華奢な手が伸ばされる。抗うことは出来たが、テリオンはされるがままに肩を押されシーツに背を着いた。そのままテリオンの腰の辺りに跨がり、年下の恋人は頬を赤く染めながらも何やら決意をたたえた目でこちらを見下ろしている。
「……私達が恋仲になって、もう二月にもなるんだよ」
「そうだな」
「そろそろ、次の段階に行ってもいいんじゃないかと思うのだが」
「まだ早いだろ」
そう言うと、む、とふっくらとした唇を尖らせる。この旅に出るまでアトラスダムを出たこともなかったという箱入り貴族の坊ちゃんは、いかにも不満そうに声を上げた。
「早い早いって、あなたはいつもそればかりだ。ひと月前もそう言って誤魔化したろう?」
「そうだったか? もう忘れたな」
「そんなに私に魅力がないかい? ……抱きたいとは、思えない?」
「誰もそんなこと言ってない。物事には順序があると、おまえもよく言うくせに」
「順序は守ってるじゃないか。抱擁もした。接吻もした。これ以上どうすればいいんだい?」
うぶなくせに妙に思い切りが良いサイラスは、今夜はやけに食い下がる。怒っているような様子だが、手を伸ばして指先で髪を梳けばくすぐったそうに目を細めほんの少し機嫌を良くした。
この年若い青年が、どうしてこうもテリオンを好いているのか時々物凄く納得できない気分になる。見目麗しく賢いサイラスを女はほっとかないだろうし、男色だとしてももっと若く身分の良いやつは山のようにいる。それなのに。
「テリオン、あなたが好きだよ。……私のはじめてを、どうか早くもらってはくれないかい?」
熱っぽく潤んだ瞳でサイラスは甘く囁く。ああ本当に物好きなやつ――そう言うとサイラスは怒って、テリオンの好きなところを順番に挙げだすから言わないが。
「……ガキにはまだ早い」
「なっ……! 私はもう二十二歳で、」
「年齢の話じゃない」
むきになって尚も食い下がろうとするサイラスの腰に手をやり、体勢を入れ替える。ぼすんと音を立て体が白いシーツの海に溺れた。きょとんと目を丸くするサイラスの顔に影を落としながら唇を重ねる。
「んっ……」
唇同士を触れ合わせるキスを何度も、何度も繰り返す。時折柔らかい唇を軽く食んでやれば、空を思わせる美しい瞳がとろんと熱にとろけた。
不意に薄い寝間着の中に手を入れ、背骨を指先でなぞり上げるとびくんと素直に体が跳ねた。
「ンッ……! ん、んぅ……」
人差し指の腹でなぞり上げ、今度は中指も添えて撫で下ろす。細い腰を手のひらで撫でながら指先、下衣にかけるとその身が強張った。
「ぁ、てり、おっ……」
小さく震えた声に、そらみたことかと思いながら反対の手でうなじを撫で回すとぴくぴくと小さく体が震える。
乱暴な熱をぶつけて、この年若い男を一生テリオンの腕に閉じ込めたい。そんなほの暗い衝動を抱えてることも知らずに、彼はいつも真っ直ぐな信頼をテリオンに向けるのだ。
「……だから、まだ早いんだ」
汚いことなど知らないでほしいと願う反面、汚したいとも思ってしまう。相反する胸の内を悟られないうちに、するりと髪を結うリボンを解きながら体を離すと、薄い胸を上気させ彼はぼんやりとテリオンを見上げていた。
「さて学者君、盗られた事には気付いているか?」
「あ……い、いつの間に……」
「キスだけでその調子じゃ、不合格だな」
ほらとリボンを返すと、サイラスは体を起こして行儀良く両手でそれを受け取る。そしてどこかばつの悪そうに、しかしそれだけの理由ではなく頬を赤くしながら髪を結い直す。
「……私に不合格を言い渡すのなんて、あなたくらいだよ?」
「アトラスダムきっての天才学者君にそう言われるとは光栄だ。ほら、もう部屋に戻って寝ろ」
「……一緒に寝るのもだめかい?」
未だ熱を孕んだ瞳が懇願するようにテリオンを見上げる。テリオンがその顔に弱いと気が付けば及第点と言えるだろうが、まだそこまでは至ってないらしい。
「……今晩だけだぞ」
「ありがとう!」
ぱっと顔を明るくするサイラスに、テリオンは大きくため息をついた。
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