雪華
2019-05-23 22:47:54
1683文字
Public テリサイ
 

【テリサイ】キスの意味

キスの日SS。ちょっと微えろな雰囲気かもしれない。

「そう言えば、今日はキスの日らしいよ」

学院にいた頃女生徒達がそう話していたことを思い出し、口にしたことに大した意味はなかった。サイラスにとってはいつもの雑談や知識を教えるのと変わらない程度の認識。ただ、恋人にとってはそうではなかったらしい。
普段はサイラスの話にさほど興味を示さないテリオンが珍しく片眉を上げて反応した。

「ほう?」
「由来は、五月二十三日に演劇でキスシーンがあるものが初めて演じられたことにあるそうだ。当時は今より貞淑さが求められていた時代だから、人前でキスをすることは余程衝撃的だったんだろうね。あっという間に皆その舞台に魅了され、キスの日なんて定着する程になったと言われている」

二人部屋の宿、一つの寝台に互いに腰掛けながらつらつらといつものように述べる。小さく相槌を打つテリオンに気を良くし、こんな話もあったとまた口を開く。

「キスと言えば、場所毎に意味があるのを知っているかい? とある詩人の作品に出てくる台詞に由来しているのだが」
……知らんな」
「では一つずつ――

説明しようとした言葉は、唇を塞がれて途切れた。ぼやけるほど近付いた美しい翠眼が離れ、サイラスの言葉を奪った唇が小さく笑う。じわりと頬が熱くなってゆくのが止められない。

「で、唇へのキスはどういう意味なんだ? 学者先生」
……愛情だよ。講義の邪魔をするなんて、キミは悪い生徒だね」
「邪魔なんてしてるつもりはないがな。実践することも学習には大事なんだろう? ほら、次は?」

ちゅ、と小さくリップ音を立てテリオンの唇が額に触れる。学習というよりはからかって楽しんでいるような声色に、少々複雑な気持ちになりながらも答えた。

「額は友情、もしくは祝福とも言われるね。……ん、鼻は愛玩だよ。ちなみに愛玩とは大切にし可愛がることだ」
「なるほど。……こっちは?」
「んっ……

ふっと耳に息を吹きかけられ、小さく息を詰めた。耳朶に触れた唇が今度は耳の裏側に触れ、かと思ったら耳朶を軽く噛む。咄嗟に身を引こうとしたが、それより早く腰を抱かれて逃げられない。甘い吐息が唇から漏れた。

「っは……
……どうした? 学者先生。耳へのキスの意味は?」
「ゆ、誘惑……だよ。テリオン、もう……
「まだ授業は始まったばかりだろう? 次、喉はどうだ」
「のど、は……欲求、だ」

喉元にキスをされ息がかかると、じりじりと体が熱くなってゆくようだ。覚えのある感覚に息を吐くとテリオンは指先でサイラスの喉をくすぐった。小動物を愛でるようでいて、しかしその手付きはそんな可愛げのあるものではない。

「ん、っくすぐったいよ……
「ふっ……教師がする顔とは思えんな」
「意地が悪いな……普段私のことを先生だなんて、呼ばない癖に……わっ」
……もっと色気のある声を出せないのか?」

べろりと首筋を舐められ思わず声を上げたが、テリオンは半笑いでそう呟く。羞恥にカッと顔に熱が昇る。きっとサイラスの顔はりんごのように赤くなってしまっているだろう――それはテリオンの好物に他ならない。
一度顎にキスをし、それからもう一度首に、今度は唇で触れられた。一度、二度とキスがされ、三度目のキスはぴりと痛みを伴った。

「あっ……痕、残ったんじゃないのかい、今の……
「さあな」
「見えるところはダメだと、いつも言っているだろう?」

少々の怒りを込めた言葉も、機嫌が良さそうなテリオンにはあまり届いていないらしくにやりと唇が弧を描く。見せつけるように首筋に再び顔を埋めてキスをし、囁いた。

――執着のキスだ。痕くらい残したくなるのも仕方ないだろう?」
「! キミ、知ってたんじゃないか……!」
「さてな……他の所も教えてくれ、先生」

とさりとベッドに押し倒されシーツに背が沈む。もう少し抗議をすべきだと思ったが、楽しそうに笑う恋人の顔を見るとどうにもその気が失せてしまった。我ながら甘いとは思っているが、しょうがないなと態とらしく呟き瞼を閉じる。次のキスの意味は――




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