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雪華
2020-02-11 23:08:17
1872文字
Public
オルサイ
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【オルサイ】その手をとって
暗闇状態になった先生をオルがエスコートする短い話。デキてない。
「サイラス、大丈夫か?」
そう声を掛けるのは今日何度目になるだろうか。オルベリクの左手の上には、指先まで傷一つない綺麗な手が重ねられている。すると手の主
――
サイラスはこちらを向いた。晴れた空を思わせる澄んだ青い瞳は、しかし今はオルベリクを映さない。
「大丈夫だよ。あなたがゆっくり歩いてくれているからね」
「町まではもう少しだ。辛抱できるか?」
「ああ、問題ない。すまないね、調査に突き合わせた挙げ句世話までしてもらって
……
」
「いや、お前が暗闇状態になったのは俺のせいでもある。これくらいして当然だ」
二人は町から少し離れた森の中にいた。今日は各々自由行動をとることになっており、一人で森に入ろうとしていたサイラスにオルベリクが声を掛けたのがきっかけだった。この森の生態調査をするつもりだと言うサイラスに同行しようと提案したのは、この男を一人放っておくのが忍びなかったからだ。
旅をする中でサイラスという男が如何に危なっかしいかは、嫌というほど理解した。危険があることを承知しながら好奇心のまま飛び込んでしまうサイラスを止めることは出来ないが、せめてその危険を遠ざけてやることくらいは出来る。相手が魔物だろうが、彼に付き纏う人影だろうが守り切る自信はあったが
――
。
「あなたが気に病む必要はないよ。戦闘中に背後から別の魔物に襲われるなんて、予見していても防ぎようがない。八人での旅に慣れすぎて、背後を疎かにしてしまった私の責任だ」
「しかし
……
俺がもっとお前に気を配ってやっていれば、こうはならなかっただろう」
「責任感が強いのはあなたの良いところだけど、背負いすぎるのは良くないよ。過ぎたことを言っても仕方ない、反省点は互いに次に活かそう」
「
……
そうだな」
そう、彼がこうなった原因は、戦闘中の不意打ちだった。魔物との交戦中に忍び寄ってきた別の魔物がサイラスに攻撃をした。直ぐに気がついて退けたが、サイラスは暗闇の状態異常に罹ってしまった。しかも間の悪いことに治療のハーブも切れており、町に戻らなければ治してもやれない。
――
だからこうしてサイラスと手を重ね歩いているのだった。心配するオルベリクを他所に、彼はこの状態を楽しんでいるかのように忙しなく顔を動かしながら耳を澄ませる。
「あまりきょろきょろしていると転けるぞ」
「見えていないのだから同じだろう? それに、転けてもきっとあなたが受け止めてくれるだろうからね」
「
……
信頼してくれるのは結構だが、もう少し自分の心配をしたらどうだ? 今魔物が現れたら危険だとは思わんのか?」
「当然万全の状態よりは危険だと思うが、あなたがついていてくれているのだから何も怖いものなどないさ。それに、見えていなくとも魔法は使えるからね」
欠片も恐怖心などなさそうな言葉に肩をすくめると、まるで見えているかのように彼はくすりと笑った。けれどこちらを向いているだけの瞳と視線が交わることはない。
いつもサイラスはオルベリクを真っ直ぐに見据え、時に言葉にしたくないことすら暴こうとする。旅を始めた頃は少し辟易する部分もあったが、今はそれがないことが少し寂しいとすら感じるのだから人は変わるものだ。わざとらしくため息をつく。
「
……
山火事だけは起こしてくれるなよ」
「ああ、勿論だとも」
サイラスとて背が低い方ではないが、やはりオルベリクと比べると小さい。そんな彼に合わせて歩幅を狭め、意識してゆっくりと足を運ぶ。必要以上に慎重になるのは、重ねられた手に時折僅かに力が籠もるからだ。サイラスは物音がすると顔をそちら側に向け、恐らく無意識だろうがオルベリクの手に縋ろうとする。
常日頃から五感を総動員させ、持てる全てを使って知識を吸収しているからこそそれを奪われた時の恐怖は大きいのだろう。とは言え彼は成人男性で、こんな思いを抱くのはおかしいと思いながらも
――
庇護欲を駆り立てられる仕草がなんとも可愛らしく見え、自然と柔らかい声が出た。
「
……
大丈夫だ、サイラス。必ず無事に連れて帰ってやる」
するとサイラスは軽く首を傾げ、唇を緩めて微笑む。安堵したような柔らかい笑顔に胸が締め付けられたのは何故だろうか。
「ありがとう、オルベリク。では今暫く、エスコートをお願いしてもいいかな?」
「
……
ああ。しっかり掴まっていろよ」
「うん」
短い返事に、見えないことを理解しながらも頷きを返す。また歩調を緩めたのは彼への気遣いであって、もう少しこのままでいたいと思ったわけではなかった。
***
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