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雪華
2022-04-12 21:43:37
3303文字
Public
オルサイ
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【オルサイ】愛されるということ【現パロ】
現パロで同棲しているオルサイです。風邪引いたオルを先生が看病する話。あさきさんのふせったー(
https://fusetter.com/tw/bj3tOURb#all
)のネタをベースに書かせてもらいました!
咳き込みながら、鉛が乗っているかのように重い体を引き摺り自宅の扉を開く。
オルベリクは体力には自信がある方だが、数年に一度はこのように体調を崩してしまう。日課で行うハードなトレーニングが免疫を落とす上に、多忙な仕事や不安定な気温が重なるせいだろう。
朝から不調は自覚していたが、今日は欠席できない会議があり出勤した。しかし結局、同僚から追い払われるように早退させられてしまった。しんと冷えた室内に息を吐き、鞄やジャケットを雑にソファーに投げ捨てる。着替えるべきだとか、その前にシャワーくらいはと頭の隅を過ぎったが、実行する気にはなれずそのまま自室に向かいベッドに横たわる。
(少し仮眠を取れば、楽になるだろう
……
)
これくらいはある意味いつものことで、慣れている。瞼を閉じる前にスマートフォンを見ると、メッセージアプリの通知が表示されていた。同棲している恋人からの連絡で、オルベリクの身を案じているような内容だった。彼は
――
サイラスは、今日は懇親会があるから遅くなると言っていた。
(大丈夫だ。一人暮らしをしていた期間の方が長いのだからな)
そう入力しようと思ったが、ぞくぞくと背筋を這う悪寒に耐えるように厚い布団を肩までかけると意識が遠のく。メッセージアプリを開いたまでは確かだが、文字を打ったのか打っていないのかも定かではない。打ち込んだような気もするし、それはリアルな夢だったのかもしれない。確かめようにも瞼が重く、気づけばスマートフォンを握りしめたまま眠りに落ちていた。
***
小さな物音にふと意識が浮上する。冷え切っていた部屋はつけた覚えのない空調によって温められ、卵のような形をした加湿器が白い煙を噴いていた。薄らと明るい室内をぼんやりと眺めていると寝台が僅かに沈み、サイラスに顔を覗き込まれた。
「目が覚めたようだね。気分はどうだい?」
「サイラス
……
いま、何時だ」
「十七時を少し過ぎた頃かな。熱は計ったかい?」
「いや。そうか
……
お前の仕事の邪魔を、してしまったな
……
」
体を起こして体温計を受け取りながら、呻くように呟く。己の体調管理が原因で年下の恋人の仕事に支障をきたしてしまうとは、情けないにも程がある。脇の下で検温してみると、体温は三十七度台中頃だった。サイラスに体温計を渡すと、そのまま彼が表示を確かめる。
「気にすることはないよ。懇親会とは建前の飲み会のようなもので、元々気は進まなかったんだ。とりあえず水分を摂るといい」
「
……
すまん」
スポーツドリンクのペットボトルを、サイラスは態々キャップを開けて渡してくる。流石にそこまで弱ってはいないのだが、揺れる液体を見ていると喉の渇きに気がついたため指摘は中身とともに飲み込んだ。常温のそれが却って飲みやすく、熱を持った体に染み渡るようだった。
「
……
はぁ。俺も説明不足だったが、こうして寝込むことはたまにあるんだ
……
。今までも一人でやって来れたから、そう心配することでもない。早退までさせてしまって悪かったな」
「謝らないでくれ、オルベリク。これまではそうだったかもしれないけれど、今は私がいるのだから孤独に耐える必要はないよ」
「だが、お前も仕事上の付き合いだって
……
」
「あなたより優先することなど何もない。私達は家族で、人生を共にするパートナーなのだから、どんな些細なことでも助け合うのは当然だろう?」
オルベリクの言葉をはっきりと否定しながらも、その声色には慈しむような優しさが滲んでいる。彼の紡ぐ言葉は鈍った脳にじんわり広がり、胸の辺りを発熱とは別の温もりで包み込んだ。
