雪華
2020-07-06 23:14:52
7031文字
Public オルサイ
 

【オルサイ】Keep your promise【女体化】

※サイラスが先天性女体化です!先天性女体化のサイラスが男装して旅立って、オルベリクがうっかりラッキースケベする話です。何でも許せる方向けです。

『改めて自己紹介をしておこう。私はサイラス・オルブライト、アトラスダムで学者をしていた。これからよろしく頼むよ。まぁ同性同士、仲良くやっていこうじゃないか』

頭一つ分以上低い位置からオルベリクを見上げ、サイラスは手を差し出す。学者をしていたという言葉通り、力仕事とは縁のない白魚のような手を握った。その手はあまりにも小さく、柔らかかった。



――サイラスと共に旅をするようになり、早半月が過ぎようとしていた。
元はと言えば、サイラスが旅の途中でコブルストンに立ち寄ったことがきっかけだった。一人でフィリップの救出に向かおうとするオルベリクに彼は手を貸し、見事その役目を果たしてくれた。止まっていた時間を再び動かすように旅立ちを決めたオルベリクが、サイラスに共に行かないかと声を掛けることは極自然だっただろう。
旅の中でサイラスとは様々な話をした。彼が旅立った理由、目的としているもの、ホルンブルグ王国に興味を抱いていること。王女の家庭教師をしていたというサイラスはオルベリクの倍以上の言葉で饒舌に語った。そのどれもが彼の正直な本心であることに疑いはないが、オルベリクは一つだけ疑念を抱いていた。

「そう、その時ホルンブルグ王国四代目の王は……

サイラスは自分が教えていたという、ホルンブルグ王国の歴史を語りながら歩いている。その横顔はあいも変わらず整っており、切れ長の目やすっと通った鼻筋は中性的な雰囲気を醸し出している。特に赤く色づいた小さな唇は可愛らしく、可憐にすら映る。男にそのような感情を抱くのはおかしいのだが、オルベリクが疑っているのは正にそこなのである。

(こいつ、本当に男なのか……?)

なにせ幾ら学者と言えど、オルベリクと比べてその体躯はあまりにも華奢だ。手首などは強く握ったら折れてしまいそうなほど細い。香水も付けていないというのにどこかいい匂いがし、何よりも花が開くような柔らかい笑顔が愛くるしい。
ただ、女だと断定してしまうにはサイラスは剛毅だ。オルベリクと意見が食い違っても毅然とした態度で譲らないし、戦闘中も魔法は勿論、あの細腕で果敢に杖を振りかぶってみせる。珍しい植物を見つけたら手を泥だらけにすることは厭わない上、毒がない種類だからと言い平気で虫も触る。

(しかし直接聞くのもな……

仮に本当に男だとしたらその質問自体が侮辱的で、不快に思わせてしまうだろう。では女だとしたら、今度は何故隠すのかという新たな疑問も出てくる。事情があって偽っているのなら、自分から深入りしないほうがいいのではないだろうか。
男にしろ女にしろ、サイラスはオルベリクが今まで出会ったことのないタイプであることは間違いない。すると、流暢に紡がれていたサイラスの言葉が止まった。

「どうした?」
「いや、あなたが何か考え込んでいるようだったから……私の話に気になる部分でもあったかい?」
……お前の話は感心するほど細かいと思ってな。自国の歴史ですら、そこまで詳細に覚えていられる者は少ないだろう」
「私は学者だからね。あなたが剣技を磨き、他者のために振るうことと変わらないよ」

驕るわけでも、謙遜するでもなくサイラスはただ当然だと言って微笑む。学者とはもっと気難しく扱いづらいものかと思っていたが、サイラスは気安く穏やかだ。少々奔放の気はあるが、それが寧ろ年齢不相応のあどけなさを生んでいる。

「それにしても、そろそろ屋根のあるところで眠りたいな」
「そうだな……この辺りは小さな村が多いからな。また前みたいに宿が満員ということもあるだろう」
「丁度気候が良い時期なのが災いしたね。この時期ならサンランド地方やフロストランド地方からの移動も比較的楽だから、行商が活発なのだろう」

二人はここ数日リバーランド地方を横断すべく歩いていた。勿論道中に村はあったのだが、宿がなかったり満員だと断られやむを得ず野営を繰り返している状態だ。それこそ先程立ち寄った村でも同様の文句で断られ、仕方なくまた歩き始めたところだった。代わりで見張り番をする夜は決して楽なものではなく、気が休まらない日々が続いている。

