雪華
2023-07-17 20:05:50
6002文字
Public テリサイ
 

【テリサイ】異世界トリップしてきた好きな人を拾った話【特殊パロ】

現パロ(BBB世界線)のサイラスが、オルステラから異世界トリップしてきたテリオンを拾う話。原作軸テリオン×現パロサイラスというややこしいことになっています。コミュニティで盛り上がったネタをもとに書きたいところだけ書いたので急に終わります。

いつも通りに仕事をして、いつもと変わらない道を歩く。サイラス自身は何も変わっていないというのに、最近生活に大きな変化が訪れた。
自宅のドアに鍵を差し込み、開く。室内は既に明かりが灯っていて、キッチンから香ばしい匂いが漂ってきた。

「ただいま」
――おかえり」

顔を覗かせたのは、サイラスが密かに懸想する人物に瓜二つの男。名はテリオンと言い、齢もぴったり同じ二十二歳。柔らかそうな白髪も、一点の濁りもない翠眼も、サイラスを呼ぶ声色も、全てが鏡映しのように酷似している。
その時、胸ポケットに入れていたスマートフォンが震えた。取り出して画面をタップする前に、彼に向かって人差し指を立ててみせる。頷いたことを確かめて、『テリオン』と表示された人物からの通話を取った。

「もしもし、テリオン?」
『俺だ。今、時間あるか?』
「ちょうど帰宅したところだ。大丈夫だよ」
『次にやる曲なんだが……

サイラス達は共に、趣味で行っている音楽サークルのメンバーだ。次の練習曲を何にするか今考えているところで、テリオンはトレサやアーフェンと打ち合わせた内容を簡潔に伝えてきた。

『詳しくは後でメッセージを送る。また見ておいてくれ』
「分かったよ、ありがとう。用件はそれだけかい?」
……ああ。じゃあ、また』

プツリと通話が切れ、スマートフォンを下ろす。目の前の男はサイラスの手元を凝視していた。

……相変わらず、便利なもんだな。遠くにいてもそれを通して話せるんだろう?」
「そうだよ、電話というんだ。……いい匂いだね、何を作ったんだい?」
「別に。肉と野菜を焼いたやつと、スープだ」
「美味しそうだ」

そう言って鍋の中を見せてくれる。サイラスが殆ど使っていなかったキッチンを、彼はあっという間に使いこなせるようになった。
テリオンと出会ったのはちょうど一週間前の同じ時間帯だった。帰宅途中に、路地裏で蹲るようにして眠っていた彼を見つけたのだ。テリオン、と声をかけると彼は顔を上げ、サイラスの名を呼んだ。しかしどうにも話が噛み合わず、埒が明かないと判断して家に上げ、詳細な事情を聞き出した。どうやら彼は――端的に言うと異邦からの来訪者、らしい。

「あんたまで同じものを食わなくていいんだぞ。俺がこっちの食事は口に合わんと感じるんだから、あんただって俺が作るものは不味いと思うんじゃないか」
「そんなことはないよ。シンプルで食べやすい料理だと思うし、せっかくこうして一緒にいるのだから、同じ食事を取りたいんだ」
「それならいいが……。着替えてきたらどうだ?」

頷いて、自室に向かう。――今サイラスの自宅にいる男と、先程通話した男は、名前も外見も双子のように瓜二つだが、完全なる別人だ。そしてここにいるテリオンは、異世界と言っていいような世界から来たらしい。彼の世界には魔法があり、文化様式はおおよそ中世ヨーロッパ並み、そして不思議なことにそこにも『サイラス』がいるらしい。
世界が違うというのに外見や内面がよく似た人物がいることを、とりあえずは魂が同じなのだと解釈することにした。そして異世界からやって来たテリオンは帰る方法が分からないと言うので、こうしてサイラスの自宅に滞在してもらっているという訳だ。

