雪華
2021-08-30 23:15:48
1753文字
Public オルサイ
 

【オルサイ】きず

デキてないけど仲良くて距離感がちょっとおかしいオルサイの話。不意にピアスホールあるなって気づくのなんか良くないですか?

言い訳にもならないが、確かにあの晩は酔っていた。
いつものように仲間たちと酒場で食事をして、女性陣は早く休むと先に宿に戻っていった。残った四人で少し度数の高い地酒を楽しんでいたが、アーフェンの呂律が怪しくなった辺りで自分たちも引き揚げることにした。アーフェンはそれなりに酒に強い方だが、疲れが溜まっていたのだろう。

「では、また明日。ゆっくり休んでくれたまえ」
「ああ。……あんたたちも」
「おやすみ~……
「おい薬屋、部屋はこっちだ」

テリオンは素早く部屋の鍵を開け、通り過ぎようとしたアーフェンを捕まえて半ば放り込むように入室させた。軽く手を振って彼自身も室内に身を滑らせるさまを見て、随分気安くなったものだと妙に感慨深くなった。
その隣の扉にサイラスが鍵を差し込む。大所帯での旅は常に個室が用意できるとは限らず、相部屋になることの方が多い。いつからだったろうか、二人部屋になるとこの組み合わせで部屋割をするようになったのは。

「オルベリク、開いたよ。どうぞ」
「ああ」

先にサイラスが部屋に入り、支えられた扉をもう少し開いてオルベリクも足を踏み入れた。室内は決して広いとは言えないが、安宿にしては小綺麗な印象だ。埃っぽさはなく、二つ並んだ寝台にはぴんと張った真っ白なシーツがかかっている。オルベリクが後ろ手に鍵をかける間に、サイラスは薄く開いていた小窓を閉めた。

「アーフェン君はだいぶ酔いが回っていたようだが、大丈夫だろうか」
「まあ、自分の行動の責任は取れるだろう。二日酔いの薬でも調合すればいい」
「そうだね。あなたももらっておいたらどうだい? いつもより酔っているようだよ」
「そうか?」

振り返ったサイラスは微笑み、自分の口元に手を遣ってみせる。笑い上戸のオルベリクをからかうような仕草に少し反発心がわき、グローブを外しながら歩み寄る。自分は酔いなど関係ないと言わんばかりの口振りだが、他人事ではあるまいと示すだけで、他意はなかった。色白い耳が僅かに赤らんでいるから、それを指摘するために彼の耳朶をつまんでみせた。

……!」
「お前だって酔っているだろう。赤くなっているぞ」
……あなたほどではないよ。鏡を見て、確かめてみると良い」
「逃げるな」

普段の何気ないスキンシップの延長のつもりだったのだ。肩を叩いたり、顔の汚れを拭ってやるのと何ら変わりがない。はっと目を瞠り、躱しかけたサイラスの肩を反対の手で掴んでその場に押し止める。
よく見えるように横髪を耳にかけ、形の良い耳を眺める。オルベリクは美醜の感覚に疎い方ではあるが、この男の顔や体の造形が美しいことは分かる。柔らかい耳朶を軽く揉みながら、ここが厚いと金運がいいと言われるのだったかと迷信じみたことを考えた。

……オルベリク……

非力な学者にオルベリクの拘束から抜け出す術はなく、サイラスは珍しく弱ったような声を出した。その時ふと、彼の耳朶に一つだけピアスホールがあることに気付いた。疵などないと思っていたものだから物珍しく、何の気なしに指先でなぞった。

「っ」

その瞬間、サイラスはびくりと体を竦ませた。かと思えば、オルベリクの指の中で耳はみるみるうちに赤みを濃くしてゆく。――いや、耳だけではない。サイラスの整ったかんばせが薔薇色に染まっていた。なんだかいけないことをしているような気分になり無言のまま手を引くと、彼は顔を俯かせてしまった。

……すまん」
「いや。……酔っているのは認めるよ。これで満足かい?」
「あ、ああ……
「それなら良かった。顔を洗ってくるよ、あなたは先に休んでいてくれ」

今度こそ引き止めることはなく、学者のローブを揺らし去ってゆく背を見送った。途端に静かになった部屋の中で、手持ち無沙汰に軽く拳を握っては開くことを繰り返す。指先にまだ柔らかな感触と、火照った体温が残っているような気がした。
互いに強かに酔っていたのだろう。踏み込んだ方が悪いのか、それとも踏み込ませた方が悪いのか。忘れようと拳を強く握ったものの、そうすると今度はオルベリクを見上げる瞳の色が頭を過るものだからたちが悪い。結局その晩は、なんと言葉を交わして就寝したのかよく覚えていない。




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