雪華
2021-04-18 20:34:00
1747文字
Public テリサイ
 

【テリサイ】燃え上がらせたのは

気分じゃない時に『いい子だから』ってテリを嗜めるけど、却ってそれがテリに火をつけるテリサイが見たいなあと思って自給自足しました。

静かな夜だった。寝台が二つ、後は小さなテーブルとランプがあるだけの狭い部屋で、サイラスは本を開いていた。昼間偶然市場で手に入れたものだが、思いのほか興味をそそられる内容である。椅子すらないからやむを得ず寝台に腰掛けていたが、いつしか場所の不便さも忘れるほど集中していた。
熱中すると周りが見えなくなるのはサイラスの悪い癖だ。今夜も例に漏れず、寝台が軋む音がしてはじめて彼が帰って来たことに気付いた。

「おかえり、テリオン。キミは向こうの寝台を使ってくれるかい」
……

テリオンは無言のまま、サイラスが座る寝台の上で靴を脱ぐ。既に着替えて寝る支度を済ませているサイラスとは違い、彼はまだ紫の外套を羽織ったままだ。アーフェンに飲もうと誘われていたからゆっくり酒を楽しんできたのだろう。酔っ払いを軽くいなしてまた読書に戻ろうとしたが、それは叶わなかった。
肩を掴まれ、仰向けに押し倒される。抗議をする前に覆い被さった男に唇を奪われた。

「っ……
「サイラス。……いいだろ?」
……いけないよ。見て分かるだろう? 私は読書中で……ん、」

そう嗜めてもお構いなしに唇を合わせてくる。テリオンの吐息には濃い酒気が混じっており、それなりに酩酊していることが窺えた。彼の唇を手の平で覆うが簡単に引き剥がされ、優しくキスをされると自ずとサイラスの体温も上がってゆく。
――テリオンの気持ちも分からなくはないのだ。ここのところ相部屋や野営が多く、二人きりで夜を過ごすことはなかった。求められるのは嬉しいし、サイラスだって彼に触れたいとは思う。しかし、夜分に読書に耽る時間が貴重であることも事実。

(弱ったな……

本は押し倒された弾みで閉じてしまったが、頁の間に指を差し込んだままだ。もう少しで見えてくるものがありそうなのに、みすみす止めてしまうのは惜しい。
知識欲と肉欲の間で揺れるサイラスに対し、テリオンは容赦なく揺さぶりをかける。頬にキスして、次はいつまでも目を逸らしたままの目元にキスを。はっとして見上げると、真っ直ぐに自分を見下ろす翠眼と視線が交わった。

「ッテリオン……
「だめか」
……だ、だめだ。次は必ずキミに付き合うから、今日はやめないかい?」
「俺は、今あんたが欲しい」

吐息混じりの声で紡がれる口説き文句は猛毒だ。一瞬傾きかけた天秤を、手の平に滲んだ汗が再びつり合わせる。このまま長丁場の交渉に持ち込まれると流されてしまいそうだし、何より本を汚してしまう。ここは年長者として教師としてもはっきり言わなければ。決意を込めて、分厚い胸板を押し返す。

「今日はしないよ。……いい子だから、分かってくれ」

その瞬間、テリオンの目の色が変わった。より色を濃くした瞳が近づいたと思ったら、唇を覆われていた。

……! ん、んむっ……

歯列を割るように挿し込まれた舌を自分のそれで押し返そうとするが、反対に絡め取られてしまう。手足を動かして藻掻いてみても解放してくれる素振りはなく、音を立てながら舌を舐め、軽く吸われると頭の奥がじんと甘く痺れた。呼気や唾液を混ぜるような深いキスは、彼と繋がった夜のことを思い出させて天秤を傾かせる。

「ん……ン、……っはぁ……
……どうだ、その気になったろ」
「ずるいよ……こんな、強引な……っ」
「埋め合わせはする。だから、あんたの時間をくれないか」

窺う体を取りながらも、その瞳はギラつく情欲の炎を隠しもしない。――嫌ではないから、困るのだ。本の間に挟んだ指を抜き、テリオンの頬を撫でる。いつもより熱を持っているのは酔っているからか、それとも先の行為に期待しているのか。

「仕方ないな。……悪い子のわがままを聞くのは、今夜だけだよ」
「あんたは……どこでそういう煽り文句を覚えてくるんだ」
「煽り文句? 一体キミは何が気に食わないのかな」
「さてな。その優秀な頭で考えてみろ」

今から思考を奪おうとしているくせに、態とらしい事を言うものだ。甘やかし過ぎかと思いながらも、その甘さに抗えないのは実はサイラスの方かもしれない。
明かりが消えた部屋の中、サイラスがどのように紐解かれたのかはテリオン以外は誰も知らない。




***

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