雪華
2020-10-18 20:18:36
3971文字
Public オルサイ
 

【オルサイ】甘えられるひと【現パロ】

※現パロです。お題箱に頂いた彼シャツ先生(超要約)でした!イチャイチャしてます。

週末の午後、サイラスが講義を終え向かったのは馴染みの古書店だった。
大学からは少し離れた場所にある店で、気に入って通っている内に店主から顔を覚えられたのがはじまりだった。高齢の店主とはすっかり打ち解け、今ではサイラスから依頼して本を探してもらったり、反対にサイラスの好むものが入荷されたら連絡をくれるようになった。今日は後者の件で連絡があり、意気揚々と店へと向かった。
店主が選んでくれた本はどれもサイラスの興味をそそり、さすがの審美眼に舌を巻きながら早速会計してもらった。店主は皺のある手で本を袋に入れながら、ぽつりと呟く。

……今日は夕方から雨らしいが、お前さん傘は持っているのかい?」
「ああ、折りたたみ傘を持っているから大丈夫だよ」
「そりゃ良かった。本はビニールに入れておくから、少々の雨なら大丈夫だろう……一応紙袋も二重にしておいてやるか」
「すまないね」
「お前さんのためじゃない、本のためだ」

つっけんどんな物言いも、慣れれば彼の照れ隠しだとすぐに分かる。彼は手早く本を紙袋に収め、最後に軽く外側から袋の形を整えた。

「ほらよ」
「ありがとう! 家でゆっくり読むことにするよ」
「気を付けて帰んな」

ずしりと重い紙袋を片手に持ち、浮足立ちながら店を出た。
しかし上機嫌なサイラスの心とは裏腹に、店主の言う通り空には暗雲が立ち込めている。数分もしない内にぽたぽたと降り出した雨は瞬く間に豪雨へと変わり、慌てて鞄を開けたところで気が付いた。

……しまったな、傘は大学か……

そう言えば昨日通勤のときに使って、そのまま大学に置いてきてしまった。本屋に戻って傘を借りるか、それとも喫茶店などで雨宿りをするか。いっそのことタクシーで自宅まで帰るという手もある。
ざあざあと降りしきる雨に打たれながら考え込み、サイラスの脳裏に閃いたのはそのどれでもない妙案だった。あそこなら歩いてすぐの距離だし、拭くものも借りられるだろう。そうと決まれば迷いはなく、紙袋を胸に抱えるようにしながら駆け出した。

***

――とあるマンションの一室の扉に鍵を差し込む。当たり前のように鍵は回り、ゆっくりと扉を開いた。

……お邪魔します」

小さな呟きに返ってくる言葉はなく、薄暗いなか壁を撫でるようにして手を這わせ、手探りで廊下の電気をつけた。家主のいない室内はしんと静かで、いつもより少し淋しげな印象を与える。玄関で靴と靴下を脱ぎ捨て洗面所に向かい、タオルラックから一枚黒いタオルを拝借して顔を拭いた。

(先に連絡を入れておこうか……

拭いた手で鞄の中からスマートフォンを取り出し、メッセージアプリを起動する。今も仕事中である恋人に、雨宿りをさせてもらっている旨の簡潔なメッセージを送信した。

――サイラスが恋人の家の鍵を受け取ったのは、一ヶ月前のことだった。その日はたまたま自分の仕事が早く終わったのに対しオルベリクは急なトラブルで残業になり、結局小一時間ほど近所の喫茶店で彼を待つことになったのだ。サイラスは読書をしていたため気にしていなかったが、その晩オルベリクは家に着くなり一本の鍵をサイラスに差し出した。

……今度からはこれを使ってくれ。俺が不在の時に来ても構わん』
『気にしなくてもいいよ。私は待つのは苦手ではないからね』
『受け取って欲しい。……遅くなってしまったが、いずれお前に渡したいと準備していた』

思い出すとくすぐったい気持ちになって、自然と笑みがこぼれる。また一つ彼から受け取ったものが増えたことが嬉しかった。けれどその心地良い気分はずっとは続かず、濡れて肌に張り付いた衣服が冷え体が震えた。

……っくしゅん」

小さくくしゃみをしたのと、スマートフォンの画面が点灯したのはほぼ同時だった。思ったより早く返信が来たことに驚きながらメッセージを確かめると、シャワーや着替えも好きに使っていいから風邪を引かないようにしろと書かれていた。
寝室や風呂場にも足を踏み入れたことがあるとは言え、そんな図々しいこといいのだろうかと躊躇したが、このままでは体が冷えてしまうことも間違いない。もしサイラスが体調を崩せば、オルベリクに余計な心配をかけてしまうだろう。

(ここはお言葉に甘えさせてもらおう)

お礼のメッセージを打ち、風呂場へと向かう。濡れて重たくなったジャケットを脱ぎ、着替えはどうしようかと逡巡したとき視界の端の脱衣かごに気づく。かごの中には今朝まで着用していたのであろう寝間着が入っており、広げてみてもあまり汚れてはいない。

