雪華
2022-10-27 23:23:46
3641文字
Public オルサイ
 

【オルサイ】「おいで」【現パロ】

祝・あさきさんのオルサイフォルダ200🎉ということでいつもありがとうございますの気持ちで、先日のお膝ぽんぽんするオルのイラストをイメージしたオルサイを書きました。二人はイチャイチャしてるだけ!!

片手に買い物袋を提げ、もう片手で自宅の鍵を取り出して差し込む。サイラスがこの春に越してきたマンションは、まだ新しくて綺麗だ。職場からも近い上、以前住んでいた部屋よりも広いから気に入っている。

「ただいま……っと」

扉を開け、無人の室内に入る。明かりをつけて壁掛時計に視線を遣ると、思っていたより早い時間だった。秋の日は釣瓶落としとはよく言ったもので、いつまでも夏の気分のままでいると時間感覚がずれてしまう。
買い物袋をダイニングテーブルに置き、コートを脱いで自室へ向かう。サイラスがここに引っ越してきた理由は幾つか挙げられるが、決定打となったのは恋人から『一緒に暮らさないか』と提案されたことだった。五歳年上の恋人であるオルベリクとは仕事も趣味も異なるが、共に過ごす時間は楽しく、心が安らぐ。迷うことなく首を縦に振り、こうして新居に移り住んだというわけだ。

(さて、予定より時間があるな。今の間に掃除でもしてしまおうか)

考えながらジャケットを肩から落とし、ハンガーに掛ける。最近は多忙で帰りが遅くなりがちだったが、今日はオルベリクも残業だと聞いたので、意識して仕事を早めに切り上げてきたのだ。
二人が同棲する時に決めた数少ないルールで、家事は手が空いている方がすることになっている。決してそれを盾にしている訳ではないが、ここのところ仕事を言い訳に家事の大半をオルベリクに任せきりにしてしまってた。オルベリクは優しいのでそんな状態でも何も言わないどころか、寧ろサイラスのことを気遣って、時には大学まで迎えに来てくれることすらある。
大事にされていることが伝わってくるのは嬉しいが、そのぬるま湯に浸っていてはいけないと思う。今日こそは、温かい食事を用意して彼を出迎えたかった。

「まずは風呂掃除でも……

頭の中で段取りをしながら手帳を捲ったとき、はたと仕事のことを思い出した。そういえば、書類を一つ作成し忘れていた。複雑なものではないが、気になってしまうから先に片付けてしまおう。そう思いながら机に向かい、ノートパソコンを開いた。



――サイラス」
「わっ」

突然肩に手を置かれ、ぷつりと集中の糸が切れた。身を竦めて振り返ると、僅かに困ったような顔をしたオルベリクが傍に立っていた。鍛え上げた筋肉を隠すようにスーツを纏っているが、盛り上がった胸筋や二の腕の太さはシャツ越しでも見て取れるため、却って魅力が増しているように感じる。

「ああ、驚いた……。おかえりなさい、予定より早かったね」
「ただいま。いや、早くはないと思うが……
「ん? ……あっ」

時計を見て、つい声が出てしまった。既に時刻は二十一時近い――仕事を始めたらつい、あれもこれも気になって没頭してしまっていたのだ。今日は自分が食事の支度をすると言ってあったのに、これではオルベリクが困惑するのも当然だろう。

「すまない、早く帰れていたのだがつい……! すぐに夕飯を作るから」
「俺は構わんが……

慌てて部屋を出ると、オルベリクも追いかけてきてジャケットを脱いでソファーに掛けた。冷蔵庫を開き、しかし思い直して閉める。まずは風呂掃除をして、オルベリクに先に入浴してもらっている間に食事の準備をするほうが効率的だ。

「先に掃除をしてくるよ。あなたは座って、ゆっくりしていて。……ああでも、もっと手早く作れるものがいいな……。代えの食材はあるだろうか」

浴室へ向かおうとして、もう一度冷蔵庫を覗きに戻る。当初作ろうとしていた料理は煮込む工程もあるから、手短に作れるものに代えた方が良いはずだ。二人で暮らすようになって少しは料理も覚えたが、咄嗟の機転が利くほど慣れてはいない。右往左往するサイラスを眺め、オルベリクはため息を付いた。

「落ち着け、サイラス」
「だが……

彼はソファーに腰を下ろすとネクタイを解き、シャツのボタンを外す。眩しいほど白いシャツから浅黒い肌が覗き、つい見惚れてしまいそうになる。同性なのに自分とは全く違う体のつくりをした彼の肉体は芸術的ですらある。尤も、その肌に触れた瞬間に湧き上がる感情は、芸術を楽しむ時のものとは程遠いが。

