雪華
2021-01-11 18:15:03
2923文字
Public その他
 

【スケアズ】律儀なひと

※すごい捏造。スケアクロウとアズライトのトラストをネタバレする。弊旅団名が『雪の華』でそれにもめっちゃ触れる。ものすごい捏造。スケアズ(未満)で、ギルデロイ・テオ・ペレディールがちょろっと出てくる。

クラグスピアの見慣れた酒場の扉を開ける。夜というにはまだ早い時間だが、この酒場はもう準備が出来ていることを知っていた。カウンターの中でグラスを拭いていたバーテンダーはアズライトと、その背後に連れた人物を見て僅かに目を瞠った。

「あら、お二人だけ?」
「まぁな。今日は私の奢りだ、好きなものを飲め」
「何のつもりだ?」

促されるままカウンター席に座ったスケアクロウは、怪訝そうな声色で問うた。鳥の子色の髪から覗く眼を横目で眺め、足を組む。数拍変に間が空いて、口を開いたのはアズライトの方だった。

……この間の礼だ。借りっぱなしでいるのは気分が悪くてね」
「態々礼を言われるようなことじゃない」
「強情なやつだな。いいから飲め、私の気が済まないんだ」
……分かった、一杯だけ付き合う。お前と同じものをくれ」

折れてやったと言わんばかりにため息をつく様も、今夜ばかりは見て見ぬ振りをする。バーテンダーにいつものと短く注文すると、彼女は慣れた様子でグラスに氷を入れ酒を注いだ。

「はい、あなたのお気に入り」
「ありがとう」

透明なそれを呷ると、痺れるような辛味と深いコクが味蕾を撫で、喉を通り過ぎてゆく。後のすっきりとしたキレが、この銘柄が好きな理由だった。仕事の後はこれを飲むと決めていることを、馴染みのバーテンダーは知っている。
スケアクロウは同じ酒を受け取り、口に含む。飲み込む時に僅かに眉が動いた。

「辛口の酒は気に入らなかったか?」
「いや。……美味いな」
「そうだろう。これでベネットの一件での借りは返したからな」
「貸したつもりはないが、お前がそう言うのならそれで構わない」

アズライトがこうしてスケアクロウを連れて来たのは、ベネットの屋敷から子供たちを盗むという依頼の手助けをしてもらったからだ。過去の失敗からあの仕事だけは特別にアズライトの感情を揺さぶり、怖気づかせた。それでも子供たち誰一人として欠かすことなく無事に仕事を終えられたのは、終始隣の男が冷静だったからだ。
スケアクロウは腕のいい狩人で、常に落ち着き払っている。彼が感情を乱していたのは、例のラットキンの件だけだ。矢をつがう手すら震えるほど激高しているスケアクロウは、後にも先にもあの時しか見たことがない。

「おかげさまで、子供は元気みたいよ」
「そうか、良かった」
「トラウマになって塞ぎ込むんじゃないかって心配したんだけどね、助けに来てくれたあなたたちがかっこよかったって……みんな言ってたわ」
「ふん。子供が盗賊に憧れるなんて、世も末だな」

つまみのナッツを口に放り、パキリと音を立てて噛み砕く。素直じゃないのね、と言われた言葉を無視してスケアクロウを見遣ると、彼は舐めるようにちびちびと酒を飲んでいた。

「あなたも、アズライトを助けてくれてありがとう。『雪の華』の仲間なんでしょう?」
「ああ。……そういえば、旅団名の由来はあるのか。いつもはぐらかしているだろう」
……まぁな」

まさかこんな大所帯の旅団になり、何度も何度も仲間たちから名前の由来を聞かれることになるとは計算違いだった。スケアクロウの指摘通り、その質問は幾度もあしらってきたものだ。グラスに残った酒を一気に呷り、深く息を吐く。

