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雪華
2021-06-13 21:10:04
5306文字
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テリサイ
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【テリサイ】運命のいたずら【転生パロ】
※転生パロ。記憶あり18歳のサが、記憶なし10歳のテリを拾う話。世界観は日本でもないしオルステラなのかそうでもないような中途半端な感じでフワフワしてます。続く予定は今のところないです。
この世界に生を受けてから十八回目の春が来た。
本屋から出ると爽やかな風が吹き、髪を揺らす。周囲に立ち並ぶビルを見上げて、サイラスは目を細めた。ここまでの道程はあっという間だった。この新しい世界はサイラスにとっては真新しいものが多すぎて、何もかもが新鮮に映る。
――
サイラス・オルブライト。現在の年齢は十八歳だが、サイラスはこの十八年間以外の記憶も持ち合わせていた。いわゆる前世の記憶というものである。それが夢物語ではないと確信を持って言えるのは、サイラスと同じ世界で生きた人たちが確かにこの現代にいるからだ。
そのうちの数人とコンタクトを取ることに成功したが、未だに一番会いたい人物との邂逅は果たせていない。サイラスにとって初恋であり、そして最後の恋をした相手。彼がこの世界で幸せに生きているのならそれで充分だが、せめてひと目でもいいから顔を見たい。
(まあ彼はきっとまだ子供だから、すぐには出会えないだろうが
……
)
この国では十八歳で成人として扱われるようになる。三年前に両親が亡くなり、子供だったサイラスはそれなりに苦労したがもう過去の話だ。幸いにも両親が遺してくれた財産は充分にあり、進学費用や生活には困らない。今生を謳歌しながら、彼のことはゆっくり探せばいい。
買ったばかりの本を鞄に入れ、帰路につき始めたサイラスの背に、とんと何かが触れた。
「おっと、すまな
……
」
反射的に口を衝いて出た謝罪を聞き終える前に、するりと人影はサイラスから離れてゆく。その後ろ姿を見て、心臓が止まったかと思った。前世で出会った時よりもずっと幼い
――
それでもサイラスは直感で、彼こそが己の探しびとだと分かった。柔らかな白髪は陽の光を浴び、眩しいぐらいに輝いていた。
「ま、待ってくれ!」
「
……
!」
衆人環視の中であることも忘れ大声を上げると、少年は逃げるように駆け出した。何故逃げるのか、問いかける間もなくサイラスも走り始める。店が立ち並ぶ大通りかつ、春休みという時期もあり歩道には人が多い。その小柄さを活かして、少年はするすると人波を縫って走る。
(考えろ、彼なら
……
彼ならどうする
……
!?)
足が速いとはいえまだ子供だ、体力には限界がある。大通りを走り続けて、騒ぎが大きくなることを彼ならきっと厭うだろう。つまり、ある程度サイラスを撒いたところで裏通りへ入るはず
――
酸欠で視界が霞むほど走り、狭い路地を曲がる。まさか追ってくるとは思わなかったのか、少年の翠眼が丸く見開かれたと同時にその細い手首を掴んだ。
「っ、つ、捕まえたっ
……
!」
「あんた
……
っ」
肩で息をしながらも、痛いくらいに手首を握ると彼は顔を顰めた。改めて顔をよく見て確信を抱いた。間違いない
――
。胸のうちに言いようのない感情が込み上げ、汗とともに涙まで溢れてしまいそうだった。
「テリオン! ど、どうし、どうしてっ
……
!」
「
……
何故、俺の名前を知っている?」
――
その瞳には、強い困惑の色が浮かんでいた。まるで頭上から冷や水を浴びせられたように、サイラスは中途半端に口を開けたままの格好で静止した。
実はこういう反応をされることは初めてではない。誰もがサイラスのように前世の記憶がある訳ではなく、ところどころが欠落していたり、全く覚えていないという者もいる。漠然とテリオンなら覚えていると思い込んでいたが、そうではなかったということか。
「
……
私のことが
……
分からないのかい?」
もしも記憶があれば、間違ってもそんな事は言わないだろう。たまに意地の悪い冗談を言ってサイラスをからかうようなひとだったが、言っていい冗談とそうではないものは弁えていた。いたずらにサイラスを傷付けるようなひとでは、決してなかったのだ。
