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雪華
2020-05-31 16:35:54
3095文字
Public
オルサイ
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【オルサイ】青色の想い【学パロ】
※現パロというか高校野球パロです。野球部オル×マネージャーサです。1年生のバレンタインの話です。
学年末試験を目前に控えた二月十四日、その日は朝から誰もが浮足立っていた。
どこからともなく甘い香りが漂い、女子たちは菓子を交換しはしゃぎ、男子たちは貰えただとか貰えないとか声を潜めて戦果を報告し合う。オルベリクも決して無縁ではないイベントだが、内心どこか冷めてしまっているのは仕方ないだろう。何しろ自分の『本命』からは貰えないと分かっているのだから。
そんなどこか浮ついた空気の中一日を過ごし迎えた放課後、オルベリクは掃除当番を済ませ帰り支度をした。今日は部活は休みだが、少しくらい自主トレーニングをしてもいいかもしれない。サイラスはどうするだろうかと思いながら鞄を持ち、廊下に出る。
試験期間中で部活がない上、放課後は当然ストーブも切られ教室棟はかなり冷えるからか、既に校内に殆ど生徒は残っていない。隣の教室の扉を開けると、室内には腕いっぱいに菓子を抱えたサイラスがいるだけだった。
「やあ、オルベリク」
「大層な荷物だな」
予想はできていたことだった。端麗な容姿の上成績も優秀、人当たりもよく不思議な魅力で誰も彼もを惹き付けるサイラスなら、この結果は当然だろう。彼が腕に抱えているもの一つ一つが好意の表れだと思うと、少しばかり複雑だ。例えばもしサイラスが、その中のどれかに応えたいとでも思ってしまったら
……
そう考えると仄暗い嫉妬を覚える。
けれどそんなオルベリクの胸中など知る由もない彼は、軽く首を傾げた。
「ああ、これかい? あなた宛のものもあるよ。私達の仲を知っているから、渡してほしいと言付かっていてね」
見兼ねた誰かから貰ったのか、製菓店の紙袋に菓子を詰めその内の一袋を渡された。サイラスのクラスメイトからの物だろうか。正直生徒全員を覚えているわけではないし、添えられたメッセージカードの名前を見てもいまいちピンと来なかった。
「そうか、悪いな」
「これもマネージャーの仕事だと思えばね。それから
……
これはその、本命だと預かったんだ」
最後にサイラスの手ずから渡されたのは、紺色の箱に細い銀のリボンがかかったチョコレートだった。二つ折りにされたメッセージカードが添えられており、表面にはオルベリク自身の名が綴られているだけで差出人の名はない。けれどその筆跡は、間違いなくサイラスのものだった。事態を飲み込む前に、動揺のまま口を開く。
「お前が俺に?」
「! ど、どうして私だと
……
」
「お前の字は見慣れているからな。読んでもいいか?」
「あ
……
」
承諾を得る前にメッセージカードを取り開く。そこには簡潔に『好きです。これからも応援しています』と綴られていた。スコア付けや活動日誌の記入はマネージャーであるサイラスの仕事で、彼の書く文字を目にする機会は多い。けれどカードの文字はいつもの流麗で整ったものではなく、彼の心の揺れを表すかのように僅かに震えていた。
「
……
サイラス」
「へ、返事を聞きたいわけではなかったんだ
……
」
署名がなければ差出人が誰か気付かないと思っていたのだろうか。サイラスは耳まで真っ赤にしながら俯き、たどたどしく言い訳のように言葉を紡いだ。
「
……
私はただ、伝えたくて
……
それだけだった」
「ありがとう。顔を上げてくれるか?」
けれど、サイラスはふるふると頭を振る。頭の回転が速く喋り好きで、今日も山のように菓子をもらうほど魅力的な彼が言葉に詰まり、拒絶されることに怯えている。そう思うと愛おしさで胸がいっぱいになった。
「サイラス」