(うーん……やはり、慣れないな……

何しろ、本当に片想いの相手そっくりだ。会話をすれば別人だと納得するが、声色や仕草まで同じものだから、正直に言うと混乱する。好きになったのはこの世界にいるテリオンなのに、不思議と彼に惹かれてしまう自分がいる。当面の問題は二つ――この気持ちをどうすれば良いのか、そしてどうしたら異世界のテリオンを元の場所に帰してやれるか、ということであった。
着替えてからダイニングに向かうと、テリオンは慣れた手付きで料理を皿によそい、並べていた。テリオンが元いた世界とは文化が異なるので、一つ一つ物事を教えてきた。はじめの内は何に触るにも警戒していた彼だが、今ではだいぶ慣れてくれた。

「お待たせ、食べようか」
「ああ」

向かい合わせにテーブルにつき、食事を始める。世界が異なるということは、当然食文化も全く違う。サイラスの普段の食事は外食でまかなっていたが、テリオンからするとこちらの世界の食事は油分が多くて味が濃すぎるらしい。あまりに彼の食指が動かないので心配になり、最終的には食材だけサイラスが用意し、調理を任せることにした。
鶏肉と野菜を炒め、塩で味付けされた料理を口に運ぶ。少し薄味にも感じるが、できたての料理を温かいまま食べられる喜びは、刺激の物足りなさを優に上回った。

「うん、美味しいよ。今日は何か困ったことはなかったかい?」
「そうだな……あれを観ていたが、ここは俺の元いたところと違いすぎることしか分からなかった」

そう言って、今は電源が消えているテレビを指差す。幸いだったのは、彼がサイラスと同じ言語を解せることであった。こうして会話ができるだけではなく、読み書きも問題ないようだ。

「ふむ……。キミにある程度こちらの世界の知識がついたら、一緒に外に出て帰る方法を探そう」
「ああ。だが……全く手掛かりがないと、どうにもならんだろうな」
「そうだね。こちらに来る直前のことは覚えていないのだったね?」

テリオンはスープを口に含んで、頷く。異世界に来た衝撃のせいか、記憶の一部が不自然に欠けていると彼は話していた。はっきりと覚えているのは前の晩までのこと、そして途切れた記憶の中で一瞬、自分の体に焼けるような鋭い痛みが走ったことだけだという。
彼の記憶が戻れば解決の糸口も見出だせるだろうが、必ずしも思い出せるとは限らない。結局次の一手については保留のまま食事を終え、二人で台所に並び立ち食器を片付けた。

先にサイラスがシャワーを浴び、交代でテリオンも身を清めた。テリオンはサイラスが与えたシャツと膝下までのハーフパンツを履き、髪を拭きながらバスルームから出てきた。

「ふふ、乾かしてあげようか?」
「いらん」

素っ気なく答え、ソファーに座るサイラスの隣に腰を下ろす。初めてドライヤーを使ってみせた時の音に彼は酷く驚いたらしく、それ以降は触りもしない。湯上がりで頬を上気させた姿に胸が擽られ、誤魔化すように目を逸らした。

「いつもソファーで寝ていると、体が痛くならないかい? たまには交代しようか」
「ここで十分だ。外よりはずっとよく休める」
……キミは普段、どうやって休息を取っていたのだい?」
「色々とな」

一人暮らしのサイラスの家には当然、ベッドも一つしかない。はじめは彼をベッドに寝かせて自分はソファーで休むつもりだったが、却下されてしまった。
なるべく不便がないようにと気を回しているが、サイラスの知るテリオンと同じく、彼はあまり多くを語らない。サイラスも家族以外の誰かと暮らすことは初めてで、上手くやれているかどうかあまり自信がなかった。するとテリオンはタオルを首にかけ、呟くように言った。

