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雪華
2021-02-06 21:29:24
3500文字
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テリサイ
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【テリサイ】なんでもない特別な日【年齢逆転】
※テリ30歳×サイ22歳パロです。昨晩初めて……した二人のお話。お題でまた見たいと言っていただけたのでウキウキで書きました。
何の変哲もない、普段と変わらない朝が来た。
元来根無し草のテリオンだが、それでも宿に泊まれた日とそうでない日は調子が異なる。寝台が二つ並んだだけの簡素な宿でも、疲労を回復するには充分だった。手早く身支度を整え、未だに布団の中で丸まる背中を軽く叩いた。
「サイラス、朝だぞ」
「ん
……
うん
……
」
「起きられそうか? 支度を手伝ってやろうか」
「いや
……
」
いつもより心做しか優しく声を掛けてみたが、サイラスは頭の先まですっぽりと布団に覆われていて表情すら窺えない。今日くらいは寝かせてやりたいと思いながらも、あいにく旅の連れ合いは他にもいる。彼らに変な勘ぐりをされる前には起こして、連れて行くべきだろう。
「朝食を食いっぱぐれてもいいのか?」
「
……
」
「ほら、サイラス」
「いい
……
いいから、あなたは先に行っていて
……
」
年下の恋人はテリオンの顔を見もせずに、指先だけ出して胸板を押した。華奢な指先に殆ど力は入っていなかったが、テリオンは大人しく身を引いて、恐らく形の良い頭が位置するであろう箇所を布団の上から撫でた。
「分かった。先に行って待ってる」
「
……
」
返事はなかった。彼も子供ではないのだから、二度寝して寝過ごすことはないだろうと踏んで部屋を出た。
テリオンたちが宿泊した部屋は宿の二階で、一階には食堂が併設されている。食堂を覗いてみると既に他の六人と一匹は揃っており、トレサが大きく手を振って合図した。
「テリオンさんおはよう!」
「ああ」
「サイラスは一緒じゃないのか?」
「あいつはまだ寝てる。朝食は間に合わなかったら食べられなくていいとよ」
仲間たちが囲む長テーブルの上には、既にバゲットやベーコン、大皿のサラダなどが並んでいる。料理の注文を終え食べ始めているところを見ると、テリオンも少々出遅れてしまったようだ。端に一人分スペースを開けて座ると、ハンイットが皿を置いてくれた。
「悪いな」
「いや、ついでだからな。それにしても、サイラスはどうせまた遅くまで本を読んでいたんだろう? あなたは見咎めなかったのか?」
「言ったって聞かないやつだ。お前も分かってるだろ」
「そうかもしれないけど、テリオンさんが言ってもだめなの?」
軽く肩を竦めてみせると、トレサもそっかと残念そうな返事をした。テリオンとサイラスがいつからかそういう関係になったことは、実は仲間たちも知っていることだ。何しろサイラスは口から先に生まれたような男だから、簡単に打ち明けてしまったのだ。
「そう言えば今日の旅程だが、天候もいいし予定通りで問題ないだろう」
「そうですね。このまま北を目指していきましょう」
仲間たちの会話を聞きながら、よく焼いて脂を落としたベーコンをバゲットに乗せ口元に運ぶ。
――
サイラスとのことは別に隠すつもりではなかったのだが、少々気恥ずかしくはある。八つも年下の恋人に執心する男はさぞ滑稽に見えるだろう。
そのまま暫し食事を続けていると、ようやくサイラスが食堂にやって来た。金の刺繍の入った学者のローブに、少々気怠げな秀美な顔は人目を引く。けれど彼は他の宿泊客の視線にも気付かず、まっすぐにテリオンたちがつく長テーブルに向かって歩く。
「おはよう、サイラス。寝不足が顔に出てるわよ」
「おはよう。まぁ、そういうこともあるさ。
……
トレサ君、隣いいかな」
「えっ? もちろんいいけど
……
」
サイラスは態々斜向かいのトレサに声を掛け、その隣に腰を下ろす。トレサは戸惑ったようにサイラスとテリオンの顔を交互に見たが、テリオン自身にしてやれることはない。狼狽するトレサには悪いが特に取り繕うこともなく食事を続け、サイラスもまたこちらを一瞥することもなく朝食を摂った。
***
――
その日のサイラスは、誰の目から見てもおかしかった。
歩きながらぼんやりと虚空を見つめ、木にぶつかりかけたり石に躓く。戦闘でも普段の集中力を発揮できていないのか、魔法を撃ち間違えたり味方を巻き込みかけること数回。そして何より、テリオンの傍に寄り付かない。