優しく語りかけ、柔らかい頬に指先で触れるとようやくおずおずと顔を上げてみせた。不安げに揺れる瞳は今にも零れそうなほど潤んでいる。こんなにも一生懸命に自分のことを想ってくれているとは、なんと健気で可愛らしいのだろうか。どくどくと煩い鼓動を落ち着かせようと深呼吸をした。
「俺もお前のことが好きだ」
「
……
それは、」
「友人として言っている訳ではない。俺はお前にずっと恋をしていた」
サイラスははっと息を呑み、オルベリクを真っ直ぐ見つめる。いつか伝えたいと想っていたことだが、まさか彼も同じ気持ちで先を越されるとは思わなかった。
「俺と、付き合ってくれるか?」
「うん
……
喜んで。ああ、だめだな
……
気持ちが昂ぶってしまって
……
」
瞬きの拍子に、青空のような澄んだ瞳から涙が一筋零れた。指先でそれを拭ってやると擽ったそうに笑う。涙で濡れた睫毛はきらきらと輝いているようで、より彼を美しく見せた。
「
……
私もずっとあなたに恋をしていたんだ。あなたについてもっと知りたかった。あなたが真剣に打ち込む野球とはなんだろうと興味を持って、マネージャーに志願したんだよ。もちろん、今は野球という競技自体も面白いと思っているがね」
「そうだったのか
……
」
「入学してからずっと、図書室からあなたが練習しているのを見ていたんだ。知らなかっただろう?」
いたずらっぽく微笑まれ、一瞬言葉に詰まった。もちろんそんなに前から彼が自分を見ていたことに驚いたこともあるが
――
同じだったから。
「
……
知っていた」
「え?」
「俺だって、図書室にいるお前を見ていた」
窓際の席に座って本を読むサイラスの姿は、不思議とオルベリクの視線を引き寄せた。決して派手ではない静かな立ち振る舞いは純美で、自分とは違う世界の人間だとすら思えた。
けれどそんなある日、青い瞳がふとこちらを向き視線が交わると、サイラスは花が開くような柔らかい笑みを見せた。今思うと、あの時既に自分は恋に落ちていたのかもしれない。
「ふふ
……
私達ずっと、恋をしあっていたんだね」
「そうみたいだな」
喜びや僅かな気恥ずかしさが入り混じり、胸の辺りがそわそわして落ち着かない。サイラスも同じなのか赤い顔のまま、珍しく視線を泳がせている。
二人きりの教室はやけに静かで、まるでここが世界の全てのようだった。だから少し、魔が差してしまったのかもしれない。
「
……
オルベリク?」
頬に手を添え、軽く上向かせるとサイラスは不思議そうに己の名を呼ぶ。その柔らかい小さな唇に吸い寄せられるように顔を近づける。ドキドキと早鐘を打つ鼓動が、周囲の雑音をかき消してゆく
――
しかし唇が重なり合う直前に教室の扉が開き、オルベリクは咄嗟に手を引いて一歩後退った。
「げっ」
「ラッセル
……
どうしたんだい?」
「あー、忘れ物を
……
いや、気の所為だったか
……
」
サイラスのクラスメイトだろうか。男子生徒は二人を一瞥したかと思うと、ぶつぶつと呟きながら踵を返し教室を出てゆく。ぴしゃりと扉が閉ざされると、教室内は気まずい沈黙に包まれた。
(俺は一体何を
……
)
幾ら何でも性急過ぎた。しかも誰が見ているかも分からない校内でするようなことではない。ガシガシと乱暴に自分の髪を掻き乱し、ため息をついた。
「
……
見られたな。変な噂にならないといいが」
「彼なら大丈夫だよ。
……
帰ろうか。それとも、少し部室に寄っていくかい?」
「いや、今日はやめておこう」
どうも顔の赤みが引きそうになく、このまま部員と会えば妙な詮索を受けてしまうかもしれない。今日のところは大人しく帰って、筋トレに勤しもう。サイラスも赤い顔のまま頷いた。
「
……
帰るか」
「うん」
並び立って歩く二人の距離は、昨日までのそれと変わりはない。けれど視線を合わせると照れたように微笑まれ、確かに今日二人の関係が変わったことを自覚させられる。どこか夢心地のまま、ゆっくりと帰路についたのだった。
***
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