診断メーカーで出たお題の内「寝ている相手にキス」と「わがままを言う」をチョイスしました。ただただイチャイチャしてます。事後感ありますっていうか事後です。朝チュンです。
冷たい冬の朝の空気が頬を撫で、意識が覚醒する。温かい寝台の中にいるのはサイラスのみで、既に起床し身支度を整えている恋人の背中を見て瞼を閉じた。
昨晩同衾した恋人――オルベリクはこれから日課の鍛錬に行くのだろう。起き上がって朝の挨拶をしても良いのだが、そうしないのには理由があった。起きていることを悟られないように静かに呼吸をしながら、サイラスはただその時を待つ。
衣擦れの音が止んだ。静かにと心がけてはいるようだが、年季の入った宿の床はオルベリクが歩く度に小さく軋む。顔の横に手を置かれたらしく寝台が少し沈んだ。ドキドキと鼓動が高鳴っていることは、きっと気付かれていないから大丈夫だ。
――少しの間があって、静かに頬に柔らかいものが触れた。ついつい緩みそうになる唇に力を入れてサイラスは寝たふりを続ける。
(……おはよう、オルベリク)
彼と夜を共にするようになって随分経つ。初めのうちは起床したら既に空になっている寝台に不満を覚えもしたが、ある時オルベリクがサイラスにキスをして部屋を出ていくことを知ってからは嫌ではなくなった。
(今日はいい一日になりそうだよ……)
晩の内に体力を使い切ってしまうサイラスが、オルベリクが鍛錬に行く前に目を覚ますことは稀だ。温かい寝台の中、夢と現を彷徨いながら恋人の愛を感じられた朝は、いい一日の予兆に違いない。尤も、オルベリクと共に過ごす日々が既に特別で素晴らしい日なのだが。
(……ん?)
すると今度は唇に何かが触れた。むにむにと押すというよりは揉むように触れているのは、指先だろうか?
されたことのない触られ方は妙に擽ったい。笑いそうになるのを堪えようとすると、指先がぴくぴくと震える。サイラスの手は厚い布団の中だから悟られてはいないだろうが……今日は一体どうしたのだろうか。いつもなら、オルベリクは触れた後すぐに鍛錬に向かってしまうのだが。
「っ……」
不意にひやりとした空気が布団の中に入り込んでくる。布団が捲られたのだろうか?
シーツの上に投げ出されたサイラスの手に、オルベリクの無骨で大きな手が触れる。かと思えばするりと手首から二の腕まで撫で上げるものだから、思わず声が漏れそうになってしまう。
一体どうしたのか問いかけたい。問いかけずとも、彼がどんな表情をしているか見えれば意図が汲み取れるかもしれない。開きたくってむずむずと震える唇と瞼を必死に閉ざしながら堪えていたが――二の腕を緩く撫でていた手が脇腹に滑り、指先でこちょこちょと擽られるととうとう我慢できず噴き出した。
「ふっ……ふふ、なんなんだい? もう……」
「なんだ、狸寝入りはもう終わりか?」
瞼を開けると、オルベリクはニヤリと口角を上げて笑った。気付かれていたのかと目を瞠ると、体を擽っていた手が頬を包み込む。
「……いつから気がついていたんだい?」
「寝台を覗き込んだときだな。眠っているときとは呼吸が違った」
「うーん、やはりあなたに隠し事は出来ないな……それにしても、少し意地悪じゃないかい?」
「すまん、寝たふりをしているお前があんまりにも可愛くてな……」
そう言いながら唇を重ねられると結局文句も有耶無耶になってしまう。呼吸のしかたで見抜かれてしまったということは、もしかして過去の寝たふりも見抜かれてしまっているのではと頭を過ぎったが、藪蛇は突くべきではないと問いかけることはしなかった。
「……鍛錬に行かなくていいのかい?」
代わりにそう問い、そっと逞しい首に腕を回して言外にもう一度とねだる。オルベリクは誘われるままに再びサイラスにキスを贈った。
「もう少し、な。寝起きで冷えた体を温めてからだ」
「……そうだね、特に今朝は冷えるようだ」
オルベリクが布団に入ると、二人分の重さを受けてぎしりと寝台が悲鳴のように軋む。そっと逞しい胸元に身を寄せると寒さが嘘のように和らいだ。人肌というのはそもそも温かい上に、愛おしい人相手なら尚更身も心もじんわりと温度が上がってゆく。
「では、私のことも温めてくれるかい?」
「ああ……勿論だ」
たまにはこんな朝があってもいいだろう。互いに甘えるように抱き合いながら、特別な一日の始まりを謳歌した。
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