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雪華
2019-12-22 15:18:20
3769文字
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テリサイ
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【テリサイ】ありふれた冬の日【転生現パロ】
になるはずだったのに。※転生現パロの続きです。テリ→前世の記憶なし/先生→前世の記憶あり 先生の方が先に死んじゃって、「私のことは忘れてくれ」とか言い残したとこから始まる現パロテリサイ。テリとコデにフラグが立ってるように見えますが立ってません。
「
――
では、先週の課題から確認しようか」
「はい、よろしくお願いします」
二人の声を聞きながら、静かに扉を閉める。サイラス・オルブライトがコーデリアの家庭教師として雇われてからもう暫く経つ。大学教授という肩書を持つ男がそうそうレイヴァース家を訪れることは難しく、家庭教師と言っても実施される場所は様々だ。しかし今日は珍しくタイミングが合い、レイヴァース家に彼を招いてレッスンが行われていた。
年頃の少女と独身の男を二人きりにしていいものかと、はじめの数回は気を揉んでいたがそれも杞憂に終わった。コーデリアとヒースコートはサイラスを信頼しているようだったし、話してみれば彼が常識的で良心的な大人であることはすぐに理解した。
(
……
恵まれた環境で生きてきたんだろうな)
生まれ持った人好きされる秀麗な容姿に、あの若さで大学教授を務める聡明な頭脳。そしてそれを活かす高等教育を受けられる裕福な家庭で育ったからだろう、サイラスの立ち振舞の端々から育ちの良さを感じた。そして、そうやって幸福に生きてきたからこそ人の善性を信じ切っている
――
甘い男だ。テリオンはサイラスという男についてそう評した。
高所の窓拭きなど屋敷の雑務をこなしていると、時間が経つのは早い。ちょうど脚立を片付けたテリオンにヒースコートが声を掛けた。手を洗って汚れを落としてからキッチンに向かうとティーセットが用意されていた。
「こちらを差し入れに持っていってもらえますかな」
「それは構わんが
……
カップが多いな」
「ええ、あなたの分もありますから」
紅茶の入ったカップが三つと、まだ少し熱を持っているクッキーがトレイの上に乗っている。ヒースコートと過ごす中でテリオンは一つ学んだことがある。ヒースコートが真意を明かそうとはしないとき、テリオンが何をしたって結局は彼の思い通りに事が運ぶのだ。面白くない、いつかはその鼻を明かしてやりたいと思っているがそれは未だ達成できそうにない。
「
……
分かった」
ニコリと微笑むヒースコートにため息を返し、トレイを持ちレッスンが行われている部屋へ向かう。軽くノックをし入室すると、二人は同じように微笑んだ。
「ありがとうございます、テリオンさん」
「
……
捗っているか?」
「ああ。コーデリア君は飲み込みが早いから、私のほうが追いつかないくらいだよ」
「そんな、サイラスさんの教え方が分かりやすいだけです。テリオンさん、こちらにどうぞ」
コーデリアは三つあるカップに疑問を持つこともなく、テリオンにテーブルの端、向かい合って座る二人と同じ距離になる席を勧める。サイラスが教材を片付けてから軽く机を拭き、紅茶と菓子を並べてから着席した。
「どうもありがとう。こちらのクッキーは?」
「実は
……
その、私が作ったんです。お二人のお口に合うといいんですが
……
」
「おや、コーデリア君のお手製か! それは光栄だね」
「
……
台所から俺とヒースコートを追い出して何かしているとは思っていたが
……
」
クリーム色の丸いクッキーは、飾り気のない純粋なコーデリアらしい。色味も形も綺麗なものだ。サイラスと一枚ずつ手に取り口に入れる。舌に乗った瞬間感じた違和感に、一瞬咀嚼する口が止まった。ちらりと横目でサイラスを見ると、彼もまた窺うようにテリオンを見ている。
「どう、ですか
……
?」
明らかに様子の変わった男たちに不安になったのか、コーデリアは首を傾げながら自分もクッキーを取り口に含む。途端にへにゃりとその眉が下がったことに、罪悪感を覚えなかったと言えば嘘になる。
「
……
すみません、材料を間違えてしまったみたいです」
「塩と砂糖だな」
「ええと
……
形はとても綺麗だよ、厚みも均一だし舌触りもいい。初めてにしては上出来じゃないかい?」
「けれどこんなに塩辛いクッキーは食べられません。
……
ヒースコートに別のお菓子を用意してもらいますね」
慌てて味以外のところでフォローを入れ始めたサイラスの言葉も、コーデリアには響かない。普段料理などしない彼女なりに、サイラスとテリオンを労うつもりだったのだろう。それが失敗に終わって落ち込むのは当然だ。
――
どこか感じた既視感に、テリオンは居ても立っても居られずクッキーに手を伸ばす。
