり前のようにあてがわれた相部屋に入り、湯上がりで濡れた髪を拭きながらそう問いかける。テリオンは態とらしく片眉を上げて、サイラスに話の続きを促した。

「昼間の戦闘の時から、機嫌が悪いというか……なんだか冷たく感じるのだが、気に障ることをしてしまったかな」
……別にあんたのせいじゃない」
「では、何が原因なのだい?」

テリオンが寝台に腰掛けたので、サイラスもその隣に腰を下ろす。二人がひとつの寝台で眠るようになってから一月が経つ。互いの心の最も柔らかい部分を触り合った仲なのだから、今更隠し事をする必要はないはずだ。探るようにじっと横顔を見つめていると、テリオンは短く息を吐いた。追求を躱し切れないと思ったのか、はたまた諦めたのか、ぽつりと語る。

……髪を」
「髪?」
「あんたが髪を下ろしてるところを見られるのは……俺の特権だろ」

そう言うと、テリオンはサイラスの頭の形を確かめるように後頭部を撫で下ろして、うなじを擦った。普段なら湯上がりにも読書をするため髪を束ねるが、今は髪を下ろしたままにしてある。彼から急ごしらえでもらった紐は革製で、水気に弱いためだ。テリオンはそのまま濡れた髪を手櫛で梳き、毛先を指に絡める。

……他のやつに見せたくなかった。それだけだ」
……

瞬きを繰り返していると、テリオンはばつが悪そうに唇を引き結ぶ。子供じみた嫉妬心が垣間見えたことに驚いたが、同時にサイラスの胸に湧き上がってきたのは不思議なくすぐったさだった。彼にとっては、寝台の中でサイラスの髪を解いて、その姿を堪能することがひとつの楽しみになっているらしい。自分自身では意識していなかったことに目を向けてもらえるというのは、気恥ずかしくも嬉しい。堪えきれずに笑みを浮かべると、彼はますます拗ねたように視線を逸らした。

……そうか、キミはそういう可愛い独占欲を抱いてくれるのだね」
「笑いたいなら笑えよ……
「馬鹿にしているわけではないよ。キミに好かれていることが分かって嬉しいんだ」

好きな人に愛される幸福を、テリオンにも味わってほしい。手始めにそっと頬に口付けてやると、余所を向いていた眼がサイラスを映す。後頭部に手を添えられて引き寄せられるまま額を突き合わせ、優しく語りかけた。

「明日になったら、換えの髪紐を買いに行こうと思うんだ。一緒に選んでくれるかい?」
……俺が選んで良いのか?」
「ああ。特別なキミにこそ、選んでもらいたい」
「ハ……先生は人を喜ばせるのが上手いな」

僅かに機嫌を上向かせた様子でそう呟き、口付けられる。孤高であろうとしていた男が不意に見せる、年相応の可愛らしいところがサイラスは好きでたまらなかった。――そうして明日の約束をして、今日も身を寄せ合って眠った。





***

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