ふと、目が覚めた。カーテンの隙間から薄明かりが差し込み、家具の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせている。しんと静かで、冷えた早朝の空気が室内に満ちていた。
(……珍しいこともあるものだ)
同衾した恋人より先に目を覚ますのは、初めてであった。普段なら、共寝をした朝は彼のほうが早く起きて支度をしている。
無防備に眠るテリオンの顔をまじまじと見つめる。盗賊を生業とする彼は所作がとても静かで、それは眠っている時も変わらない。思わず、きちんと呼吸をしているのかと疑い、寝息に耳を澄ませてしまった。
(こうしていると、可愛いね)
あどけない寝姿につい頬が緩む。昨晩、獣のようにサイラスを貪り食った男と同一人物とは思えない。抑えきれない劣情を燃やして頬を紅潮させるさまも素敵だが、こうして年相応な姿を見ることも好きだ。
物音を立てないようにゆっくりと手を持ち上げ、柔らかな髪に差し込む。反応がないのを良いことに、優しく頭を撫でた。
「……キミはこんなに綺麗なのに、どうして私なのだろうね」
サイラスの胸に温かな炎を灯したひとと、こうして結ばれたことは喜ばしい。ただ、それと同時に、未来ある若者を自分勝手に縛り付けているのではないかとも思う。好きだから傍にいたいのに、同じ理由で自由であって欲しいとも願ってしまう。恋情とは複雑な思考が絡み合った糸の塊のようで、自分自身でも制御が利かない。
「大好きだよ。……おやすみ」
目元の傷に口付けて、下ろしかけた手を――突然掴まれた。あ、と声を出した時にはもう翠眼がこちらを見ていて、唇を奪われていた。
「っ起きて……いたんだね」
「ああ」
「それならそうと、言ってくれれば良かったのに」
「寝込みを襲ってくれるものだと思って、待っていたんだがな」
そう言うとテリオンは体を起こし、掴んだサイラスの手をシーツに縫い止めるように覆い被さってきた。シャツの合わせ目から覗く引き締まった身体に、つい目が離せなくなってしまう。数時間前まで五感全てを使ってその身体を堪能していたというのに、まだ飽き足りない自分は本当にどうしようもない。
「……もう直、みんな起きてくる時間だよ」
「あんたが静かにしてればいいだろ」
「ええ……?」
首筋をさすられ、擽ったくて笑みがこぼれた。困惑げな声を上げるだけで拒絶する気配がないことを察すると、テリオンの手は更に大胆になる。寝間着の裾から手を差し込み、サイラスの脇腹を指でなぞりながら、彼は僅かに唇を尖らせてみせた。
「……何度も言ってあるだろ、俺はあんたに惚れてるんだ。理由も何もあったもんじゃない」
「……うん」
「あんまり意地の悪いことを言うと、拗ねるぞ」
「はは、そうだね。ごめん」
もう拗ねているのでは、という野暮な指摘は飲み込み、拘束された手とは反対側のそれで再び彼の頭を撫でる。自信がない自分を、テリオンはこんなにもまっすぐに愛してくれる。怒るだけではサイラスには効果がないと、態と子供らしい顔で気を引こうとするところもまた愛おしくて仕方がない。
「口先だけの謝罪は要らん」
「はいはい。じゃあお詫びに、温めてあげようか」
「そう来ないとな」
テリオンの首に抱き着き、頬にキスを贈る。冷え込む朝でも、素肌を重ねればすぐに汗ばむほど熱を持ったのだった。
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