雪華
2023-04-17 22:44:08
1984文字
Public オルサイ
 

【オルサイ】傷痕

最中の描写はありませんが思いっきり事後です。※サ4章ネタバレあり。 頂いたお題をもとに書きましたが、そもそもお題が良すぎて、ほぼそのまんまになってしまいました🤪

色恋沙汰というのは、自分にとってどこか他人事のようだった。友人や家族へ親しい気持ちを感じることはあったが、恋情とは全く異なるとも理解していた。

しかしある人物との出会いで、サイラスは当事者として恋心を知るに至った。それは甘やかでありながら、時折酷く胸を締め付ける切なさを併せ持っていた。サイラスに恋とはなんたるものかと知らしめたそのひと――オルベリクはいつも優しくサイラスを導いてくれる。好意の伝え方も、肌の触れ合わせ方も、全て彼が教えてくれた。

「大丈夫か?」
「うん……
「休んでいいんだぞ」

汗を拭いてもらって、互いに下着一枚身に付けただけで寝台に座り、寄り添っていた。
情交の後は心身共に倦怠感に包まれるため、早々に眠りたい気持ちは確かにある。しかしサイラスは、人目を憚らず恋人に甘えられるこの時間を好んでいた。

「もう少しこのままでいるか?」

頷くと、髪を撫でられ頭頂部にキスをされた。お返しに鍛え上げられた腕を撫でおろし、節くれ立った手に指を絡めた。
素肌の温かさを堪能しながら見上げると、柔和な眼差しと視線が交わる。互いに笑みを浮かべたとき、ふと視界に映ったものに違和感を抱いて眉を顰めた。

「おや……
「どうした?」
「この傷痕は……いつ付いたものだろう」

オルベリクの左肩口に真新しい傷ができていた。もう何度もこうして彼の体を見ているから、それが最近負ったものだということは間違いない。するとオルベリクはばつの悪そうな表情で視線を泳がせる。

……大したことはない。出血もさほどではなかった」
「そうかな……いや、待ってくれ。ここは……

浮ついていた思考が急激に巡り始める。傷痕の位置には心当たりがあった。――あれは草木が鬱蒼と茂る遺跡内でのこと。天井の隙間から日差しが降り注ぐ中、人ならざるものに転化したルシアと対峙した時だ。暴れ狂う彼女を前にしてもオルベリクは一歩も退かず、その巨躯を盾とするように立ち塞がっていた。

「ダスクバロウで……ルシア君と戦った時の傷だね」
……

実直で誠実なオルベリクは、その場凌ぎの嘘を吐くことはない。しかし肯定もし辛かったのだろう、沈黙が何よりの答えであった。
指先でそっと傷口の傍を撫でる。鋭い爪が皮膚を切り裂き、肉を抉ったのだ。オルベリクは苦痛を訴えはしないが、痛みというものは何度繰り返しても慣れることはない。サイラスの戦いに巻き込んだばかりに愛しい人の体に傷をつけたという事実が、ずしりと重たく伸し掛かかった。

「すまない。……私のせいだ」
「それは違う。お前の責任ではない、気に病むことはない」
「だが、オフィーリアくんの回復魔法をかけてもなお痕になっている。このまま一生残ってしまうかもしれない……
「構わん。これは、俺が騎士としてお前や仲間達を守った証だ。後悔も恥もない」

一欠片の躊躇もなく、オルベリクはそう言い切った。取り繕うような様子はなく、晴れやかな面持ちであった。そしてその言葉に、己の浅慮さを悟る。これしきの疵が彼の矜持を汚すはずなどなかったのだ。

「お前と共に歩み、守れたのだ。寧ろ誇らしいとすら思っている」
「オルベリク……

繋いだ手に力が籠もった。自分を顧みずに誰かのために身を投げ打てる、そういうオルベリクだからこそ好きになった。心配する気持ちはもちろんあるが、オルベリクが本心からそう言ってくれるのなら、謝罪を返すのは失礼に当たるだろう。長く息を吐き、強張っていた頬を緩めた。

……ありがとう。あなたが居てくれたから、私は歩みを止めずにいられた」
「それでいいんだ。俺が剣となり、お前の道を拓こう。そして俺が迷った時には、お前が導いてくれ」
「もちろんだよ。私でできることなら、何でもするさ」

サイラスはオルベリクのように体を張ることは苦手だが、代わりに積み上げてきた膨大な知識がある。騎士と学者では得手不得手が噛み合わないからこそ、支え合うことで困難を突破し、新たな局面へ向かえるはずだ。

……あなたは本当に格好良いね。ますます好きになってしまいそうだ」
「それはいいな」
「しかし……私ばかり好きになってしまうのは、少し寂しいかな?」

たくましい肩に頭を預け、少々子供じみたことを言ってみる。好意の大きさを計ることに意味などないが、同じだけの愛を返されたいと思うのが人の性だろう。

「心配するな。俺の方こそ、毎日惚れ直しているくらいだ」
「本当に?」
「俺は嘘は言えん」

知っている。今のはただ、照れ隠しで問い返しただけだ。
オルベリクはそれ以上は何も言わずに、サイラスの赤らんだ頬をなぞる。子猫を慈しむように喉元を擽られて顔を上向けた。ゆっくりと覆い被さってくる男の首に腕を回し、愛し合う歓びを享受した。





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