……あんたには感謝している。こうして厄介者の面倒を見るのは、金も時間もかかるだろ」
「そんなことは気にしなくていいんだよ。寧ろ、家事を手伝ってもらって、私の方が助かっているぐらいだ」
「これぐらいじゃ恩を返せたことにならん。……何か俺にできることはないか? 少しでも、あんたに報いたい」

じっと見つめてそう言われると、真剣な眼差しに吸い込まれてしまいそうになる。テリオンの瞳は綺麗だ。気高く美しいエメラルドグリーンの宝石に、サイラスは出会った時からずっと心酔しているのだ。
普段だったら流してしまうような問いかけだったが、恋しい人に瓜二つの人物が自宅にいるという非日常的な状況に、サイラスの頭はすっかりのぼせ上がっていた。甘い石鹸の香りに酔わされるように、気づけば邪な願望を口に出していた。

「では……抱き締めて、ほしい」
……
「あ、ええと。すまない……忘れてくれ」

とんでもないことを言ってしまったという羞恥心が遅れてやって来て、汗顔した。抱き合うだけなら友人同士でも行うことだが、それを乞い願うことはもう友情の域を超えている。ばつが悪くて立ち去ろうとしたサイラスの手を、テリオンが捕まえた。

「逃げるな、サイラス」
「あっ……

手首を引っ張られたかと思うと、そのまま彼の胸に迎え入れられていた。半袖から伸びたたくましい腕が背中に回り、薄い寝間着を隔てて二人の体が重なり合う。硬直しているサイラスの背中を擦り、彼は小さく笑った。

……心臓の音、すごいな」
「う、……すまない……
「悪いとは言ってないだろ」

ぎゅうと抱き締められると心臓まで握り潰されたように苦しくなる。細い白髪に頬を擽られ、これは夢ではないとまざまざと思い知らされる。こんな幸福、許されていいのだろうか。だがこんなことは、テリオンにも、そして彼にも失礼なのでは――ようやく戻ってきた理性がそう思い至った時、ぐっと体重をかけられた。

「え」

背中がソファーに付き、テリオンの頭越しに電灯を見上げる。突然のことに目を白黒させていると、節くれ立った指に首筋を撫でられた。ぞく、と腰の奥に走った痺れに、吐息が乱れる。

「な、に……?」
……もし、俺の世界で『サイラス』が同じことを言ったら」

彼の指先が喉元を撫で上げ顎をなぞり、そしてサイラスの唇に触れる。ゆっくりと顔を寄せてくるのを、呆然と――そして無意識に、期待を込めて見上げていた。

「抱きしめるだけじゃ、離してやれない」

そう囁かれた直後、唇同士が重なった。反射で閉じてしまった瞼をそろりと開くと、テリオンの瞳に自分の間抜けな顔が映り込んでいた。

「キミ……どうして、こんな……んむっ」

開いた唇に濡れたものが割り込んでくる。ぬるりと歯の裏をなぞるそれが彼の舌だと気付いた瞬間、緊張で指先を強く握り込んだ。歯列を確かめるように口内を這ったかと思うと、今度は舌先で上顎を擽る。

「ん、っふ…………

頭の芯がじんと痺れて、感じたことのない快さに体が熱を持つ。縮こまった舌に彼のそれが触れ、身を竦めた。するとテリオンは一旦顔を離し、額を合わせてサイラスの目を覗き込む。

「嫌か?」
「い……嫌ではない、が……だめだよ、こんなこと……
「何故? あんたは『テリオン』が好きなんだろ」
……!」

見透かされていたとは思わず、言葉を失った。その隙にテリオンの手が寝巻きの裾から潜り込み、脇腹を直に撫でる。節くれ立った指の感触と温度に息を呑んだ。もしも、この手に全身を撫で回されたらどんな心地になるだろう。歪に膨らんだ感情が、妄想を掻き立てる。

