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雪華
2019-06-02 12:16:56
1760文字
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オルサイ
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【オルサイ】小さな約束
6月の第一日曜日はプロポーズの日らしいので、プロポーズ(未満)の少女漫画オルサイです。
木々の間に張ったロープ、それに留められたタオルが風に煽られぱたぱたと揺れている。
ここ暫く野営が続いていることもあり、今日は昼間のうちに衣類を洗濯し干すことにしたのだった。天気もいいから数時間で乾くだろうと予想した通り、夕暮れ前には片付けることができそうだ。
オルベリクは木にもたれかかり、剣の手入れをしていた。幹の反対側ではサイラスがいつものように本を読んでいる。風のざわめき、川の流れる音、水遊びをしているトレサたちのはしゃぐ声
――
どれもきっとサイラスの耳には入っていないのだろう。相変わらず危なっかしいくらいの集中力だ。
オルベリクとサイラスは恋仲だ。普通の恋人同士であれば、こんな時は散歩でもして二人きりで愛を語らうという選択肢もあろうが、サイラスにそれは通用しない。彼は色恋沙汰には非常に疎いし、目先に気になることがあればそちらを優先する。
無論、オルベリクはそんなサイラスが好きだから問題はないのだが。けれど反対側に居るというのは僅かに、ほんの僅かにだが面白くない。隣に並べば聡明な横顔を覗き見ることが出来るというのに。
「よし、しっかり乾いたな。みんな、畳むぞ! 手伝ってくれ」
洗濯物に触れて確認したハンイットがそう号令をかけると、各々手を止めて集まる。何せ八人分の衣類となれば量が多い。必然的に総出でかからざるを得ないのだ。オルベリクも腰を上げ、熱心に本のページを捲るサイラスの肩を叩いた。
「サイラス、洗濯物が乾いたそうだ。畳むぞ」
「ああ、もうそんなに時間が経ったのかい? なんだかあっという間だったような気がするよ」
「お前は集中し過ぎなんだ。悪いことではないが、せめて外ではもう少し他に注意を払うべきだ」
「大丈夫だよ、こうしてあなたが気にかけてくれるんだから」
少々苦言を呈してみても、サイラスはあっさりとそう言って笑うだけだ。眩いばかりの笑みの中にある信頼と、自分にしか向けられない甘えが見えるとオルベリクは何も言えなくなってしまう。
共に旅を始めたばかりの頃より幾らか慣れた手付きで、サイラスは洗濯物を紐から外し軽く丸めて清潔な布の上に載せてゆく。一斉に外して一斉に畳むのが、一行達のいつものスタイルだ。
その時、びゅうと強い風が吹いた。誰かの手から離れた白い大判のタオルが飛んできて、自分の頭に被さったそれをサイラスの指が捕まえる。
「すみません、サイラスさん
……
!」
「平気だよ、落とさずに済んで良かった」
謝罪するオフィーリアにそう答えるサイラスの頭にかかった白いタオル。その両端を肩の下で抑えてサイラスは得意げに微笑む。
濡羽色の艶めく髪に白はよく映える。少し刺繍の入ったタオルはまるで
――
ベールのようで。思わずぽろりと言葉が漏れた。
「花嫁のようだ」
大きな声ではなかったが、サイラスにはしっかりと届いたらしい。涼やかな碧眼を丸くし驚いたような表情をした後小さく笑う。
「私がかい? 珍しいね、あなたがそんな冗談を言うなんて。三十の男が花嫁だなんておかしいよ」
「
……
俺にはそう見えたんだ。サイラス」
「あ
……
待っ、」
端を持つ手ごとタオルを掴みぐいと引き寄せる。制止の声を奪うように口付け、素早く離れた。サイラスの白い頬には朱が差し、恥じらうようにタオルで口元を覆う。そんな仕草がまた可愛らしく見えることにこの鈍感学者が気付く日が来るのだろうか。
「
……
みんながいるのに」
「口元は隠したし、誰も見とらんだろう。
……
俺の花嫁なんだ。何もおかしいことはない」
「そうかな
……
私など相応しくないのではないかと、思うのだよ」
「お前以外にはいない。なぁサイラス、いつか
……
」
彼の左手の甲を摩りそっと薬指の付け根を撫でる。誰のものにもなっていないこの指に、いつか自分の証を嵌めて欲しい。愛しい人に向けて、少しの緊張を含んだ声で囁いた。
「いつか、ここに俺が贈った指輪を、着けてくれるか」
「
……
あなたが望んでくれるのなら。オルベリク、その時は私の全てをあなたに捧げると誓おう」
「ああ、俺もだ。必ず、お前を幸せにすると誓う」
二人だけの未来への約束。見届けたのは太陽だけ
――
と思っている彼らは、仲間達が遠巻きに見守っていることに気が付かなかった。
***
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