雪華
2022-01-25 21:12:46
2356文字
Public テリサイ
 

【テリサイ】いつかの面影

※テレーズのトラストネタバレ、あと秘技の塔関係の追憶の書のネタちょっと。テリとテレーズが覇者軸で顔見知りになってたらという妄想のテリサイ未満で、Switch版本編始まってすぐくらいの時間軸の話です。副題は『こんなこと思ってるけど100日後に付き合うテリサイ』です。

机に肘を付くと、忌々しい罪人の腕輪が擦れて小さな金属音を立てる。
秘宝を求めてレイヴァース家に忍び込み、その先で対峙した執事に一杯食わされてこのざまだ。盗みを失敗した間抜けの証であるそれを外すため、テリオンは渋々竜石とやらを探す旅に出たのだった。そしてその旅立ちの時、テリオンは一人ではなかった。

「ああ、もうお腹ぺこぺこだわ~……早く何か注文しましょ」
「今日もたくさん歩きましたからね。でも旅をはじめたばかりの頃よりは、歩くことにも慣れたように思います」
「そうだな。旅慣れていない面々もいるだろうが、思っていたよりよく付いてきてくれている」
「ふふ、足腰が強くないと踊子はやっていけないもの。とりあえず、適当に注文しておいていいかしら?」

丸テーブルをぐるりと囲うように、自分を含めた男女八人が座っている。はじめはこんなに大所帯ではなかったのだが、同行者が様々な厄介事に首を突っ込みたがったせいであれよあれという間に人数が膨らんだ。問題の男はメニューを眺めたり、酒場内を物珍しそうに観察している。
テリオンと旅立ちを共にした男――サイラスは随分と変わったやつだった。アトラスダムで学者をしていたらしく、レイヴァース家の秘宝に興味があるとテリオンに付いてきたのだ。どうせ付いてこられないだろうと高をくくっていたが、予想外にテリオンに後れを取らなかった。そして彼は腕輪のことは自分にも責任があると宣い、こうして連れ立っているというわけである。

「はいよ! ご注文の鶏の香草焼き、ナッツサラダ、バゲット――
「わあ、いい匂い~美味しそう!」
「へえ、変わったスパイスの匂いだな」
「いつも思うが、八人分の食事となると圧巻の量だね」

各々好き勝手に喋っているうちに、温かい食事がテーブルの上に次々に並べられてゆく。テリオンがこうしてまともな食事を口にできるようになったのは、ある程度盗賊としての腕を身に着けてからだ。それまでのことは語りたくはないが、決して忘れることはないだろう。
神官であるオフィーリアが祈りを捧げ、食事を始める。テリオンは一度もその祈りに加わったことはないが、咎められることはなかった。色とりどりの野菜が入ったスープは、旅人たちに一時の安らぎを与えた。

「そういえば、サイラス先生はみんなが旅立つところを見てきたのよね?」
「ああ、そうなるかな。理由は様々だが、こうして旅路を共にして、同じ食事を取っていると思うと不思議なものだね」
「これも縁というものなのだろうな」
「あっ! そういや俺、なんで先生が旅してるか聞いたことなかったなー……
「おや、話していなかったかな」

旅立ちに立ち会う者が増えれば自然と情報は共有されるが、稀にそこから漏れる者もいる。アーフェンがぽんと手を打ち、サイラスが首を傾げた。サイラスが旅をしている理由については、いつだったかプリムロゼ辺りと話しているのを聞いたことがあった。辺獄の書を探すという目的はあるが、その発端となったのは家庭教師をしていた王女と親しい仲になっていると噂が立ったかららしい。
サイラスはテリオンが知っている通りの情報を、優雅な手付きで食事を取りながら話した。たまに話が長くなるところは厄介だが、教師をしていたというサイラスの話は基本的には明快で聞き取りやすい。

「へ、へえ……そりゃ大変だったな」
「生徒の勉学への熱意を見誤ってしまったんだ。いや、大変反省しているよ」
「その上先生がこの調子かよ……。可哀想にな、その子も……名前なんて言うんだっけ?」
「ああ、その子はテレーズ君といって――
「テレーズ?」

その瞬間さっと七対の目がテリオンに向き、口を挟んだことを後悔した。黙ろうかと思ったが、ロイヤルブルーの瞳が好奇心に輝いているのを見て、仕方なく思い当たる節を話す。変に有る事無い事を探られるよりはましだと判断したのだ。

……そいつはテレーズ・シャモート嬢で合ってるか?」
「ああ、そうだよ。よく分かったね、もしや彼女と面識があるのかい?」
「いや。……シャモート家と言えば盗賊の界隈でも有名だからな」
「そういえば以前、シャモート家の家宝を盗まれたという話があったな。二年、いや三年前か……その時は街の衛兵ではなく、とある旅人たちが取り戻したそうだが……
「さて、知らんな」

自分はその件には関わっていないが、確か旅団の義賊連中が噛んでいたはずだ。そのうちに家宝という言葉に反応したトレサとサイラスが美術品について語り始めたので、内心胸を撫で下ろして食事を再開した。

(まさかあいつが、そんな事件を起こしていたとはな……

テレーズには一度、手を貸してやったことがある。貴族の令嬢ということもありかなり世間知らずで、はじめはどこか受動的な態度だったが、友人が危険に晒されていると知ると予想外の行動力を見せたことを覚えている。しかしまさか、恋をした挙げ句にそのようなトラブルを起こしているとは想像もしなかった。
三年という月日の長さを改めて感じ、テリオンは静かにため息をついた。あっという間だった気がするが、少女が女になるには充分な時間だったらしい。

……そんなにこの男がいいもんかね)

いくら修道院に入るつもりで恋愛耐性がなかったとはいえ、そうも夢中になれるものか。機嫌良さげに笑みを浮かべる横顔を眺め、柔らかな口調で語る声に耳を傾ける。サイラスは確かに同性から見ても容姿端麗と言えるが、盲目的になるほどとは思えない。ひとり、少女の初恋を鼻で笑った。
――まさかこの時のテリオンは知る由もない。縁のある少女と同じ相手に恋をして、最終的には手中に収めてしまうなどとは、夢にも思わなかった。




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