雪華
2020-08-24 23:29:07
4156文字
Public オルサイ
 

【オルサイ】獣の夜

お題箱でいただいたお題「久しぶりに宿屋でふたり部屋になって、皆の前では普段と変わらない様子だったオルが部屋に入った瞬間サにキスをして迫る」(要約)でした!微エロです。

サイラスが一人きりでアトラスダムを発ってから、どれくらいの月日が流れただろうか。
元々好奇心が強い性格が幸いしたか災いしたか、サイラスは行く先々でひとに声を掛けいつしか八人と一匹で旅路を共にするようになっていた。互いの旅の目的――その終着点が見える頃には、随分気安い仲になったと思う。

「サイラス」

軽く肩を叩かれ、顔を上げる。旅路を振り返りながら歩いていたせいか、いつの間にか歩みが遅くなり殿を歩いていたようだ。

「町が見えてきたぞ。先程からぼんやりしているようだが、大丈夫か?」
「ああ……少し考え事をしていただけだよ」

ウッドラインド地方の鬱蒼とした森を抜け、前方には並び立つ建物の姿が見える。日暮れ前には町に入れそうだと思うと、知らず知らずのうちに安堵の息をついていた。ここ暫くは野営が続き、交代で番をする気の休まらない夜だったが今日はゆっくり眠れそうだ。

「久々に屋根のあるところで眠れそうだね」
……そうだな」

七人の中でも特に彼――オルベリクはサイラスにとって特別だった。二人の関係性はある時、友人という垣根を飛び越えいわゆる恋人と呼べるものになった。
話しながらさり気なく小指を彼の指に絡めると、オルベリクも静かに応じる。旅路がより一層険しくなっていくせいか、最近は二人きりの時間が殆ど作れずにいた。寂しいと思わなくはないが、こうして指を触れ合わせ彼の隣にいるだけでも温かい気持ちになる。

「あっサイラス先生、町に着いたらすぐに消耗品を買い足そうと思うけどいいかしら」
「もちろんだよ。何か不足しているものがあるかい?」
「プラムがあと三つしかないの。それから、調味料も塩がもうないし……

トレサが振り返ると同時に手を振り解き、微笑み返す。彼女が何かを指摘することはなく、買い足すものを指折り数えて挙げていく。それを聞きながら、僅かに感じた名残惜しさを振り払うように少し早足で歩き出した。

***

ウッドランド地方とフロストランド地方を繋ぐ主要な道から少し外れた町は、規模は大きくないが清潔で和やかな雰囲気だ。手早く消耗品を買い足し宿へと向かうと、宿の女将は満面の笑みで旅人たちを迎え入れた。大部屋はないそうで、二人部屋を四つ押さえて食事のため隣の酒場へと向かう。
酒場も小さいが盛況なようで、長テーブルを八人で囲った。料理はまとめて注文し、運ばれるのを待ちながら談笑する。

「部屋割りはどうしましょうか。トレサさん、いつものようにお願いできますか?」
「ええ、まかせて! くじ引きでいきましょう!」
「あなたたちはどうするの?」
「私たちは……いつも通りでいいだろう?」
「そうだなー。先生と旦那、俺とテリオンでいいだろ」

女性陣は部屋割を都度話し合いやくじ引きで決めているようだが、男性陣はいつしか暗黙の了解で振り分けることになった。その方が都合がいいからサイラスから特に何か言うことはないが、もしかしたら彼らには二人の関係を気取られているのかもしれない。
藪蛇を突くつもりもなく、それ以上部屋割りについて言及しないでいると料理が運ばれてきた。メインはウッドランド地方の香草を中心としたスパイスを、皮目にたっぷりと擦り込んで焼いた鶏料理。保存食のみではなかなか摂れない新鮮な野菜を使ったサラダに、こちらも野菜たっぷりのトマトスープ。それにパンと副菜の皿が並べば、テーブルはあっという間に料理でいっぱいになった。

「こうして見ると、相変わらず凄い量だね……
「ふふ、食べ盛りが多いからね」
「それじゃぁ、食べましょう! いただきます!」
「いただきます」

旅は体力を消耗する上に、仲間達の大半は元気が有り余る若者だ。特にトレサやアーフェンの食べっぷりを見るのがサイラスは好きで、彼らが大皿をぺろりと空にしてしまうのを見ているとついつい自分の手元が疎かになってしまう。
どんどん取り分けられて減っていく料理を見ながら、スープをスプーンで掬って口に運ぶ。

「ねえオルベリクさん、さっきの戦闘すごかったわね!」
「そうか?」
「そうそう! 魔物が攻撃を仕掛けてくるところで、あたしを地面に伏せさせて……
「ああ、あれはすごかったね。体が前傾していたのにぶれることなく剣を振り上げ、そして素早く立ち上がって追撃……とても真似できそうにないな」

トレサが興奮気味に語ったのは、今日の戦闘の一幕のことだ。特にサイラスは後方から魔法を使っていたからはっきりと目撃した。オルベリクはトレサを敵の攻撃から守るように地面に伏せさせ、次いですぐに反撃に転じた。彼の腕力が仲間内随一であることは疑いようもないが、強いだけではなく柔くしなやかに肉体を使う。

「体幹が良いんだろうなぁ、旦那は」
「朝の鍛錬の時に柔軟も行っているんだろう?」
「まぁな……強いだけでは勝てるものも勝てんからな。大切なのは体の使い方だ」
「使い方ですか……