震える声で問いかけると、彼は小さく首を縦に振った。そうかと呟いたつもりだったが、果たして上手く声になっただろうか。赤くなるほど握っていた彼の手首を解放し、くしゃりと自分の前髪を掴んだ。
(そうか
……
私の独りよがりだったのか)
当たり前のようにこの世界でもテリオンと出会えると思っていた。勿論また同じ関係になれると確信していた訳ではないが、それでも昔と同じように笑って話が出来ると思っていた。けれど目の前の少年は、自分の知るテリオンではなかった。
「チッ
……
あんた、よく分かったな」
「え?」
思わず間抜けな声を出すと、足元に何かが投げられた。投げられたそれは、鞄に入れていたはずのサイラスの財布だった。
「あんたみたいなやつに気付かれるとは思わなかった。
……
通報でも何でも好きにしろよ」
「
……
キミが盗ったのかい?」
「? だから追いかけてきたんだろ。ま、施設に連れ戻されるよりは少年院のがマシかもな」
瞬きをしながら財布を拾い上げ、軽く手で払う。あまりの衝撃に止まっていた思考がようやく動き始め、現状を分析し始める。少年はサイラスの鞄から財布を盗んだ。その口振りからすると両親はいない、もしくは彼を保護できるような状況にないのか。
この世界は前世とはまた随分事情が違う。この国では戦争はもう過去の歴史の話で、法も整備されており理不尽な略奪は激減した。ただ子供は保護者の傍で守られて生きるという考え方が当たり前で、却って一人では生き辛いということは、サイラスも痛いほどよく分かる。
「
……
キミは今、好きにしろと言ったね」
「ああ」
「では、私に付いてきてもらおうか」
財布を鞄に戻し、再び少年の手首を握る。今度は先程より優しく、けれど振り解けない程度にはしっかりと捕まえた。
「
……
別に、逃げやしない」
「そうだといいのだがね。さ、行こうか。そう遠くはないから大丈夫だよ」
骨ばった手を引き、小さな歩幅に合わせてゆっくりと歩いた。向かったのはサイラスの住むマンションで、テリオンは案外従順に部屋まで着いてきた。リビングダイニングに通すと、彼は訝しみながら室内を眺めた。
「
……
ここは?」
「私の自宅だよ。座ってくれ、冷たいお茶でいいかな?」
「
……
いらない」
「そう言わずに。そうそう、貰い物のクッキーもあるんだ」
冷蔵庫からアイスティーの入ったガラスジャグを取り出し、グラスに注ぐ。目の前で封を開けたクッキー缶と共にダイニングテーブルに置いてみせてもテリオンは座ろうとせず、サイラスを視界に入れたままでいた。サイラスにあまりにも敵意がないことを、気味が悪いとでも思っているのかもしれない。
先にサイラスが机を挟んで向かい側の椅子に腰を下ろし、丸い形のバタークッキーを口に運んでみせる。するとテリオンはようやく椅子に座り、手をつけるつもりはないと言わんばかりに態とらしく腕を組んだ。
「毒など入っていないよ。私が封を開けたところをキミも見ていただろう?」
「
……
」
「お腹が空いているんじゃないのかい? 別に料金を請求しようとも思っていないよ」
「
……
あんたは、何が目的で俺をここに連れて来たんだ」
テリオンの疑問も当然だろう。サイラスは彼をここまで連れてくる中で、その所作をつぶさに観察しながら考えた。まだ子供で、前世の記憶もないがやはり彼は『テリオン』なのだろうと。
――
サイラスとテリオンの間には燃えるような恋情があった。そしてそれと同時に、穏やかでただ温かい愛も存在していた。サイラスの胸に根付いたその感情が、彼をこのまま放っておくわけにはいかないと叫ぶのだ。おもむろにグラスを口につけ、喉の渇きを潤した。
「
……
先程の口振りでは、キミは今までは施設で暮らしていたのかな。恐らくキミ一人ではなく、数人で施設を抜け出したのではないかい?」
「
……
」
「もちろんキミたちの作戦では、施設を出た後の滞在先も決まっていたはずだ。どれだけ過ごしづらい環境であったとしても、衣食住を捨てるリスクは大きい。後先考えずに飛び出すとは思えないからね。
……
ただ、仲間内で何らかのトラブルがあり、キミは単独行動を余儀なくされた。違うかい?」
「
……
見てきたように語るな」
テリオンは否定せずに、その時はじめてコップに口をつけた。アイスティーを口に含み、舌で転がして味を確かめて飲み込む。警戒心が強いところは今も昔も変わらないのか、それとも今生でもそうせざるを得ない環境に置かれてしまったのか。施設を飛び出した経緯は分からないが、もしも彼が再び裏切りという深い傷を負ったのだとしたらあまりにも悲しい。
