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雪華
2021-11-14 21:03:31
2257文字
Public
テリサイ
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【テリサイ】秋空
sakuさんと書き出し交換をさせていただきました!書き出しのお題は季節感と、先生からキスをするというものでした。お付き合いしてるけどまだ一線超えてないテリサイです。
晴れ渡る空が広がっていた。
夏よりは淡く、冬よりは鮮やかで。フラットランドの秋の空というのは、何ものにも例えようのない青さをしている。そして天頂へ向かうにつれ徐々に濃くなるその色の上に、真綿を広げたように薄く広がる雲がつくる模様。それらがゆっくりと形を変えるので、ただ眺めていても案外面白味があるなとテリオンは思った。こうして仰向けになっていると、その色に吸い込まれそうだ。背中に当たる草の刺々しい感触も、薄汚い下町の路地裏で明かした夜の石畳の冷たさと比べれば随分と優しい。
そうは言っても、ずっとこうしているのも飽きが来る。そろそろ退屈さを感じてきた。
このどうしてか目を惹く空の色は、この時期の暦を司る女神
――
ステオーラが夜の間に置き忘れた衣なのだと謳った詩人が、いたとかいないとか。ふと、前にサイラスからそんな話を聴いたことを思い出した。
ゆっくりと頭を動かして、近くにいる筈のその姿を探す。そう遠くはないが手を伸ばしても届かないほどの距離にある大樹に、サイラスは背をあずけるように座り、読書をしていた。俯き加減の横顔はあいも変わらず整っていて、丁寧に頁を捲る指先も含めて一つの芸術品のようにも見える。
(
……
こうしていると、静かなもんだな)
話し好き、かつ他人の胸中を推し量ることを好むサイラスは、一度口を開けばそれはよく喋る。そんな彼が口を噤むのは本を読む時と眠っている時くらいだろうか。もしもテリオンがそう口にしたら、きっと大真面目な顔で他にもあると例を挙げてみせるのだろう。
サイラスはテリオンの視線に気付くことなく、殆ど同じ姿勢を保ったままでいる。美しいひとだ。外見はもちろんだが、何よりもその胸に宿っている情熱や覚悟が、テリオンには手にし難いものだから余計にそう思うのだろう。日銭を稼ぎその日暮らしを続けていたテリオンにとって、彼の『未来へ繫ぐ』という考え方はあまりにも異質で、眩しい。
「
……
ん?」
その時、ふとサイラスが視線を上げた。何の気もないのを装って、瞬きの後にゆっくりと目を逸らしてみせたが誤魔化せなかったようだ。さくさくと草を踏みしめる音が近付いて、傍で止まる。サイラスは隣に腰を下ろすと、他の仲間達に届かないように普段より声を潜めて問うた。
「視線に気取られるなど、キミらしくもない。何か気がかりなことでもあるのかい?」
「別に」
本に集中しているサイラスが気付くとは思わなかっただけだ。そう言おうとして、やめた。悟られないと踏んで眺めいっていたと白状するようなものだからだ。
秋空を切り取ったような色の瞳がテリオンを見下ろしている。ステオーラの瞳よりなお純美で、澄み切っているそれは自分が惚れ込んだもののひとつだ。空とは違い曇ることを知らない、碩学王の輝きを宿したそれに熱心に見つめられるのは悪い気はしない。
「ふむ
……
顔色は悪くないし、寝不足というわけではなさそうだ」
この男は、恋人を見つめるのに理由が必要だとでも考えているのだろうか。そう言ってやらないテリオンも意地が悪いのかもしれないが、それにしてもサイラスは鈍すぎる。決して今に始まったことではないが、度々手を焼かされているのも事実。
彼が抱く空を曇らせたいとは思わないが、雨が降るところは見てみたい。それが自分に許されていると承知しながらも手を出しあぐねているのは、彼のそういう気質にペースを掻き乱されているのか、もしくは傷つけることを恐れているのか。
考えながらおもむろに体を起こすと、サイラスは小さく笑って手を伸ばしてきた。白魚のような手がテリオンの髪に差し込まれる。
「葉が付いているよ。取ってあげよう」
「いい。自分で
……
」
「じっとして、テリオン」
詰め寄られて押し切られる。ほんの一瞬、サイラスが周囲の様子を窺うように視線をずらした。テリオンがその瞳の動きを追いかけた瞬間、唇に柔らかなものが触れた。
「
……
」
「
……
隙ありだよ。なんて」
「
……
」
「何か言ってくれないかい。
……
これでも一応、照れているのだが」
恥じらうようにはにかむサイラスに、見惚れてしまいそうだった。
――
ああ、あの時視線を動かしたのは実にもったいなかった。穏やかな陽のもとで、彼の瞳を間近に見られる貴重な機会だったのに。そんなことを思いながら、今度は自分からサイラスに手を伸ばす。薔薇色に染まった頬を撫でると彼は心地良さそうに目を伏せた。
「
……
あんたの方こそ、俺から見たら隙だらけだ」
「そうだろうか」
「ああ。
……
あんまり煽ると、痛い目を見るぞ」
「っ
……
」
手を滑らせ、彼の喉元を指先で擽る。震える睫毛に縁取られた瞳の奥に僅かに揺らめいたものが、テリオンの抱えるそれと同じであることを願った。鈍い男がどこまでテリオンの言葉を理解しているものか怪しいものだが、それでも彼は僅かに緊張を孕んだ面持ちで応える。
「
……
キミの言う痛い目とは、どんなものか知りたいな。無警戒な私を前にして、キミが踏みとどまる理由と併せて
……
教えてもらいたいものだ」
「
……
分かった」
そう言って手を引く。姿は見えないが、程遠くない場所にいる仲間達の声も大きくなってきた。そろそろ移動する頃合いだろう。
「あんたが望むのなら。
……
続きは夜に」
短く告げて、立ち上がる。答えは今夜確かめれば良いことなので、彼が首を縦に振ったかどうかは見届けなかった。冷たい風に頬を冷やされながら、仲間達の声がする方へと向かった。
***
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