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雪華
2020-09-22 18:07:50
4191文字
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オルサイ
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【オルサイ】innocence【女体化】
※サイラスが先天性女体化です!先天性女体化のサイラスが男装して旅立って、オルベリクがうっかりラッキースケベした話の続き。まだデキていない5話目。デキていないんだよなぁ……。
「火炎よ、焼き尽くせ
……
!」
詠唱とともに放たれた炎が、魔物を包み込み燃え盛る。肉の焦げる臭いを厭う間もなく、炎の中から何かが飛び出した。羊に似た魔物は毛皮を焦がされながらも、果敢に立ち向かってくる。真っ直ぐサイラス目掛けて走るその道行きを塞ぐように立ちはだかり、剣を構えた。
「オルベリク、上だ!」
「
――
!」
血の匂いにつられてきたのか、上空からコウモリ型の魔物が近付いていることに気付く。サイラスはすぐに魔法を放とうと詠唱を始めるが、間に合わない。上空から一撃もらうことを覚悟で、まずは目の前の魔物を切り伏せた。
幸いにもコウモリがターゲットにしているのは前線に立つオルベリクで、サイラスではない。鋭い牙が頬を掠めるが怯まず切り込もうと踏み出した瞬間、がくりと膝が折れた。
「くっ
……
!」
「オルベリク
……
!」
急激に瞼が重たくなり、指先から脱力していく。この強烈な睡魔は、敵の持つ毒の一種か。とにかく剣を振らなければ
――
相手の牙が彼女に届く前に。そう思いながらも、オルベリクは剣を取り落とす。まずい、と思ったまでは確かに記憶にある。
後に響いたのは悲鳴ではなく、凛と張った美しい声。冷たい風が頬を撫でたことを知覚することなく、オルベリクの意識は暗闇に落ちた。
***
不意に意識が浮上し
――
はじめに見たものは、ランタンの炎に照らされながら心配げにオルベリクを見下ろすサイラスの顔だった。その向こう側には満天の星が広がっており、あれから数時間以上の時が経過していることを知る。思わず地面に手を付き起き上がろうとしたが、サイラスに柔く肩を押して制された。
「っ敵は
……
」
「大丈夫だよ。あなたが魔物を引き付けてくれたから、私の魔法で倒した。まだ起き上がらないほうがいい、倒れた時に頭を打ってしまったようだから
……
」
優しく頬を撫でたものは、サイラスのハンカチだろうか。肌触りからしても上等なものであることが分かるそれは、アトラスダムを発つ時に持ち出したのだろう。瞬きをしながらそう考えているとふと、柔らかいものが己の頭の下にあることを知覚する。
「すまない、本当は安全なところまであなたを運べたら良かったのだが
……
引きずるわけにも行かなかったし、怪我の具合を確かめるだけで精一杯だった」
話しながら、サイラスは垂れてきた髪をそっと耳にかける。彼女はオルベリクと目を合わせるために、普段はピンと伸ばしている背を少し丸めていた。そう、オルベリクの頭は
――
地面に座るサイラスの腿の上にあった。
常であれば見下ろすことが多い彼女に、反対に見下されている。どの角度から見ても相変わらず美しいサイラスに膝枕をされていると思うと、急に気恥ずかしくなり今度こそ体を起こした。
「す、すまん、重いだろう? もう起きられる」
「大丈夫かい? 無理はしないほうが
……
」
「いや、もう十分だ。毛布でも敷いておいてくれればよかったのだが
……
」
ゆっくりと身を起こし、自分の後頭部に手をやる。未だ少し温もりが残っているようだが、指で触るとこぶになっているところがあった。受け身も取れずに倒れ込んだせいだろう。
「毛布では薄すぎて心許なかったからね。頬の傷は止血して水で洗っておいたよ」
「ああ
……
ありがとう。すまん、戦闘中に昏睡してしまうとは
……
」
「魔物の強力な毒だから、仕方のないことだ。私に受け止めてあげられる腕力があったら良かったのだが
……
」
「大の男でも難しいことだ。次に同じようなことがあっても、受け止めようとは思うなよ。お前に怪我をさせるだけだ」
頬をなぞると、血は止まっているものの浅い傷が残っていた。あれからかなりの時間が経過しているところを見ると、どうやらサイラスはオルベリクが自然に目を覚ますのを待っていたらしい。
「睡眠の治療ハーブは切れていたのか?」
「ああ、うっかりしていたよ。次の町に着いた時に補充しよう」
「そうだな。
……
サイラス、そのハンカチに付いている血は
……
」
サイラスがハンカチを仕舞おうとする時に、見えてしまった。レースの刺繍が施された繊細なハンカチはところどころ赤黒く染まり、元の純白さを損なっている。
「すまん、俺の血だろう? こんなに汚してしまってはもう落ちんだろうな
……
」
「気にしないでくれ。清潔な布を正しい用途に使った、ただそれだけだよ。それに、あなたの血は汚いものではないから」
「だが、アトラスダムから持って来たものだろう? 思い入れもあるのではないか」
「生憎、物にはあまり執着しない方でね。これが世界に一冊の本なら別だが、いくらでも替えのきくものには思い入れを持ちにくいんだ。それより
……
私を守ってくれてありがとう、オルベリク」
にこりと柔らかく微笑むサイラスに、オルベリクは何と言葉をかけたらいいのか分からなかった。たかがハンカチと言ってしまえばそれまでだが、大きな街でしか買えないような上等なものだ。もしかしたら贈り物かもしれないし、思い出を血で汚してしまったか可能性もある以上、彼女の言葉通りには受け取れなかった。
黙ってしまったオルベリクを見て、サイラスは少し眉を下げて困ったように首を傾げる。その手元にこびりついてしまった赤黒いものは、サイラスの清らかなイメージとはかけ離れていた。
***
それから数日後、二人はリバーランド地方へ足を踏み入れた。ちょうど立ち寄った町には行商が来ており、随分活気づいている。
サイラスは盛況な市場を覗き込み早速気になる本を見つけたようで、数冊胸に抱えて意気揚々と宿へと向かった。その小さな背中が建物に吸い込まれるのを見送り、オルベリクも消耗品を買い足すべく露店を覗く。
(ん
……
?)