……そうだな、利息分として教えてやろう。見てみろ」

手の平を上向けると、深い青色の瞳は素直に視線を寄越す。魔力を少し集め、手の上に氷の結晶を作ってゆく。ぱきぱきと僅かに音を立てながら育っていく結晶は、酒場の灯りを反射し煌めいているようだった。

「これが『雪の華』か」
「そうだ。だが、そう言ったのは私じゃなく……子供だ」
……

今でもあの時のことは鮮明に思い出せる。怯える子供を宥める術など知らず、苦肉の策であったが嬉しそうにはしゃいでいた。触ったら溶けたと残念がるから、また見せてやると約束した。――それが果たされることはなかったが。

「あの子の笑顔を……そして、失敗した私自身を忘れないために付けた旅団名だ」

結晶を砕くようにきつく手を握り締める。氷の残骸がぱらぱらと指の隙間から落ち、机を濡らした。

「どうだ、存外つまらないものだっただろう?」
……いや」
「気を遣わなくていい。こんな……あ」
「綺麗だった」

アズライトの拳を包み込むように触れた手の平は、やけに熱い。普段はグローブに覆われているせいで知らなかったが、スケアクロウの手は傷が多く、思っていたよりも大きかった。らしくない冗談だと笑い飛ばそうと思ったが、視線が交錯すると何故か息が詰まった。

「っ……
「お前のその覚悟も含めて……美しいと、俺は思う」
「な」

何を馬鹿なことを――そう言い返そうとした瞬間音を立てて酒場の扉が開き、咄嗟に手を振りほどく。聞き慣れた足音に首だけで振り向くと、ギルデロイが軽く手を挙げた。その後ろにはテオとペレディールがついて来ており、随分珍しい取り合わせだった。

「おっ、なんだよ水臭えな! 酒の席なら誘ってくれよ」
……個人的な礼だからな」
「ああ、この間の子供を保護したって話? なんで僕らを連れて行ってくれなかったんだい?」
「大人数でぞろぞろと屋敷に入る盗賊がどこにいるんだ? それに、隠密行動には向かないやつらが多すぎる」
「しかしだねアズライト君、今回は上手くいったようだがそれはあくまでも結果論だ。仲間がいることで選択肢を増え、リスクを減らせる可能性があるだろう? それなのに君たちは旅団の者の殆どに知らせず向かったではないか! 感心できる振る舞いではないと……

説教しながら隣に座るペレディールに分かりやすく顔を顰めてみせるが、彼の話はこれしきでは止まらない。するとスケアクロウが席を立ち、軽くギルデロイの肩を叩いた。

「俺は先に戻る」
「おう。……ん? なんだ、随分強い酒を飲ませたな。俺もこいつは好きだが、下戸に飲ませるのはちともったいなくねぇか?」
「下戸?」

カウンターに置かれた酒瓶とまだグラスに半分ほど残っているそれを眺め、ギルデロイが顎を撫でる。咄嗟に振り返った時には既に扉は閉まっていた。なるほど、道理で酒場につれてきたときから気乗りしていない訳だ。

「えー、そうなの? 顔に出ないタイプかなぁ。僕ちょっと心配だから、宿まで付き添ってくるよ」
「おう、よろしくな」
……それにしても珍しい組み合わせだな、何かあったのか?」
「団長さんの手を煩わせるようなことじゃねぇよ。ただ、学者と薬師ってのは商魂が欠けてるだろ? 俺がちょっとばかし商売ってやつを教えてやろうかと思ってな」

そう言いながら、ギルデロイはスケアクロウが空けた席に腰を下ろす。中途半端に残った酒に彼が手を付ける前に、素早くグラスを奪い取った。

「あいにく、私の金で頼んだ酒でね」
「そうかい。じゃ、俺も一杯もらうとするかね。じいさんは何飲む?」
「そうだな、私は……

持ち上げた拍子に、溶けてバランスを崩した氷がぶつかり合い音を立てる。律儀な男だと内心呟いて、薄いグラスに唇を付けた。




***

感想等をいただけますと喜びます Wavebox