雪華
2022-10-13 22:28:51
2146文字
Public オルサイ
 

【オルサイ】きみが涙を流したら

オルサイ未満でなにかの芽生えのようなそうでもないような話。お題箱のガチャで『寒いと目元が赤くなるサイラスと、わかってても泣いてるみたいに見えて何故かハラハラするオルベリク』って出てかわいいな~と思って書きました。

見渡す限りの銀世界。身を切るほど冷たい風が吹き荒ぶフロストランド地方に、オルベリクは足を踏み入れていた。今は縁あって七人の仲間と旅をしているが、彼らは性格も長所も旅の目的も異なる。集団行動が得意な者もいればそうでない者もいるため、余裕がある時は敢えて自由時間を設けるようにしている。

――はぁっ!」

相手が突き込んできた槍を、内側から剣で弾く。取り落とされた槍は積もった雪の上に音もなく落ち、試合の結果を知らしめた。

「はあ、驚いた……。槍には自信があったんだが……あんた強いな!」
「良い試合だった。ありがとう」
「こちらこそ! 丁度良く体が温まったよ」

試合相手と握手を交わして剣を鞘に納める。一行は暫く前に街に着き、一旦解散して各々自由行動を取ることになった。オルベリクは特にやることもなかったため街の片隅で剣を振っていると、槍を携えた男に声を掛けられたのだ。男は疲労を滲ませながらも、どこか晴れやかな顔で武器を拾い、去っていった。

(さて……まだ待ち合わせには時間があるな)

このまま宛てもなく立ち竦んでいても仕方がない。宿に戻って荷の整理をするか、もしくは他に試合相手を見繕うかしよう。
考えながら歩き始めると、広場で見知った背中を見つけた。白銀に覆われた街中では、漆黒を纏う学者はやけに目立つ。サイラスはベンチに座っていて、本も開かずに市場の方を見ているようだった。

「サイラス、」

何をしているんだ、と続けようとしたが、彼の顔を見た瞬間に絶句した。白い肌は皮膚の下の血潮を透かし、鼻先や頬、そして目元を赤く染めている。鼻をすする音も相まって、一瞬――泣いているのかと思ったのだ。

「オルベリク、どうかしたかい? そんなに驚いた顔をして……
「お前……その顔……
「私の顔になにか? ん、……っくしゅ」

ぴくりと眉を寄せたかと思うと、サイラスはハンカチで口元を覆ってくしゃみをした。声色も普段と変わらない上に、よくよく見るまでもなく落涙している様子もない。長時間外にいて、単に冷えてしまったのだろう。自分の勘違いであったことにほっと胸を撫で下ろした。

「失礼。流石に体が冷えてしまったようだ」
「いや……大丈夫なら良いんだが」
「大丈夫、とは? 体調が悪そうに見えたかい」

オルベリクが深く考えずにこぼした言葉を、サイラスは丁寧に掬い取る。何故そういった発言をしたのか、どうしてそのように捉えたのか、解明するまで離してくれないところは困ったものだ。率直に伝えるのは侮蔑に当たらないかと少し思案したが、彼がそんなことで怒る人間でないことは知っていたため素直に話すことにした。

「その……目元が赤くなっているから、お前が泣いているのではないかと思ってな」
「ああ、これか……。どうも気温の変化に弱いのか、赤くなりやすいんだ。みっともないところを見せてしまったね」
「構わん。こんなところで何をしていたんだ?」
「街行く人を眺めていたんだよ。ほら、ここからなら市場も見えて楽しいだろう?」

サイラスが指で示した先には市場があり、忙しなく人の出入りが続いている。観察することが楽しいと言われても、オルベリクにはあまり理解できない感覚だ。しかしそれで彼が満足しているのなら否定することもない。

「それはいいが、程々にしておかないと風邪を引くぞ」
「そうだね、一度宿に戻るよ。あなたも一緒に来ないかい? 試合後で汗を掻いているだろう、そのままにしておくと冷えてしまうよ」
……何故それを知っている?」
「先程、槍を持った男性が汗を拭きながら通り過ぎていったのだよ。もしやと思って聞いてみたが、やはりあなたと試合をした後だったか」

推理が的中したためか嬉しそうに頷き、ようやく立ち上がった。そうして並び立って歩く道すがら、サイラスは思い出したように問うてきた。

「そういえば……もし私が本当に泣いていたら、どうするつもりだったんだい?」
「どう、と言われてもな……

そもそも、サイラスが泣く原因の想像がつかない。悲しい、悔しい、苦しい、そういったマイナスの感情を表に出すタイプではない。かといって、嬉し涙を流しそうにもない。泣く理由が分からないのなら、反応のしようがないのではなかろうか。

「涙を流す理由にもよるが……お前が慰めて欲しいと言えばそうする。原因が明確で、俺が手を貸すことで解決するのなら協力しよう」
「なるほど。つまり私次第、ということかね」
「まあ、そうなるな……。これでは及第点は貰えんかもしれんな」
「いいや。人によって採点基準は異なるだろうが、私が採点者なら満点をつけるよ」

意外な言葉に目を丸くすると、サイラスは頬を紅潮させて微笑んだ。花が開くような笑みに、胸の辺りがじんわりと熱を持つ。

「あなたらしく誠実で、思いやりのある答えだと思う。私は好きだよ」
「そ、そうか……?」
「ああ。答えてくれてありがとう」

厚い雲が碩学王の光を遮っているというのに、サイラスの瞳の煌めきがやけに眩しく感じる。宿へと向かう足取りが無意識の内に速くなったのは、心臓を擽られているような気分で落ち着かなかったからかもしれない。





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