……ふむ」

自分より上背もあり体格も良い恋人の背中を思い浮かべながら、広げたシャツを肩に当てる。満足して一つ頷くと、サイラスは手早く服を脱ぎ浴室へと足を踏み入れた。

***

マンションの駐車場で車から降り、ドアを閉めてからオルベリクは今更ながら思った。

……洗濯機の使い方くらい教えておけばよかったな)

もちろんサイラスとて一人暮らしをしているのだから、洗濯くらいは出来よう。しかしそもそも家主の許可なしに家電を使うような浅慮な男ではない。使い方を教えると言うより、使ってもいいのだと説明しておくべきだったか。
いや、それよりもサイラスの着替えを用意するほうが簡単か。それならついでに、日用品も幾つか彼専用のものを揃えてやりたい。どちらかというと家具や日用品は少ない方である自分の家が、少しずつ恋人のもので埋まっていくかと思うと悪くない気分だ。想像しているとあっという間に家の前に着き、鍵を回してドアを開ける。

「ただいま」

いつもだったらしんと暗い家は、今は白い明かりが灯っている。たったのそれだけでも、一人暮らしが長い身には誰かが家にいることの安らぎが沁みた。しかし肝心のサイラスが出迎えてくれる様子はなく、返事もない。どうせ本でも読んでいるのだろうとリビングに向かうと、ソファーに座る背中が見えた。毛布に包まりながら案の定熱心に本を読んでおり、華奢な肩にぽんと手を置く。

「サイラス、帰ったぞ」
「あ、おかえりオルベリク。すまない、好意に甘えてシャワーと着替えを借りたよ」
「構わん。洗えるものは洗って乾燥機に掛けてしまおう、使い方を教えておくから……
「それはありがたい! 是非ご教授願おう」

するとサイラスが立ち上がり、毛布を床に落とす。そしてはじめて露になった彼の格好に、オルベリクは目を剥いた。

「なっ……! お前、なんて格好を……!」

サイラスが身に纏っているのは、オルベリクの白いTシャツたった一枚だった。肩幅も腕周りも丈も、何もかもサイズが合わないシャツは彼の太腿を覆い隠しはしているが、膝から下は隠されることなくすらりとした脚が曝け出されている。
唖然とするオルベリクと対照的に、サイラスは落ち着いた様子で説明しだした。

「ん? ああ、この格好かい? 下は腰囲も丈も全く合わなくてとても着られなかったから、シャツだけ借りたよ」
……風邪を引いたらどうするんだ……
「毛布を掛けていたから大丈夫だよ。そうそう、見てくれオルベリク! この本なのだが、実に興味深い本でね。以前あなたと待ち合わせをした古書店を覚えているかい? そこの店主から連絡があって……

床に置いた紙袋から本を出し、机の上に重ねながらサイラスは嬉々として本のタイトルや内容について説明し始める。しかしオルベリクが気になるのは本よりも、屈む度にちらちらと揺れるシャツの裾だ。言葉の雨を浴びながら意を決して、サイラスが背を向けたタイミングでシャツの裾を掴んで捲くりあげた。

「あっ」
「っ……! な、何故履いていないんだ……!」
「何故って……下着も濡れてしまったから、仕方がないだろう?」
「仕方ないで済ませられるか! 恋人の、俺の前でこんな無防備な格好しておいて……どうなるか知らないとは言わせんぞ」
「んっ、ちょっと、まだ……話し中じゃないか……っ」

裾を下ろそうとするサイラスの手を払い除け、剥き出しの白い尻を掴むように揉むとびくりと華奢な背が震える。困惑するような声が悩ましげな吐息に変わるまで時間はかからず、水分を含んでしっとりとした髪から覗く形の良い耳がじんわりと赤く染まった。
戯れのような些細な抵抗すら諦め、されるがままの姿にむらむらと腹の底から熱が湧き上がってくる。興奮のままに腰を抱き寄せ、ソファーに仰向けに押し倒した。戸惑いながらも、色を知った男は濡れた瞳でオルベリクを見上げた。

「ッオルベリク……
「サイラス……これでは、誘われていると取られても当然だぞ」
「あなたになら見られてもいいと思ってはいたが、誘っているつもりは……あっ……

柔らかな内腿を指でなぞりながら、ネックラインから覗く鎖骨に舌を這わせると、組み敷いた体が跳ねる。薄い胸が不規則に上下し、もどかしそうに身を捩るさまがまた色っぽくオルベリクの劣情を煽る。咎められないのを良いことに手付きは次第に大胆になり、太腿を揉みながらシャツの裾を捲くり上げた。
するとサイラスは、甘ったるい吐息を漏らす唇をつんと尖らせる。

「もう、せっかくシャワーを浴びたのに……また浴びるようなことをするのかい?」
「風邪を引く前に温めてやろうと言っているんだ。……嫌か?」
「嫌ではないよ、あなたに甘えたかったのは事実だから……でもお手柔らかに頼むよ」
「さあ、どうだかな。それを聞いたら余計に離してやれそうにない」

裸同然の格好の恋人を抱き締めると、とくとくと速い鼓動を感じる。呆けたように薄く開いた唇に自分のそれを重ね、熱い舌を絡め取った。




***

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