「次の町まではどのくらいかかるだろうか」
「まぁ、順調に行っても丸一日はかかるな。今日も野宿は免れないだろう」
「こればかりは仕方ないね。せめて体だけでも洗いたいところだが……服も洗わなければにおいがついてしまうし、町についた時に不審がられてしまいそうだ」

サイラスは自分の手首に鼻を寄せ、においを嗅ぐような仕草をする。と言っても隣を歩いていても悪臭は感じないし、どちらかというと前衛で汗を流し続けているオルベリクのほうが臭うだろう。臭気は鼻の良い魔物を引き寄せやすいとも聞く、対処できるならしたほうが良い。

「確かにそうだな。日が落ちる前に、体だけでも洗うか……
「少し林の中に入って、遮蔽物が多い場所を探さないかい? ほら、入浴中は無防備になってしまうだろう?」
「ああ、そうしよう」

装備を解くということは人に対しても魔物に対しても無防備になる。出来るだけ人目につきにくい場所がいいだろう。サイラスの提案に頷き、木々が茂る林へと足を踏み入れた。

***

川沿いを上流に向かって歩いていると、少し奥まった場所に沢を見つけた。常に上流から流れ込む水が循環しているからか、水底が見えるほど澄んでいる。周囲には背の高い植物が多く、人の手も殆ど入っていないようだ。
恐らくサイラスが浸かっても腰に届かないほど浅いが、かえってその方が安全だろう。水流も弱く足を取られる心配もない。手で水をすくって口に含み、刺激がないことを確かめ頷く。

……ここならいいだろう」
「そうか! 良かった……では、交代で浴びようか」
「お前が先に浴びるといい。俺は見張りをしてやるから」
「いいのかい?」

ぱっとサイラスの顔が輝く。――ほんの一瞬だけ、水浴びをしている様を覗き見れば疑問が解消するのではと思ったが、すぐさま頭から振り払う。そんな卑怯な真似で答えを知ったところでどうするのか。

「ああ。俺は……そうだな、あの背の高い木の辺りにいる。必要だったら声を掛けてくれ」
「ありがとう、オルベリク」
「気にするな。後で替わってもらうのだからな」
「そうだね、では甘えさせてもらおうかな」

サイラスが真実を言っているのなら確かめる必要はない。偽っているとしても、事情を打ち明けてくれるまでは待つ。改めて自分にそう言い聞かせ、丁度遮蔽物となる草木が多い辺りを指差すと、サイラスは安堵したように唇を緩ませた。

それから暫くは沢に背を向けるように木陰に座り、剣の手入れをしていた。剣を鞘に収めようとしたところで、水音以外の何かが聞こえた。そう遠くない場所に何かがいる――。剣を抜いたまま静かに音の在り処へと近づくと、向こうもオルベリクの存在に気付いたのか茂みの中から唸り声が発された。
数秒の沈黙があり、先に仕掛けたのは敵の方だった。威嚇するように咆哮を上げ、茂みを飛び出しオルベリクの喉元目掛けて飛びかかる。

「はっ……!」

だがその牙が届く前に、剣を振り上げ首を飛ばした。狼に似た四足の魔物はどうやら一匹ではなかったらしく、それを皮切りに木陰に隠れていたものたちが一斉に飛びかかる。けれど、その単調な動きは既に見切っていた。

「横一文字斬り!」

オルベリクの愛用する剣が柔らかな毛皮を切り裂き、鮮血が噴き出す。びしゃりと頬にかかったそれを手の甲で拭い、やはり水浴びは後にして正解だと思った。
改めて死骸となった魔物を見下ろす。全て同じ種類の魔物だが、大きさが揃っている個体が多い。家族というよりは群れに見えるが、この辺りが縄張りなのだろうか。だからこの沢に人の手が入っていないのだとしたら。はっとして振り返ると、魔物が高く吠える。

「サイラス……!」

まだ他にもいたのか、装備品がない状態では渡り合えない――。咄嗟のことで完全に自分を基準に考え、疑念のことなど忘れ小枝を折りながら茂みを乱暴に抜ける。
魔物が飛びかかる姿が見え、剣を振りかぶるがそれより先にサイラスの声が響いた。

「氷よ、切り裂け!」

氷の刃が魔物を刺し貫き絶命させると、やがて端から解けて消える。はらはらと崩れてゆく氷の向こう側の光景に、オルベリクは瞠目した。
水中に立ち尽くすサイラスは当然、一糸纏わぬ姿だ。陽の光を受ける肌は白く、日中は結んでいる濡羽色の髪も解かれている。だが問題はそこではない。