……はぁ、本当に申し訳ない……

今日こそは完璧に家事をしておいて挽回するつもりだったのに、結局こうなってしまった。自分に対する落胆が焦燥感に拍車をかける。流石のオルベリクも呆れたかと思うとますます落ち込んだが、サイラスの予想とは裏腹に、彼は柔らかく目を細めた。

「いいから、来い」
「え……しかし、本当にまだ何も家事が終わっていないんだ。あなたが休んでいる間に済ませるつもりでいて……
「後でいい。ほら、おいで」

ソファーに座った自分の膝を軽く叩いてみせて、サイラスを招こうとする。彼の口元には穏やかな微笑みが浮かんでいて、優しい視線は百の言葉より明確に愛を告げてくる。自らを口下手だと称するオルベリクだが、その眼差しや振る舞いで充分すぎるほど気持ちを伝えてくれる。まだ少し後ろ髪を引かれながらも、誘われるままその膝の上に座るような形でソファーに乗り上げた。

「よし、良い子だ」

頭を撫でられたかと思うと、腰に腕をしっかりと回されて抱き込まれた。――はじめは、こんなことしている場合ではないのにと腑に落ちない気分だった。しかし心地良い体温と好きな人の匂いに包まれ、二の腕をゆっくり擦られていると次第に気持ちが和んでくる。逞しい肩に頬を付けて擦り寄ると、こめかみにキスをされた。

……落ち着いたか?」
「うん……。だめだな、私は……あなたに甘えてばかりだ。支え合うために一緒にいるのに、負担を押し付けていることが心苦しいよ」
「別に負担だとは思っていないがな。……お互いに一人暮らしをしていた頃、お前は仕事が忙しくなると寝食を削って根を詰めていただろう? そういう状況を知りながら、会う時間が取れない故に何も出来ないことが心苦しかった」
……
「だが、今はこうして支えてやれて嬉しい。俺は……好奇心の赴くまま、楽しみながら前に進むお前に惚れ込んだんだ。一番近くでそれを見ていられるのだから、何一つ不満はない」

サイラスの心配をはっきりと否定した上に、熱烈な告白までされて胸が打ち震える。そんなことを言われると、ますますオルベリクのことが好きになってしまう。こんなにも頼もしくて、優しい人と恋人になれた自分は幸せ者だ。

……あなたは格好良すぎるよ。迷惑ばかりかけてしまってすまな、」

すると突然言葉を奪うように唇を重ねられ、目を白黒させた。オルベリクはどことなく意地悪い笑みを浮かべ、今度は鼻先に唇を落としてきた。

「謝罪より、別の言葉を聞かせてほしいものだ」
「ええと……仕事が落ち着いたら、私が家事を集中的に、んむ」
「もう少し」
「そう言われても困るよ。あ、それなら今月は、私の方が多く家賃を――

三度唇を奪い、オルベリクは首を横に振る。繰り返される内にだんだんと頬から耳の先まで熱が集まっていくのが分かり、居た堪れなくなってきた。闇雲に口を開くことはやめて、冷静さが残っている内に彼の言葉を脳内で反芻する。
暫し思考を巡らせていると、ようやく意図していることが見えてきた。気にしていないし謝罪は欲しくない、だからと言ってサイラスがそれを当たり前だと享受するとも彼は思っていない。そこから導き出される、本当に言わなければならない言葉とは。

……ありがとう、オルベリク。これは常々思っていることだが、あなたが支えてくれるお陰で仕事に集中できるよ」
「どういたしまして。まあ、夕飯を宅配で済ませる日があってもいいだろう」
「そうだね。ああでも、やはりあなたに負担をかけたことは悪いとは思っているから……おっと、まだ話の続きだよ」

また唇を塞がれそうになるが、今度は自分の指で押し留める。不満を隠さない表情に少し笑みをこぼして、自分からオルベリクの額にキスをした。

「来月には仕事が一段落つくんだ。そうしたら……あなたが注いでくれた分だけ、私からも愛を返すよ。だからもう少しだけ待っていてくれ」
「それは……期待していいのか?」

言葉とともに慈愛の色を浮かべていた瞳が揺らめき、獰猛な欲を孕むのが見て取れる。腰を撫でる手付きにすら彼の言う期待が込められているようで、背筋が甘く痺れた。もちろん穏やかなオルベリクは好きだが、時折垣間見せる雄の本能を滲ませた姿にサイラスは滅法弱い。

……ああ。楽しみにしていてくれ」
「そうさせてもらおう」

離れる前に再び強く抱き合って、相手の鼓動の速さを確かめる。自分のそれと同じリズムを刻む音に満足して、名残惜しみながらもオルベリクの膝から下りた。少し離れてから視線を合わせると今更ながら照れ臭くなり、誤魔化すように曖昧な笑みを浮かべた。




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