「テリオン君っ?」
「テリオンさん?!」
「別に、食えないほどじゃない」
「だ、だめですよ
……
!」
コーデリアの制止を無視し、塩辛いクッキーを口いっぱいに頬張って咀嚼する。びりびりと舌が痺れるような塩気が口の中に広がるのは不快だが、これくらいで彼女の慰めになるのなら安いものだ。心配げなコーデリアの視線を受けながら、紅茶で無理矢理喉に押し込み空になった籠を見遣る。
「
……
不味くはなかったぞ」
「もう
……
そんな訳ないじゃないですか
……
」
「次は
――
……
?」
ふと無意識下からこぼれた言葉に気がついて口を噤む。一体何と言おうとしたのか、自分でもよく分からない。そんなテリオンの心情など知る由もないコーデリアは嬉しそうに微笑む。
「でも、食べてもらえて嬉しいです。全部一人でしようとしたのは、背伸びのしすぎだったのかもしれません
……
次はヒースコートに教えてもらいますね」
「
……
ああ、そうしてくれ」
「はい。サイラスさん、おかしなものを口にさせてしまってすみませんでした」
「
……
いや
……
キミの心遣いはきちんと伝わってきたよ、ありがとう。是非、次も頂いてみたいものだな」
今度こそ美味しく作りますからと意気込むコーデリアにサイラスが笑いかける。その微笑みに違和感を抱いたのは何故だったのか、恐らく直感によるものだろうがテリオン自身上手く言葉には出来なかった。
***
休憩を終えて再び雑務に当たって数時間後、ぱたぱたと軽い足音が玄関へと向かっていることに気が付く。その背中に声を掛けると柔らかなブロンドが揺れた。振り返ったコーデリアの手には見覚えのある男物のマフラーが握られている。
「どうした? サイラスはもう帰ったのか」
「はい。ただ、マフラーをお忘れになっていて
……
まだ走れば追いつくかもしれませんから、行ってきますね。ヒースコートには伝えておいてください」
「
……
それなら俺が行こう」
今にも走り出しそうなコーデリアの手からマフラーを奪い取る。コーデリアを短時間でも一人出歩かせるわけにはいかないし、そういうことならテリオンのほうが早く追いつくだろう。問答をしている時間がないことは彼女も分かっており、お願いしますとぺこりと頭を下げた。
屋敷を出て軽く走ると、すぐに黒いコートを視線の先に捉えた。表通りを避けるようにふらりと中道に入った背中を追いかけ、揺れる手首を掴んで声を掛ける。
「おい、先生」
「っ
……
!」
突如声を掛けられたからか、びくりと大袈裟に体を震わせ振り返る
――
まではテリオンも予想していた。しかしその碧眼から一筋頬を伝っていたものまでは想定外だった。
「テリ、オン君
……
」
「
……
あんた、マフラーを忘れていっただろう」
「ああ
……
態々追いかけてきてくれたんだね、すまない」
手の甲で静かに涙を拭い、サイラスはテリオンの手からマフラーを受け取る。テリオンの視線が自分の目元に注がれていることに気が付くと、彼はばつが悪そうに苦笑する。
「変なところを見せてしまったね」
「いや。
……
何かあったのか」
「
……
キミとコーデリア君を見て、少し昔のことを思い出していたんだ。私も昔料理で失敗して
……
同じように、食べてもらったことがあったから」
睫毛を伏せゆっくりと、浸るように彼はそう語る。大切な、壊れ物のような思い出に触れるような柔らかな声色だった。はっきりとは言葉にしなかったが、その時料理を食べてくれた人は彼にとって特別な人なのだろう。
興味本位で聞いてはみたが、テリオンには関係のないことだ。そうかとありきたりの返事をすればいいだけだったのに、踏み込んでしまったのはあの時感じた違和感を解決したかったからかもしれない。
「
……
好きだったのか?」
「っ
……
」
伏せられていた視線が上向き、真っ直ぐにテリオンを貫く。凪ぐように静かなその瞳はテリオンを見ているのに、どこか遠くに思いを馳せているようだった。少し考え込むようように瞼を閉じて、微笑みとともに再び開く。
「いいや
――
今でも好きだよ」
囁くような声にどきりと心臓が跳ねる。穏やかに微笑むサイラスはここにいるのにいないような、まるで今にも消えてしまいそうな危うさを孕んでいた。それは彼に下していた評価を改めるには十分すぎる表情だった。
「
……
マフラー、ありがとう。お礼と口止め料はまた次の機会でいいかな」
「別に
……
吹聴するようなことじゃない」
「私の気が済まないからね。ではまた」
短い別れの言葉に頷くと、サイラスは踵を返して歩き始める。テリオンが思っていたほどサイラスは単純で分かりやすい男ではない
――
その薄い背中に一体何を背負っているのだろうか。テリオンには想像もつかなかった。
――
その晩、テリオンはまた夢を見た。見覚えのないキッチンで、誰かと一緒に料理をしている他愛もない夢だった。
***
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