――……!」

髪から垂れた水滴が形の良い鎖骨を伝い、胸の膨らみをなぞる。細いばかりだと思っていた体は腰で一度くびれ、胸元と尻にかけなめらかなラインを描いていた。何に遮られることもなく晒されている下半身に男の象徴はなく、代わりに慎ましやかに口を閉じた――

……す、すまん!」

ばしゃりと水音がしたと同時に我に返り、顔を背ける。サイラスが何かを言っているのかそれとも無言だったのかも分からぬまま、とにかくオルベリクは一目散に来た道を戻った。
暫く無心で歩きながらも、長年の習慣からいつの間にか剣を鞘に収めていた。そのまま木の幹に額を打ち付け、大きく息を吐く。完全に事故だが、言い訳できないほどはっきりと見てしまった。

(ま……まさか本当に女だとは……!)

見るつもりはなかった。確かに盗み見たらはっきりするのではないかと一瞬考えたが、本当にそんなつもりはなかった。忘れてやらなければと思えば思うほど、鮮明に思い出してしまう。日光に照らし出された、柔らかそうな体が脳裏に焼き付き離れない。
小さめだがふっくらと丸く形の良い胸元、そこに色づく赤い飾り。細いながらも女性的なカーブを描いた腰。くびれた真っ白な腹の下。瑞々しい肌には毛がなく、だからこそ女の一番大切な場所まで隠すことなく露わになってしまった。
勿論女の裸は見たことも触れたこともあるが、男だと思っていたサイラスがそうではなかったことへの驚き、そして何より互いに意識しておらず不意を突かれたからこそ鮮烈に焼き付いてしまったのだろう。

「オルベリク……? 何をしているんだい?」
「! さ、サイラス……!」

つんと背を指で突かれ、初めてサイラスが直ぐ側まで来ていたことに気付いた。それほどオルベリクは衝撃を受けていたらしい。
軽く咳払いをして振り返ると、サイラスはいつものように学者のローブに身を包んでいた。だがその胸元は控えめながらも膨らんでおり、それが否応なしに先程の光景は現実だと突き付けてくる。はっと我に返り、オルベリクは叫ぶように頭を下げた。

「すまなかった、サイラス!」
「い、いや、私こそすまなかった! 顔を上げてくれ、オルベリク」
「お前が謝る必要はない。あれは完全に俺に非がある」
「元はと言えば私が性別を偽っていたせいだよ。あなたにはいずれきちんと話をしなければいけないと思っていたが、話す機会を失っていた。まずは嘘をついていたことを謝罪させて欲しい。すまなかった」

互いにまだ動揺が収まらないせいか、何度も頭を下げ合いながらとにかく話をしようとサイラスに促され、沢のほとりに移動する。普段野営をするときのように向かい合って座り、サイラスは切り出した。

「見ての通り……私は女だ。旅自体に抵抗はなかったが、女の一人旅は少々物騒だと思い男装することを決めたんだ。あなたが女性に乱暴をするような人ではないとはすぐに分かったのだが、打ち明けずにいてすまなかった」
「いや……お前の気持ちもよく分かる。俺のことを仲間のみならず、男として信頼するのに時間は必要だったはずだ」
……すまない、試すような真似を続けるつもりではなかったんだ。だがあなたとこうして親しくなる内に、本当のことを話したら嘘をついていたのかと幻滅されるのではと思って……

サイラスの行動は理にかなっているが、少々的外れだ。親しくなった男が本当は女だと知ったからと言って、そう嫌われることはないだろう。少なくともオルベリクはそうだ。気落ちしたように項垂れた彼女に慌てて言葉をかける。

「いや、そんなことはない。俺は薄々お前が女ではないかと思っていたが、いつか事情を話してくれるだろうと聞かずにいた。俺から聞いていたらお前も話しやすかったかもしれないな」
「あなたは悪くないんだ。私が隠していたことで、あなたにその……みっともないものを見せてしまった」

白い頬にぽっと朱が差す。サイラスの言うみっともないものと彼女の服の下が一瞬結びつかず、何のことかと問うてしまいそうになった。言葉と一緒に唾を飲み込み、軽く頭を振る。