「テリオン、少しいいか」
「どうした?」
歩きながらオルベリクに呼ばれ、彼の持つ地図を覗き込む。しかしオルベリクは小さく咳払いをしたかと思うと、声を潜めて耳打ちした。
「
……
サイラスと喧嘩でもしたのか?」
「
……
あんたまでそれを聞くか」
トレサやアーフェンたちからはうるさく聞かれていたが、まさかオルベリクにまで問われるとは思わなかった。歩きながら呆ける分にはいいが、戦闘に支障が出ているのを見て流石に看過出来なかったのだろう。オルベリクは腕を組みため息をついた。
「お前たちの関係に口を挟むつもりはないが、あいつがあの調子だと問題があるだろう」
「ま、そうだな
……
次の休憩で調子を取り戻させる。それでいいか」
「ああ、構わん。
……
今日だけで何度焦がされかけたか分からんからな」
「苦労かけるな」
オルベリクはいや、と軽く首を横に振る。そして暫し歩き木陰に入ったところで、仲間たちに休憩を提案した。目の届く範囲で思い思いの場所に腰を下ろし休む皆を眺め、テリオンはサイラスの手首を掴んだ。
「っ
……
!」
「来い、少し話がある」
「ま、待ってくれ、テリオン
……
」
「いいから来い」
単純に身長だけならサイラスが勝っているが、力勝負なら話にならない。半ば引きずるように無理矢理サイラスの手を引いて、藪の奥へと連れ込む。ある程度仲間たちから距離をとったところで、肩を掴むようにして背を木に押し付けた。サイラスは顔を背けてきつく瞼を閉じている。
「サイラス、目を開けろ」
「
……
い、嫌だ」
「いいから。ちゃんと俺を見ろ、話をしよう」
「話したって
……
どうしようもないよ」
弱々しく声を絞り出しながら、サイラスは長い睫毛を震わせる。そしてゆっくりと瞼を開き、ロイヤルブルーの瞳にテリオンを映し出した。その途端に、白皙の頬は炎が点ったように赤くなった。
「
……
りんごみたいな顔だな」
「あなたのせいだよ。
……
昨夜あんなことしておいて、平然としていられるわけ
……
ないじゃないか」
「だろうな。体の調子はどうだ?」
「
……
足腰が少し、痛い」
「無理させて悪かった」
拗ねたように尖らせた唇に触れるだけのキスをすると、恥じらうように瞼を伏せる。
――
仲間たちは二人が仲違いでもしたのではないかと危惧していたようだが、実情は真逆だ。昨晩テリオンたちはやっと一線を越えたのだった。
赤くなった頬を撫で、指の腹で目元をなぞるとサイラスは瞳を揺らす。
「
……
私の方こそ、変な態度をとってしまってすまなかった。でも、あなたの前でどんな顔をしたらいいか分からなくて
……
避けてしまったんだ」
「分かってる。お前なりにいつもの自分であろうと、努力はしていたんだろ。
……
全くだめだったがな」
「
……
あなたはずるいよ。いつだって冷静で落ち着いていて
……
私はそうはなれそうにない」
「そうかもしれないな」
薄い体を抱き締めて、宥めるように背中を擦る。サイラスはテリオンの上衣を掴むように控えめに抱き返した。人肌がこんなにも心地良いことをテリオンに教えたのは他でもないサイラスなのだが、彼がそれを知ることはもっと先になるだろう。
「だが、今はそれでもいいんじゃないか。そのうち時間や経験が差を埋めるだろ」
「
……
本当かい?」
「ああ。多少取り乱しても構わないから、とにかく今日は俺の傍にいろ。手の届くところにいればフォローしてやれるから」
「
……
うん。すまない、テリオン
……
」
「謝ることじゃない」
絹のように柔らかな髪を指先で梳いて、額にキスをしてやるとやっとサイラスは微笑みを浮かべてみせた。目の前の男が、美しく聡明で輝かしい未来が約束されたサイラスを、腕の中に閉じ込めて満足していることも知らないまま
――
。
「お前は知らないだろうが
……
恋人の世話を焼くのは案外、楽しいからな」
「またそうやって、私のことを子供扱いして
……
」
「してたらあんなことしない。そうだろ?」
「
……
そうだね。ねえ、もう少しこのままでいていいかな」
甘えるように肩に額を付けねだられて、どうして引き剥がすことなど出来ようか。勿論と答えて抱く腕に力を込めた。
――
数分後、サイラスの手を引いて戻ってきたテリオンを、仲間たちは生暖かい眼差しで見た。そしてテリオンにフォローされながらだがいつもの調子に戻ったサイラスを見て、心配して損したと誰かが呟いていた。
***
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