※現パロというか高校野球パロです。野球部オル×マネージャーサです。1年の冬くらいのイメージでまだデキてない友達以上恋人未満な雰囲気です。考えるな、感じろ。何でも許せる方向けです。
随分と日が短くなった。一年目の夏が過ぎ、季節は秋から冬へ変わろうとしていた。サイラスは暗がりの中でも器用に部室の鍵をかけ、振り返った。
「お待たせ。いつも片付けまで手伝ってもらってすまないね」
「いや、本来なら一年生みんなでする仕事も多い。それをお前が引き受けてくれているのだから、手を貸すのは当然だろう」
「ふふ、あなたは本当に真面目だね。さ、帰ろうか」
ちゃらりと手の中で鍵を回し、鞄の中に滑り込ませる。サイラスはオルベリクが所属する野球部のマネージャーで、部室の鍵の管理も彼がしている。必然的に帰りが遅くなる彼と共に下校するようになってから、随分時間が経った。
同じクラスで、部員とマネージャーと立場は異なるものの同じ部活の仲間で、ついでに言うと帰り道も途中まで同じで。だから一緒に帰ることになるのは至極当然である、となぜだか理屈っぽく自分に言い聞かせてしまう。他意はない筈なのだ。暗い夜道をひとり帰すのが心配だなんて、本当に、ほんの少ししか思っていない。女子生徒相手ならまだしも、同じ詰め襟の学生服に身を包むサイラスにこんなことを思ってしまう自分自身が一番良く分からなかった。
「そう言えば、もうすぐ期末試験だね。自信のほどはどうだい?」
「ああ……まぁそれなりだな……」
「良かったら一緒に勉強するかい?」
「いいのか? お前の邪魔になるんじゃないか」
歩き始めてすぐに出た話題に少し憂鬱になる。勉強は苦手とまではいかないが当然好きではないし、試験期間中は部活の時間が減ってしまう。確かに教えてもらえるのなら捗るだろうが、それでサイラスの足を引っ張りたいわけでもない。入学してからこの数ヶ月間、彼は座学においては学年一位の成績をキープし続けていた。
「私は試験期間中だからと言って、特別になにかする訳ではないからね。効率的に勉強して、あいた時間を練習に充てられた方が良いだろう?」
「確かにそうだが、本当に負担ではないのか」
「勿論だよ。それに……」
はぁ、とサイラスが自分の手に吐いた息が白い。透けるような白い肌は、夏は日差しに焼かれ痛々しいほど赤くなっていたが、今は反対に寒さでじんわりと朱に染まっている。上背のあるオルベリクを見上げる瞳は、快晴の空を思わせるほど澄んでいて綺麗だった。
「……二人で勉強するのなら、部活がなくともまたこうして一緒に帰れるだろ?」
ドキ、と心臓が飛び跳ねた。動揺するようなことではない、彼も純粋にこの時間を楽しんでくれているただそれだけなのに。どくどくと心臓が激しく脈打ち、窺うような視線から逃げるように目を逸らした。
「ああ……そう、そうだな」
「ふふ。あ、今日は買い食いするかい?」
「そうだな……して帰るか。どうも筋トレ中心だと腹がへる」
いつもではないが、時折学校近くのコンビニエンスストアに立ち寄って買い食いしながら帰ることもある。サイラスははじめこそ買い食いなどしたことがないと驚いていたが、夏はたまにアイスを買ったりしてすっかりこの素行に馴染んでいた。
オルベリクは肉まんを、サイラスはあんまんを買って店を出る。行儀よく両手で持ったそれに息を吹きかけながら、彼は嬉しそうに微笑む。
「一度食べてみたかったんだ、こういうの」
「食べたことないのか?」
「うん。熱いかな?」
「中の餡が熱いから気をつけろよ」
「ん」
はっきりとは言わないものの、サイラスはそれなりに良い家の出で両親も厳しいということが言葉の端々から読み取れた。確かに野球部という完全な男所帯の中で、彼の上品で丁寧な振る舞いは妙に浮いていた。――時折くらくらして、その所作から目が離せなくなってしまうほどに。
熱いと忠告を受け、サイラスは懸命に息を吹きかけかぶりつく。小さな唇ではまだ中身に辿り着けなかったのか、不思議そうに首を傾げる様に何か言いようのない気持ちが込み上げ、誤魔化すように自分も肉まんを口にする。二口目でようやく餡を口にできたようで、サイラスは満足そうに唇を綻ばせた。
「……うん、温かくて美味しいね」
「前から思っていたが、意外に甘党なんだな」
「頭を使うと甘いものが欲しくなるんだよ。オルベリクは甘いもの嫌いかい?」
「そういう訳ではないが、どうせならもっと腹にたまりそうな方が良いと思ってしまうな」
あなたらしいねと笑う声に合わせて少し微笑む。すると、不意にサイラスはじっとオルベリクの手元を見詰める。そう言えば食べたことがないと言っていたかと思い、何の気無しにその提案をした。
「一口食べるか?」
「いいのかい? あ、それなら交換しようか! はい」
「ああ」
言われるがままに交換し、丸い歯形がついたそれを口にする。記憶にあるより甘く感じるのは、それだけ自分が大人になったからだろうか。サイラスも同じように齧り、物珍しそうに中の具を眺めていた。
「ふむ……色々な具が入っているんだね。豚肉、たけのこ……たまねぎも入っているかな? 生地の感じもあんまんと少し違う気がするな。ありがとう」
「いや、俺も久しぶりに食べたから新鮮だった」
「違いがあって面白いね。……あ」
「どうした?」
再び交換し直し、口をつける直前サイラスはぴたりと動きを止める。ああいや、と答えたものの手元のそれに視線を落としたままだ。その鼻先や耳は真っ赤になっている。
「……その」
「ん?」
「間接キスだと、思って」
「あ……ああ……そ、そうなるのか……」
先程は何も気にしなかったが、指摘されると確かにそうだった。また心臓が早鐘を打ち、どれだけ冷たい風が吹いても体温は下がりそうにない。少し間を置いて、サイラスがやっと手元のあんまんを口に含んで照れくさそうに笑う。
「男同士で気にするのもおかしいかな」
男同士だから、友人だから何も気にすることはないのでは。そう言いかけて止めたのは、彼が同じことを他の友人とする姿を想像したからだった。自分とするのと変わらないはずなのに、他人とそういうことをするのはとても――嫌だと思った。
「……普通は気にするものだと思うが、俺達の間柄ならいいんじゃないか」
「そうなのかな」
「ああ。俺達は……親友、だろう?」
なぜだかその言葉が妙に喉に引っかかった。何か、何かが違うような。オルベリクの感じた違和感に気付くことなく、サイラスは顔を綻ばせ何度も頷いた。
「うん……うん、そうだね。ふふ、親友か……あなたにそう言ってもらえると嬉しいな」
「……明日からもよろしく頼むぞ」
「勿論だよ! あなたが集中できるように、しっかりサポートするからね」
その頬の赤みは寒さのせいだと分かっていながらも目が離せない。自分の中に芽生えたなにかに今は気づかないふりをしながら、最後の一欠片を口に放り込んだ。
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