雪華
2021-01-18 22:42:18
2450文字
Public テリサイ
 

【テリサイ】明日もキミと【転生現パロ】

※転生現パロ。前世で恋人だった二人が死別して現代に転生したという設定です。すごく前に書いた転生現パロの続き的な話をとお題をいただいて書きました。めちゃくちゃ事後です。

深夜のバスルームはしんと静かで寒々しい。茹だった体を冷やすように頭上からシャワーを浴び、涙や汗で汚れた顔を手の平で擦る。分厚い膜に包まれているかのように不明瞭だった思考がクリアになる頃、ようやくシャワーの温度を上げて深く息を吐いた。

(疲れたな……

激しい行為の後は、いつも決まって強い倦怠感に襲われる。それは今も――昔も、そうだった。あの頃と変わらぬ年の差がサイラスと恋人との体力差を決定付けているのだろうか。本当なら後始末なんて翌朝に回してすぐにでもベッドで眠りたいところだが、サイラスにはそう出来ない事情がある。

…………

うつらうつらと頭が揺れていることに気付き、自身の頬をつねる。
便利な時代になり愛し合う行為も些か楽になった。何の隔たりもなく繋がりたいと思うことがないわけではないが、衛生的な意味から言っても望ましくはないだろう。胎内に出された体液を掻き出す必要がないから、急いでシャワーを浴びる必要もない。これは言わば、ただの時間稼ぎだ。

……そろそろいいかな」

欠伸を噛み殺しながらシャワーを止め、軽く体を拭く。着慣れた寝間着を身に纏い、出来るだけ物音を立てないようにゆっくりとバスルームを出た。
自宅の廊下を静かに、いつもの倍近い時間を掛けて歩き寝室の前で立ち止まる。深呼吸してドアノブを徐に回して開くと、室内の明かりは既に落とされていた。寝台の上には膨らみがあり、テリオンはいつものように壁に背をつけるようにして眠っているようだった。

……もう寝たかい?」

返ってくるのは規則的な寝息だけ。普段就寝前の読書に使うライトのつまみを回し、最大限光量を絞って明かりを付けると、柔らかな橙色の光が眠る恋人の顔を照らし出す。蝋燭の炎を思い起こすような暖かいこの光色が、サイラスは好きだった。
不自然にスペースの空いたベッドに腰掛け、そっと彼の白い髪を梳く。先程まで散々サイラスの体を貪った男は、こうして見るとまだあどけない顔をしている。彼の安らかな顔を見ていると、泣きたくなるほど幸福だと感じた。

「テリオン」

ずっと好きだった。この世に生を受ける前からずっと。
――サイラスには前世の記憶がある。それはサイラスに郷愁の念を抱かせると共に、時折激しく苦悩させた。特にテリオンと今生で再会してからは尚更、過去の記憶と今の混在に苦しめられた。紆余曲折あってテリオンと再び結ばれたのは僥倖だが、彼には決してこのような思いはさせたくない。

……ゆっくりおやすみ」

彼は未だ前世の記憶が全て戻ったわけではなく、酷く断片的らしい。だが、何をきっかけに膨大な記憶が戻るかも分からない。――サイラスがそうだったように。だからなるべく彼の記憶の蓋を開かないよう、行動には気をつけている。
テリオンに寝顔を見せないと決めたのもその内の一つだ。サイラスの最期を想起させるものは、きっと彼の心を強く揺さぶってしまう。額にキスを落として立ち上がろうとしたその時だった。

「おい、どこへ行くんだ?」
……っ!」

しっかりと手首を握り、寝起きとは思えないほど明瞭な口調で話しかけられ息が止まるかと思った。つい数秒前まで閉ざされていた瞼からは翠眼が覗き、真っ直ぐにサイラスを見据えていた。

「お……起きていたのかい……? 驚いたな……
「話をはぐらかすな。どこへ行くつもりだったのかと聞いてるんだ」
「いや……二人で眠るには手狭だろう? だからいつものように、ソファーで寝ようかと……
「そうか? あんたを抱くのにも苦労しない、十分な広さだと思うが」

ええと、と言い訳を探すように視線を彷徨わせる。普段だったらもっと気の利いた言葉が出てくるのだろうが、肉体的疲労によりサイラスの頭は随分鈍くなっていた。その隙を見逃さずにテリオンは畳み掛けてくる。

「なるほどな。いつもはシャワーを浴びて、寝室に戻る前に力尽きてるのかと思っていたが……あんたは態々、リビングで独り寝をすることを選んでいたわけか」
「それは……その……
「大方また、要らん気を回してるんだろ。朝も妙に早く起きやがって……俺に寝顔を見られたくないってとこか?」
「う……

図星を指され、それ以上の言葉が出てこない。テリオンはため息をつきながら体を起こすと、すっかり黙りこくったサイラスを抱き寄せた。寝入り端の少し高めの体温が心地よく、撫でるように彼の背に腕を回す。

……俺は、あんたが思ってるより弱くない。それとも、あんたの知る俺は――恋人に共寝もさせてやれない愚図だったのか?」
「そんなことはない! キミはいつでも強く、気高い……今だってそうだよ。だが、私はもうキミに辛い思いをさせたくないんだ……
「あんたのためなら苦じゃない。まだ俺の知らないサイラスのことを知れるのなら、それも一興だ」

僅かに腕の中で身を引いてその双眸を覗き込む。初めて出会った時から変わらない瞳の純美さに、サイラスは囚われたままだ。

……俺を信じてくれ、サイラス」

一瞬、焼け付くような痛みが胸に走る。共に歩んだ旅の果てに手に入れたものが、記憶はなくともテリオンの中に種として残り芽吹いたのだろうか。サイラスの答えは常に変わらない。

「勿論、私はキミを信じているよ」
「だったら……俺の隣で寝ろ」
「ふふ……そうだね。ああ、安心したら眠くなったな……
「そうだな、寝るか」
「うん」

抱き合ったままベッドに横になり、布団を肩まで掛ける。重たくなった瞼をゆっくりと下ろすと、唇に柔らかいものが触れた。面映ゆくて、つい唇が緩んでしまう。

「おやすみ、テリオン……
「ああ。……全く、あんたは世話が焼けるな」

そんなことはないだろう?――そう反論したのが夢か現かも分からぬまま、意識が沈んでゆく。翌朝目を覚ますと、既に起床していた恋人から『可愛い寝顔だったな』とさらりと告げられ絶句するのだった。




***

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