その中の一つ、普段なら気にもしないものに目が向いた。まるで引き寄せられるように手に取ったそれは、意識の外から飛び込んできたのにあつらえたかのように丁度いい。
旅の資金とは別の個人的な財布から代金を支払い、荷物の中に仕舞う。そして腕に覚えがある者がいないか暫く町を見て回って、宿へと向かった。
自分に宛てがわれた部屋の隣の扉を、二度ノックする。返事がないので呼びかけてノックを繰り返すとようやく内側から扉が開いた。
「オルベリク、どうしたんだい? もう夕飯にするかい?」
「いや、少し渡したいものがあるだけだ。これをお前にと
……
」
「立ち話もなんだろう? 入ってくれ」
そう言って、サイラスはあっさりオルベリクを部屋に迎え入れた。独身の女が簡単に男を部屋に上げるなと言いたいのをこらえ、部屋に入る。サイラスは寝台に腰掛け、オルベリクに椅子を勧める。腰を下ろして改めて、サイラスに白い包みを手渡した。
「何が入っているんだい? 随分軽いね、厚みもあまりない
……
本でも食べ物でもなさそうだ」
「大したものではない。開けてみてくれ」
「ではお言葉に甘えようかな」
両手で持ったり軽く指先で押したりと開ける前に中身を当てようとしていたが、オルベリクから促すとサイラスは大人しく包みを開いた。中から取り出したものを見て目を瞠る。
「これは
……
ハンカチかい?」
「ああ。この間、汚してしまっただろう? 詫びとして受け取って欲しい」
「気に病む必要はないと言ったじゃないか。あの程度のことであなたが詫びをするなら、私だってあなたに詫びをしなければならないことがたくさんあるよ」
「それとこれとは話が別だ。とにかく、俺の顔を立てると思って貰ってやってくれないか」
サイラスの手に収まった薄水色のハンカチは、まるで初めこうあるべきだったと言わんばかりの落ち着いた佇まいをしているように見えた。サイラスはハンカチとオルベリクの顔を交互に見て、軽くため息をついた。
「
……
あなたがそこまで言うのなら
……
これは受け取らせてもらう。けれど謝罪の品ではなく、純粋にプレゼントとしてもらっておくよ」
「ああ。それでも構わない」
「では
……
ありがとう、オルベリク。早朝の空のような綺麗な水色だね。刺繍がしてあるがこれは
……
デイジーだろうか」
「そうらしいな」
やっとサイラスの表情が緩み微笑んだのを見て、内心胸を撫で下ろした。決して機嫌を取ろうとしたわけではないが、損ねてしまったら元も子もない。白魚のような指先が繊細な刺繍を撫で、優しく両手で挟み込む。
「行商から買ったのかい?
……
他にも色や種類があったのかな」
「ああ。もっと濃い色のものや、形も様々だったな
……
好みではなかったか?」
「ううん、好きだよ。それにあなたが私のために選んでくれたのだと思うと、すごく嬉しい。ありがとう」
「そ、そうか
……
良かった」
『好きだよ』
――
その無邪気な言葉に、どきりと心臓が跳ねる。オルベリクに向けられたものではなく、単に贈り物を気に入ってくれたから出た言葉だ。そう思っていても、甘い響きは毒のようにオルベリクの体内を巡った。そんなオルベリクの胸中など知る由もないサイラスは、うっとりと呟く。
「こんなに可愛らしいもの、使うのがもったいないね。大事にしまっておきたいくらいだよ」
「
……
物には執着しないんじゃなかったのか?」
「このハンカチは、あなたが私に贈ってくれた世界でたった一枚のものなんだよ。特別に感じるのは当然だろう?」
頬を薔薇色に染め柔らかく微笑まれると、オルベリクの体温は上がったままになってしまう。動揺を誤魔化すように、手持ち無沙汰な指を組んだ。
「
……
まぁ、好みから外れていないのなら良かった」
「大切にするよ。そうそう、デイジーの花言葉を知っているかい? 赤いデイジーは無意識、白は無邪気、それからデイジー全般を指すものとしては平和、希望
……
後は、純潔かな」
「お前は
……
花にも詳しいんだな」
「まぁね。ちなみにフラットランド地方ではポピュラーな花の一つで、花期はおおむね
……
」
機嫌良くデイジーについて語りだしたサイラスの言葉を聞きながら頷く。やはり、彼女にぴったりだった。清らかで美しい、純潔を思わせるサイラスに。
――
彼女自身のことも、あのハンカチのようにオルベリクが汚すのだろうか。つい思い描いた倒錯的な光景をそっと胸にしまい込み、相槌を打った。
***
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