雪華
2024-07-29 21:29:32
3386文字
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【オクトラⅡオールキャラ】そんな日常

TM25のペーパーアンソロで出したお話でした。アグ・ヒカ・キャス・オズが触手モンスターと戦います。

 穏やかな風が、群生している植物をそよそよと揺らす。町から離れるにつれ徐々に枝葉が空を覆い、人々に踏み締められて生まれた道は草木に呑み込まれていった。それでも、アグネアにとって森は、常に生活の隣にあったものだ。森の怖さは理解しているが、怯えたことはない。
「それにしても……一体どこにいるのだろうな、その魔物は」
……目撃者の話を聞く限り、方角は間違いない」
「でも、大きな魔物が急に現れるなんてあるのかしら」
 アグネアと共にいるのは、ヒカリ、キャスティ、オズバルドの三人だ。普段は八人と一匹で旅をしているが、今日は二手に分かれて行動している。覚悟はしていたことだが、旅は何かとお金がかかる。パルテティオが懸命に工面してくれているが、足りない分はこうして滞在先の町で人々の困り事を解決し、路銀を稼いでいる。
 魔物の討伐は狩人であるオーシュットに同行してもらうことが多いが、たまには少し気分を変えて、彼女には町に残る方に回ってもらった。キャスティ曰く、その方がオーシュットの社会勉強にもなる、という考えらしい。
「確か、襲われた人が絵を描いてくれたんだったよね。もう一回見せてもらってもいいかな」
「ええ、もちろんよ。……はい、どうぞ」
 キャスティが鞄の中から一枚の紙を取り出し、渡してくれる。そこには襲撃の被害者が描きつけた魔物の姿が記されていた。植物の形をしている魔物で、赤い花弁には白い斑点がまだらについている。そして花弁の根本からは無数の蔦が伸びていて、全長はオズバルドより大きかったと語っていた。
「ありがとう! うーん……やっぱり、見たことないんだよね。珍しい種類なのかな、オズバルドさんはどう思う?」
「この種の魔物は、主に葉や種の形で判別する。……この絵では葉の形がはっきりしない」
「やはり、オーシュットに手を貸してもらった方がいいかもしれん。姿を現せば、俺達でも倒しようはあるが……出てこないことにはどうしようもない」
「そうだね……。でもせっかくここまで来たんだから、もう少し探してみようよ!」
 旅の中でアグネアも戦う力を身に着けて来たが、ヒカリの言う通り、出て来ないのなら振るいようがない。とはいえ今からオーシュットを呼びに行くと時間がかかる、もしかすると狩りは明日になるかもしれない。
「襲われた人、この森をお散歩するのが日課だったのに……今は怖くて家から出られないって。早く安心させてあげたいよ」
「そうだな、そなたの言う通り――
 するとヒカリが、はっと目を瞠る。次の瞬間、彼の手によってアグネアは突き飛ばされていた。
「きゃっ!」
「アグネアちゃん……ヒカリくん!」
「来るな! 一体、いつの間に現れた……⁉」
 幸いにも背の低い植物がクッションになり、大きな痛みはなかった。しかし代わりに、ヒカリの手足に蔦が巻き付いていた。彼が自分を庇ったのだと察して青褪める。
「ヒカリくん……! 大変、すぐに蔦を切るから!」
「案ずるな。これしきのこと……ふんっ、」
 アグネアが短剣を構えたのも束の間、彼は手足を軽く動かして、蔦をぶちぶちと引き千切った。ヒカリは細身に見えるが、仲間内でも最も腕力が強い。忘れていた訳ではないが、あんぐりと口を開けてしまった。
「蔦はどこから伸びているのかしら。本体がいるのよね?」
「ああ……。蔦はあくまでも触腕に過ぎん。本体にダメージを与えない限り、幾ら払っても意味がないだろうな」
「ふむ……。オズバルド、これを辿っていくのはどうだ?」
 ヒカリは足元に散乱した残骸の中から、未だうねうねと動く蔦を捕まえる。それは先程ヒカリが引き千切ったものより太く、直径はアグネアの腕と同じくらいだった。
「いや……逆だ。その蔦を引いてみてくれ」
 ヒカリの手の中で蠢く蔦は、まるで陸に打ち上げられた魚のようだ。オズバルドは何かを察したかのように顎髭を撫でながら、指示を出す。