それでもサイラスは、決して憐れむさまを見せなかった。彼の前に指を三本立て、淡々と語る。
「さて、キミには三つの選択肢がある。一つ目は私からの連絡を受け、施設に戻る。二つ目は通報により警察の世話になる」
「
……
三つ目は?」
「この家で私と暮らす、という選択肢だ」
「は?」
唸るような声は、しかしまだ変声期前の可愛らしい少年のものだ。サイラスは柔らかく唇を緩めて微笑む。
――
この提案が本当にテリオンを思ってなされたのかは、実のところ分からない。もしかしたら、ただサイラスの胸に巣食う昏い独占欲がそうさせたのかもしれない。ただ確かにこれが現時点での最適解だと思ったのだ。
「悪くはないと思わないかい? 施設にいるよりは自由があるし、当然衣食住も保証するよ」
「
……
何が目的だ? まさか少年趣味でもあるのか?」
「はは、そんなものはないよ。それに、私がそういう相手に困るような人物に見えるかい?」
「見えない」
「素直でよろしい。ただ私と暮らすなら、幾つかルールは決めさせてもらう。まず先程私にしたような、窃盗をはじめとする犯罪行為は一切やめること。そしてキミには、勉強をしてもらうよ。はじめはホームスクールで構わないが、ゆくゆくはきちんと学校にも通ってもらう」
前世でテリオンが置かれていた状況は、きっとやむを得ない事情もあっただろう。それでも彼は自分の歩みを後悔していなかった。しかしたった一度だけこぼしたことがある。
――
あんたともっと早く出会えていれば、違う道もあったかもしれないと。
この少年はきっと、テリオンであってテリオンではない。前世の記憶が戻る保証もなければ、そのうちサイラスのことなど簡単に見限ってしまうかもしれない。それでも構わなかった。今生で持ち得た全てを投げ打ってでも、彼に新しい道を拓いてやりたい。形は多少歪かもしれないが、それでも愛を以ってサイラスはそう望んだ。
そんなサイラスの心情など知る由もなく、テリオンは深くため息をついてかぶりを振った。
「
……
分からん。なんで俺にそこまでするんだ。あんたにメリットがあるとも思えない」
「メリットはあるよ。私は将来、教育の道に進みたいと考えている。キミのように制度や行政に取りこぼされた少年にどのように学ばせるかというのは、興味深い課題だと思わないかい? それに、一人暮らしも退屈でね」
「あんたも
……
ひとりなのか」
「ああ」
短く肯定した。今生の両親にもまた、恩返しが出来ないままだった。彼らは妙に大人びて物分りの良い少年を愛し、サイラスが望むままに学ぶ環境を用意してくれた。ただそのなかで違和感はあったようで、母は少年が何を考えているか分からないと夜中に泣くこともあった。
テリオンは暫く黙っていたが、やがて決意を込めてサイラスを見据える。その顔の半分は、伸ばした前髪によって覆い隠されていた。一つだけ見える瞳はやはりただ真っ直ぐで、美しい輝きを秘めていた。
「
……
その話、乗った。あんたの言う幾つかのルールってやつも飲む。ただ勘違いするなよ、あんたのことを信用したわけじゃない」
「構わないよ。私が信頼に足る人物かどうかは、キミ自身の目でゆっくりと見定めるといい」
「
……
」
テリオンは何か言いたげに、唇を僅かに尖らせる。応えるようにゆっくりと瞬きを返すと、彼は口を開いた。
「
……
名前は。あんたは俺のことを知っているらしいが、俺はまだあんたのことを何も知らない」
「おっと、これは失礼したね
……
。では改めて自己紹介をしておこう。私はサイラス・オルブライト、十八歳。この部屋の主であり、当面の間はキミの保護者となる男だ。ちなみに来月からは大学に通うので、一応職業はキミと同じ学生になるかな。よろしく頼むよ」
「サイラス」
薄い唇にそう呼ばれると、ぞわりと肌が粟立った。懐かしいようで、幸せで、無性に泣きたくなるような奇妙な感覚だった。
「
……
俺はテリオン、十歳だ。よろしく」
手を差し出すと、彼は子供らしい小さな手で渋々握り返してくれた。
柔らかく世界を照らす太陽が傾き始めた、春の暮れの出来事だった。果たしてサイラスたちの出会いは運命だったのか、必然だったのか。聖火神エルフリックが答えてくれることはなかった。
***
この後は記憶ありヒスコに連絡して手続き手伝ってもらったり、テリの部屋を作るために記憶ありオルやエアハにお部屋の模様替えを手伝ってもらうなどのイベントが起きます。
***
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