……それは、その、俺の方こそすまなかった。咄嗟のことで判断を間違えた」
「いや、反対の立場だったら私も向かっていたと思う。私の方こそ……助けに来てくれたのにお礼も言えずすまなかった。あまりにも驚いて、言葉が出なくて……
「お前でもそのようなことがあるのだな」
……だって、異性に裸を見られたのは……初めてだったんだ」

膝の上で組んだ指を絡ませながら、秘め事を打ち明けるようにサイラスは呟いた。初めてという言葉に、ガツンと頭を殴られたような衝撃を受ける。彼女は今、純潔を思わせる美しい体を、これまでただの一度も男の前に晒したことがないと言ったのだ。

「男と付き合ったことがないのかっ?」
「ないよ。私は異性に好かれる方ではなかったし、昔から本の虫だったからね」
「いやお前、それはないだろう……
「それに、裸を見せていいのは結婚すると決めた殿方だけだろう?」

もう一撃、強烈な殴打を後頭部に受けたようだった。
ずきずきと痛みだしたこめかみを指先で揉みながら、オルベリクは必死に頭を回転させる。サイラスは今何と言った?――恥じらいながら言うさまは、とてもからかっているようには見えない。彼女にとってはきっとそうなのだ。アトラスダムという大きな街で、それなりの地位の家の娘として厳しく躾けられ育ち、いつしか彼女の中ではそういう決まりごとになったのだろう。それを破ったのはオルベリクだ。

……待てサイラス、今年で三十歳と言っていたな。結婚の約束をした男はいないのか?」
「はは、私と結婚しようなどという物好きはいないよ。まぁ昔は見合い話もそれなりにあったが、そのうち両親も持ってこなくなったな」

仮にサイラスが旅の目的を達成し、誤解も解け無事にアトラスダムで復職できたとする。そうなると当然どこかで旅の経緯を話すことになるだろう。未婚の男女が二人きりで旅をしていたとなると、事実はどうであれ傷物にされたと思われる可能性は高い。そうなるとますます彼女の婚期が遠のいてしまうのではないだろうか。
オルベリクは腕を組んで唸った。共に旅をしようと声を掛けたのは自分で、事故とは言え彼女の裸を見てしまったのも自分だ。責任はある。

……一応聞いておくが、好いた男はいないのか?」
「え? うーん、恋愛的な好意を寄せたことはないな。何しろ私にとってはどんな人物より本のほうが興味深く……
「分かった、では俺が責任を取ろう」

長いまつ毛を瞬かせ、サイラスは不思議そうに首を傾げる。傷一つない手を両手で握ると、つい先程まで水浴びをしていたせいかひやりと冷たい。もしかしたらオルベリクの手が熱いだけかもしれないが。

「サイラス、もしこの旅の中でお前が好きになる男が現れなければ……俺が結婚してやる」
「結婚……あなたと? 私が?」
「そうだ。事故とは言えお前の体を見てしまった責任は俺にある。だが決して義務感だけで娶ろうとしているわけではない。俺を選んでくれたら、生涯お前を守り幸せにすると誓おう」
……そ、そんなことを言われたのは初めてだよ……

サイラスは珍しく言葉少なに視線を彷徨わせる。そう言えば先程も言葉が出なかったと言っていたが、動揺すると言葉が出なくなるのだろうか。普段の多弁な姿からは想像できないほど意外で、愛くるしい。彼女を愛し、一生の伴侶とすることには何一つ抵抗はなかった。

「この旅が終わるまで、ゆっくり考えるといい。それまでは約束だけにとどめておこう」
「結婚の約束……か。あなたは本当にそれでいいのかい?」
「俺はお前のことを好ましく思っている」
……!」

オルベリクの体温によって、彼女の指先もじんわりと温まっていく。サイラスは戸惑っているが嫌悪感はないようで、握られた手を振りほどく素振りはなかった。
数秒沈黙したかと思うと、宝石のように煌めくロイヤルブルーの瞳が真っ直ぐにオルベリクを見上げる。

……もし私が、あなたを選んだら……本当に私と結婚すると?」
「ああ、男に二言はない。……だが最後に決めるのはお前だ。時間はあるから、ゆっくり考えるといい」
……そう、そうだね……そうさせてもらうよ。ふふ、こんな風に熱心に口説かれたのは初めてだ……

サイラスは耳まで真っ赤にしながら、照れたように微笑む。はっきりと女性として意識したサイラスの笑顔は純美ながらも蠱惑的で、まるで火が灯ったように胸が熱くなった。




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