オルベリクは両親を早くに亡くし、大抵のことは独りでこなしてきた。苦しい時も、辛い時もあったが、頼る相手がいない以上は自分自身の力で乗り越えるしかない。それが当たり前だと思っていたが、今は違う。柔らかな笑みを浮かべるサイラスを守りたいと思うと同時に、オルベリクもまた彼に守られているのか。
「サイラス。
……
ありがとう」
「ふふ、謝罪よりはそう言ってもらえた方がずっと嬉しいよ。いい機会だから、あなたも存分に私に甘えるといい」
「
……
そうだな」
サイラスは目を細めると、オルベリクの汗ばんだ額にキスをした。肉体的には楽な状態ではないが、精神的には一気に安らいだように思う。自分の強みも弱みも全て受け容れて愛してくれる人が、苦しい時に傍に居てくれることは至上の幸福に違いなかった。
それからサイラスは、辿々しいながらもつきっきりで看病してくれた。彼なりに考えて買ってきたらしい熱冷まし用の冷却シートは、ほんの僅かであるが斜めに貼られていた。レトルトの雑炊を出されたがスプーンがオルベリクの手に渡ることはなく、雛鳥の餌付けのように食べさせられたのには少々困ったが、サイラスが真剣な顔だったので素直に従った。
「少し早いけど、そろそろ寝ようか。眠れそうかい?」
「ああ。薬が効いてきた
……
」
「それは良かった。傍にいるから、夜中でも何かあれば遠慮なく起こしてくれ」
横になったオルベリクを、サイラスはベッド脇に膝をついて見下ろしている。普段は自分の方が目線が高いから、見下ろされているのは新鮮だ。いつもと違う角度で見ても相変わらず彼の相貌は秀麗だ。暫し目を奪われていたが、はたと思い直してかぶりを振る。
「いや
……
。看病させた上に移してしまったら、流石に申し訳が立たん。悪いが今日は自分の部屋で休んでくれないか
……
?」
普段はこの寝室で、というよりは同じベッドで眠ったりそれ以外のことをする二人だが、サイラスの自室にはソファーベッドがある。繁忙期で互いの生活リズムがずれた時は一時的に別々に眠ることもあるから、そうおかしなことでもない。しかしサイラスは眉を下げ、オルベリクの手を両手で握った。
「そうすべきだと頭では分かっているが、こんな時だからこそあなたの傍を離れがたいよ」
「サイラス
……
」
「あなたの言う通り、大袈裟にすることはないと理解していても不安なんだ。
……
これが、人を愛するということなのかな」
いつもは温かいサイラスの手が、今は少し冷たく感じる。オルベリクの方が体温が高いからだろうが、その温度の低さは彼の怖気を表しているようにも思えた。一人きりでも真っ直ぐ立ち、己の信念に基づいて前に進めるサイラスをこうも弱らせるのが自分であることに、悪いと思いながらも優越感を抱いてしまう。体調が万全であればきつく抱き締めたかった。
「
……
そうかも、しれんな。では、お前の言葉に甘えさせてもらうとしよう」
「ああ。何も心配は要らないよ、ゆっくり休んでくれ」
サイラスは柔らかく微笑み、握っていたオルベリクの手を下ろすと布団をかけてくれた。そんな些細なことからも、気遣いや愛情が伝わってくる。もう一度名前を呼ぶと、彼は目を細めて応えた。
「眠る前に
……
キスが、したい」
「いいよ」
何の躊躇いもなく頷き、端正な顔がオルベリクの頭上に影を落とす。絹のような黒髪がさらりと流れ、それを耳にかける仕草すら見惚れるほど優雅で美しい。そのまま唇同士を
――
と思ったが、寸前で位置をずらされ頬にキスをされた。
「
……
そっちか」
「ふふ、これ以上は元気になってからだよ」
我ながら笑えるほど残念そうな声を出すと、彼はいたずらっぽく目を細めて笑った。ふうと息を吐くと、次第に指の先から脱力してゆく。
「
……
早く、たくさんキスして欲しいものだね?」
「煽るな
……
眠れなく、なる
……
」
そう言いながらも徐々に瞼は重くなる。微睡みに呑まれながら、考えるのはやはりサイラスのことで。調子が戻ったらこの健気な恋人をどう可愛がってやろうか。些細なわがままも何もかもを叶えて、うんと甘やかしてやりたい。そう考えている内に、ふっと全身の力が抜けた。
「おやすみ。
……
いい夢を」
既に夢に片足を突っ込んでいたものだから、唇に触れた柔らかな感触が現実かどうかも分からず
――
。オルベリクはそのまま穏やかな眠りについた。
***
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