穏やかな時間だった。オルベリクは心地良い風に木の葉が揺れる音を聞きながら、木陰で剣の手入れをしていた。昼の日差しは目が眩みそうなほどに強く、座っているだけで額に汗が滲む。手の甲で汗を拭い、ふと顔を上げる。
「……」
視線の先には揺れて波紋を刻む水面と、そのなかに立ち尽くす男がいる。彼は手の平で水を掬って、日に焼けていない真っ白な素肌に掛ける。張りのある素肌を澄み切った水が流れていく様子から目が離せなかった。
男――サイラスがつい先程まで身に纏っていた衣服は、オルベリクの傍にきれいに畳んで置かれている。ここは昨日からオルベリクたちが滞在している町とほど近い森の中だ。今日は休養日ということで各々自由に過ごすことになったが、サイラスが森で調査をしたいと言うので同行したのだ。
(……眩しいな)
普段は束ねている髪すら解いた無防備な背中を見つめる。調査自体は満足な結果が得られたようだが、帰路で魔物に襲われ数度交戦することになった。難なく退けたものの、茸型の魔物から胞子を浴びたり、この茹だるように暑い中動いて汗を掻いた。丁度見つけた泉を前にして、交代で汗を流そうと提案したのはサイラスだった。
周囲の見張りという役目を担いながらもついついその対象を見つめてしまうのは、我ながら正直だと思う。何しろただ仲間として同行しているのではなく、危なっかしい恋人を放っておけないから着いてきたのだ。愛しいひとが、降り注ぐ陽光のもと素肌を晒しているのだから見ずにいられるわけもなく。
(信頼して背中を任せている男こそが狼だと知ったら、あいつはどう思うだろうな……)
二人は思いを通じ合わせたが未だに清い仲で、衣服越しに抱き合ったことはあれど生まれたままの姿の彼を掻き抱いたことはない。涼しげな姿にオルベリクが劣情を掻き立てられているなど、サイラスは想像もしていないのだろう。
サイラスの背中を舐めるように流れた水滴が、尻の谷間に吸い込まれてゆくさまを見て、ごくりと生唾を飲んだ。何度妄想の中で彼の衣服を剥ぎ取り、傷一つない素肌を撫で回しただろうか。夢のような光景に妄想と現実の境目が曖昧になる。もしかしたら、今すぐ泉に飛び込んで柔らかな尻を揉みしだくことが己には許されているのではないかと、錯覚しそうになる。
「……オルベリク?」
「っ……!」
その時、サイラスが横髪を耳にかけながら振り返った。まさしく今日の空を切り取ったような、雲ひとつない晴れやかな青空色の瞳が不思議そうにオルベリクを見る。幾ら鈍感でも、見られていることに気付いたか――動揺しながら言い訳を探し始めたオルベリクを訝しむことはなく、サイラスは唇を緩めて微笑んだ。
「とても涼しくて心地良いよ。先に堪能させてもらってすまないね」
「い、いや……」
「もうすぐ上がるから待っていてくれ。涼を取ると頭の中もすっきりしてくるよ、調査の結果も上手くまとめられそうだ」
「……。それは何よりだ」
頭から水に浸かれば、悶々と頭を煮えたぎらせる欲求も流れて消えてくれるだろうか。ぎこちない笑みを浮かべながら、到底無理なことを考えていた。
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