感心したような呟きにオルベリクは頷く。曰く、柔軟性が良い方が怪我もしにくいということだ。どちらかというと体が硬い部類に入るサイラスには耳の痛い話だ。

「わたしも柔軟体操などをしたほうが良いのでしょうか……
「無理にすることはないが、しておくに越したことはないな。そういうことであれば俺以外にも、テリオンやプリムロゼが詳しいだろう」
……おい、勝手に俺を巻き込むな」
「ふふ、私で良ければいつでも教えてあげるわよ。今日のお風呂上がりにでも一緒にしましょうか」

話を聞きながら瑞々しい葉物野菜を口に運ぶ。ちょうど今夜はオルベリクと相部屋だから、柔軟運動について教えを請おうかと考え、ふと気付いた。

(そうか……久し振りに二人きりになれるのか)

それも一晩中となるといつぶりだろうか。今は目的地への移動の途中で、明日も特別厳しい道程ではない。そういう日は大抵、オルベリクから共寝をしようと寝台に誘ってくれるのだ。戦闘中の苛烈な様とは打って変わり、疲れていないかとサイラスを優しく気遣ってくれる――思い出すだけでつい頬が熱くなった。

(いけない、私はなんてことを考えているんだ)

軽く頭を振って、不埒な気持ちを誤魔化すように水を呷る。夜のことを考え動揺するサイラスとは違い、オルベリクはいつもと変わらない調子で体捌きについて説いていた。それを見ていると自分だけ期待しすぎているようで、妙に恥ずかしかった。

***

その後は何事もなく食事を終え、宿へと戻った。後は自由に過ごそうと、宿のロビーでみんなとは別れることにした。

「じゃぁ、おやすみー」
「おやすみなさい」
「おやすみ、みんなゆっくり休むんだよ」
「サイラス先生こそ、読書に夢中になって夜更ししないでね!」

最年少のトレサに唇をつんと尖らせて指摘され、苦笑いを返した。
サイラスとオルベリクが宿泊予定の部屋は、みんなの部屋とは少し離れた上階の角部屋だ。階段を上がって廊下を歩き、鍵を差し込む。

「トレサ君は手厳しいな。私だって、みんなには迷惑を掛けないようにしているつもりだがね」
「お前を心配しているのだろうな」
「うーん、生徒ほど年の離れた彼女にそう言われるのは、なんだか複雑だな……どうぞ、オルベリク」
「ああ」

扉を開いてオルベリクを先に入室させ、サイラスもその後に続く。後ろ手に扉を閉め鍵をかけた瞬間、大きな手に肩を掴まれた。

「オルベリク――?」

まだ灯りすらついていない薄暗い室内の中で、突然唇を奪われた。思わず身動いだが、それを許さないほど強い力で扉に背中を押し付けられる。

「ん、んぅっ……

分厚い舌がサイラスの唇を割り開き、口内を蹂躙してゆく。歯列をなぞり、舌先で上顎を擽られると息が上がった。どうしてこんな突然――そんな戸惑いを置き去りにするように、熱い舌に自身のそれを絡め取られると鼻にかかった声が漏れた。

「ぁ……

深いキスをされると、頭の奥が痺れて思考が鈍る。サイラスの抵抗が薄まったのを良いことに、足の間にオルベリクの膝が差し込まれびくりと体が跳ねる。布越しとは言え直接下半身を圧迫されるとどうにも弱く、胸板を押し返す手にはろくに力が入っていなかった。

「っ……ン、んん……

くちゃくちゃと音を立てながら柔らかい舌を重ね合わせ、逞しい足に下半身まで嬲られ力なく瞼を閉じる。するとようやく唇が離れ、脱力した体を半ば抱えるようにして寝台に押し倒された。

「っはぁ、はぁ、ま、まって……汗、かいているのに……
「気にならん。それに、どうせ今から汗をかくのだから同じだろう?」
「いや、それは違うよオルベリク。私は、あなたに汚れた体を触らせるわけにはいかないと……ん、」
……大丈夫、お前はいつも綺麗だ」

言葉を奪うように唇を塞ぎ、そして低い声で耳元に囁かれるとぞわりと背筋が震える。屁理屈を捏ねているのがどちらなのかも分からなくなってきたが、サイラスとて行為自体は嫌ではないのだ。寧ろ恥ずかしながら、望んでいたと言っても過言ではない。
否定の言葉がないことを肯定的に受け取ったのか、オルベリクは慣れた手付きでサイラスのローブを脱がせ、胸元のタイを引き抜く。先程まで仲間達の前で年長者として振る舞っていたのに、この変わり身の速さは一体何だ。私は邪な妄想が入り混じった夢でも見ているのだろうかと瞬きを繰り返す。

「なんだ? 言いたいことがあるのなら今のうちに言っておけ。……すぐに喋れなくなるからな」
……いや……あなたにこうも強引に迫られるとは、思わなかったから……
「俺だって男だぞ。久々にお前と二人きりで夜を過ごせるのだと思うと、獣にもなるだろう」
「そう……そうだね」

臆面もなくはっきりと言われると面映いが、サイラスとてその気持は分からなくはない。何しろ自分も同じ想いなのだから。褐色の瞳の中に揺らめく情欲の炎を認めると、つられるようにサイラスの体温も上がってゆく。
両頬に手を添えその瞳を覗き込み、今度はサイラスから唇を合わせる。それを合図に、互いの熱を求め合うように肌を重ねた――




***

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