 言われるがままにヒカリが蔦を引くと、ずず、と足元から何か音がした。次いで、軽い揺れが足の裏に伝わってくる。
「じ、地震⁉」
……蔦に生えている葉を見るに、種の目測は付いた。環境に合わせて擬態する魔物だ。今も、姿を隠したまま俺達に危害を加えようとしている」
「隠れているって、一体どこに……⁉」
「蔦に付着していた土の色が、表土と異なっている。つまり、地上を這っている間に付着したものではない――奴がいるのは、この地中だ」
 数メートルほど先の地面が盛り上がり、亀裂が走る。そして次の瞬間、地中から毒々しい花が姿を現した。赤い花弁にまだら模様、絵と同じだ。魔物は鋭い咆哮を上げ、蔦を振り上げる。
「そうはさせないわよ! さあ――ふげっ⁉」
 いつものように踊ろうとしたが、足がずるりと滑った。切られた蔦から出ている粘液に足を取られたのだ、と気付いた時にはもう遅い。アグネアは派手な音を立てて転倒した。
「いたた……えっ⁉」
 目の前にあったのは桃色の花だった。蔦の先端についている花は爆発しそうなほどに膨れると、胞子を吐き出す。――蜂蜜にも似た甘い香りに浸っていたのも束の間、突然顔がカッと熱を帯びる。目元や鼻がむずむずと痒くなり、飛び上がるようにくしゃみをした。
「ひっくしゅん! くしゅっ、ふあ、っくしゅん!」
「アグネアちゃん……! 大変、アレルギー反応ね。すぐに薬を用意するわ」
「キャスティしゃ……っくしゅ! うええ、目が痒いよ……
「搔いちゃダメよ! ほら、ちーんして」
 涙と鼻水を垂らしながら蹲っていると、素早くキャスティが駆け寄り、顔にちり紙を当ててくれる。あまりの痒さにとても目を開けていられないが、漂ってくる冷気から察するに、オズバルドの氷結魔法で蔦を遠ざけているらしい。
……これでは切りがない。火炎魔法で一気に仕留めたいところだが、蔦を伸ばしていると延焼の危険がある」
「なるほど……ならば俺に考えがある。キャスティ! そなたの斧を貸してくれ!」
「分かった、投げるわよ! ……さ、アグネアちゃん、薬ができたわ。少し苦いけれど、一気に飲み干して」
「う、うん……! ありがとう!」
 キャスティに渡された飲み薬は、確かに舌先に乗せるだけでも痺れるような苦みがある。それでもここで足手纏になる訳にはいかないと、彼女の勧め通りに一息に飲み干した。すると、すっと痒みや熱が引き、目を開くことができた。
 次いでキャスティがヒカリの足元を目掛けて斧を投擲し、彼は刀から斧へと武器を替えた。すう、と短く息を吐き、赤い花に向かって跳躍する。
「行くぞ! 大木伐採――!」
 ヒカリが大きく斧を振り被り、無数の蔦を根本から切断する。その姿に、試合相手が使っていた技を習得した、と語っていたことを思い出す。その背中を見上げながら、今度こそアグネアもステップを踏む。
「よーし、あたしも! 孔雀の舞……!」
「演算終了だ。……火炎よ、焼き尽くせ」
 巻き上がる炎が魔物を包み込む。魔物は暫くもがいていたが、やがて動かなくなった。舞い散る火の粉を見ながら、無事に帰れそうなことに胸を撫で下ろしていた。

 ――その夜、酒場に集合して、別行動していた面々に今日の成果を報告した。
「それは……大変でしたねぇ」
「かわいそうに。アグネア、鼻が真っ赤だよ」
「まあとにかく、みんな無事で良かったぜ」
「とっつぁんの魔法で仕留めたんなら、コゲコゲだろうねー」
 獣耳をぴこぴこと揺らし、唇を尖らせたオーシュットに、オズバルドは僅かにばつが悪そうな顔をしてみせた。
……すまん」
「今度見つけた時には、わたしがご馳走してあげるよ! 花びらを果物の葉で包み焼きにするとウマいんだ~」
「それにしても、花は地上に咲くという先入観を逆手に取り、地中に潜んでいたとは……。知能が高い魔物なんですかね」
「そこまでは分からん。しかし生きたまま捕らえられたら、研究の余地はあるだろう」
 料理の話をしたり、魔物の生態の話をしたり。話題は移り変わりながら、今日も一緒に食卓を囲む。大切な人達と過ごすこの時間が、アグネアは大好きだった。
 明日はどんな旅路を往くのだろう――想像するだけで胸が躍る。賑やかに談笑を交わしながら、食事を頬張った。




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