「キスより先も、してみたくないか?」

テリオンがこんな風にサイラスに触れてくれる可能性など、万に一つもない。この機会を逃せば一生知らないまま、夢見るままで終わる。
初めて触れたテリオンの体温に頭が煮えて、冷静な判断ができずにいた。拒絶はできないが、是とも言えないサイラスを見下ろし、彼は再び唇を寄せてくる。軽く上唇に吸い付いて音を立てた。

「あ……
「悪い話じゃないだろ。あんたはそのまま寝てるだけでいい……
「っでも……
「素直になれよ、学者先生」

頬を撫でられながら、また唇を重ねる。柔らかくて熱い舌がサイラスの口内の隅々まで舐り、舌を絡め取る。粘膜を擦り合わされて生じる熱に、下腹部が疼いた。音を立てて舌を舐められながら、耳の裏を撫でられると思考に靄がかかる。きっかけを作ったのはサイラスだが、他ならぬテリオン自身が提案しているのだから、このまま流されてしまってもいいのではないか――自分の中にいる悪魔が、そう囁いた。

「っは、ン…………

抵抗をやめて受け容れると、彼のことをもっと近くに感じた。頬にかかる吐息が擽ったくて、小さく身動ぐ。

「そう……いい子だ」

にやりと笑う彼は、やはりサイラスの好きな人と重なって見えた。寝間着のボタンが外され、日に焼けた手が胸元を弄る。朧気な感覚がはっきりと色を帯びようとしていたその時、無造作に机に置いていたスマートフォンが鳴った。横目でディスプレイの表示を見て、咄嗟に自分でも驚くほどの力で目の前の男を押し退け、スマートフォンを取った。

「もしもしっ」
『何度も悪い。今いいか?』
「もちろんだよ、テリオン……っいた、」
『おい、すごい音がしたぞ』
「だ、大丈夫。それで? 急ぎの用事かい?」

転がるようにソファーから落ち、腰を強かに打ち付けた。テリオンの呆れた声に平静を装って返答しながら、逃げるように彼に背を向けた。

『急いでる訳じゃないが……今度、飯でも行こうかって話してたろ』
「ああ、覚えていてくれたんだね……

仲間達と練習している時にした、他愛もない会話だった。サイラスが勤める大学の近くに新しくカフェができて、アップルパイが美味いと評判だ、と話すと、テリオンが興味を示したのだ。気になるなら一緒に食べに行こうと言って会話は終わっていたが、まさかテリオンの方から提案してくれるとは思わなかった。
一瞬浮足立ったが、背中に視線を感じてはっと口を噤む。――テリオンと出掛けたいのは山々だが、彼を一人で家に置いておくのは心配だ。

……せっかくキミから申し出てくれたのだが、すまない。少し仕事が立て込んでいて、暫く外食は控えようと思っているんだ。また時間ができたら私の方から連絡するよ」
……そうか、分かった』
「用件はそれだけかい?」
『ああ。……じゃあ』
「うん。おやすみ、テリオン」

そう言うと、少しだけ間を置いて、無言のまま通話が切れた。ツー、ツー、と無機質な音しか発さなくなったスマートフォンの画面を消し、ゆっくりと振り返る。彼はつまらなそうな顔でソファーの背もたれに肘をついて、サイラスを見ていた。長く息を吐き、喉奥から声を絞り出す。

……申し訳ない。私から言い出したことだが、やはり……できない」
「そうみたいだな。あんたのテリオンは、そいつだけらしい」
……
「俺の方こそ、悪ふざけが過ぎた。謝る」

なんと返答したらいいか分からず、曖昧に首を横に振る。テリオンはため息をつくと、ソファーにかけてあった毛布を広げて横になった。

「今日はもう休む」
……そうだね。電気を消すよ」
「ああ。おやすみ、サイラス」
……おやすみ」

壁のスイッチを押し、リビングの電気を消して寝室へ向かう。――どうしても、彼に向かって名前を呼べずにいた。痛いほど早鐘を打つ胸に手を置き、深く息を吐いた。




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