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雪華
2019-02-14 20:40:30
2799文字
Public
テリサイ
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【テリサイ】お揃い【現パロ】
しれっと現パロでしれっと付き合ってるどころか同棲してるテリサイのバレンタイン
二月十四日
――
とうとう今年もこの日がやってきた。町はどこもかしこもハートや赤で彩られ、胸焼けがしそうなほど甘ったるい匂いをさせている。決してバレンタインという行事を忌み嫌っている訳ではないが、商業戦略に乗せられてはしゃいでいるのは馬鹿らしいと思う。
(それに
……
下らん嫉妬心を煽られるだけだ)
粗方夕飯の支度を終えたテリオンは、はあと一人溜息を吐く。そろそろ恋人であるサイラスが帰宅する時間だ。そう思っていたら部屋の扉の鍵が回る音がした。どうせ荷物が多くて開けられないだろうと内側から扉を開けてやると、驚いて目を丸くした彼がそこに立っていた。
「ああ、ありがとうテリオン。ただいま」
「
……
おかえり。今年もすごいな」
サイラスの両腕には三つずつ紙袋が掛かっており、本人も苦笑いを浮かべた。駐車場からここまで持って上がってくるのも学者の細腕ではこたえただろう。片腕分の紙袋を取ってやり部屋に戻った。
ずっしりと重たい紙袋の中身は、彼が職場でもらってきた菓子類だ。最も本人が理解しているのは純粋な菓子の重量だけで、贈る側がそれに込めた思いなど想像もしていないだろうが。
「流石に義理までは断りきれなくてね。いや、世の女性達は本当に気配り上手だよ。たかが同僚、たかが教師にまでこうして準備して文字通り配り歩いているのだから」
「
……
中には本命チョコも入ってるんじゃないか? おモテになるんだろう、学者先生は」
皮肉っぽく言いながら紙袋を机の上に置く。ちらと見ただけでも手作りと思わしき包装もあり、テリオンとしては少々面白くない。サイラスは自分も紙袋を置きながら笑った。
「まさか! 私なぞにそのような思いを寄せる人は居ないだろう。それに一応本命は断らせてもらう、ときちんと皆に伝えたのだよ。その上で渡されたこれらは百パーセント義理だよ」
「
……
はあ
……
」
「な、何故ため息を吐くんだい?」
憧れのサイラス先生にチョコを渡そうとして、『本命は受け取れない』と言われたらもう義理だと偽って渡すしか無いだろう。そうですかと引っ込めば玉砕の上それが本命だったと本人に伝わってしまうのだから。
……
詰めが甘すぎる恋人に最早呆れるしかない。
理由までは分からないがテリオンが機嫌を損ねたことは察したのだろう。サイラスはええとと取り繕うように明るい声を出した。
「兎に角だね、検分して食べ切れない分は早い内にトレサ君達に持っていこう」
「またトレサにどやされるぞ。先生って、ほんと女心が分かってない
……
ってな」
「はは、今の言い方似てるね。私としては食べ物を粗末にしない最善の方法だと思うのだが、いつもトレサ君やプリムロゼ君にそう言われてしまうのだよね
……
」
何故だろうかと顎に手を当てて考えてみても、恐らくこの男が答えに辿り着くことはないのだろう。そう考えれば渡した女たちも哀れだ。
「
……
来月は大変だな。こんなにあって、もらった相手をちゃんと覚えていられるのか?」
「それは勿論。
……
と言いたいところだけど、机に置いてあったり靴箱に入れてあったりと対面でもらってないものも中にはあってね。名前が書いてあればいいんだがそれもない。心苦しいのだがそういった物にはお返しのしようがないんだよ」
「
……
それはしょうがないな。まあ余ったからあんたにくれてやろうか、くらいの感覚じゃないのか」
「ふむ
……
そういうものなのだろうかね」
自分で言っておきながらそんな訳あるかと突っ込みそうになる。紙袋の中で見付けた、金色のリボンに挟まった名無しのメッセージカードを、サイラスに見えないように袋の中で開く。震えた文字は女生徒のものだろうか?
――
気持ちだけでも伝えたいとは健気なものだと思うが、生憎それすら届けてやりたくない。くしゃりとそのまま丸め、掌に包んだまま彼に気取られぬよう自分のポケットに仕舞い込んだ。
「
……
テリオン」
「なんだ?」
「その
……
バレンタインは元は恋人同士の愛の誓いの日なんだ。日本では女性から意中の男性にチョコレートを贈るという行事に変化しているが、私としては本来の趣旨に沿いたいと思っている。つまり
……
」
こほんと一つ咳払いし、サイラスは鞄から取り出した箱をテリオンに渡す。白い頬を赤く染めて微笑むその顔は普段の教師としての顔ではなく、テリオンの恋人としての顔だ。
「
……
これは私から、愛するキミに」
「
……
俺からは何もないぞ」
「ふふ、いいんだよ。キミにあげたかったんだ。開けてみてくれるかい?」
促されるままに白いサテンのリボンを解き箱を開けると、中には一本の万年筆が収まっていた。細身のシルエットと胴に入ったブランドのロゴには見覚えがあり、それを指先で撫でてサイラスを見上げた。
「ほう
……
あんたが持ち歩いてるのと同じ万年筆だな」
「
……
う、うん。書き味が良くて気に入っているものだからね
……
」
そう言いながら少し歯切れの悪い様子に首を傾げたが、その真意に思い当たり口角を上げる。意外と彼も独占欲だとかそういったものを持っているのかもしれない。
「
……
成る程。あんたは自分と揃いのものを俺に持って欲しかった、という訳か」
「! 参ったな
……
キミは何でもお見通しなんだね」
「他ならぬあんただからだ。
……
サイラス」
「
……
ん」
万年筆を机にそっと置き、彼の左手を握る。甘く名前を囁いてやると男は従順に目を閉じて少し身を屈める。ふっくらとした柔らかい唇に自分のそれを重ね、赤い頬を撫でるとサイラスはくすぐったそうに身を捩った。
「
……
ふふ、気に入ってもらえたかな」
「ああ、ありがたく使わせてもらう。
……
来月、お返しをしないといけないな」
「別にいいよ。キミに同じものを使って欲しいという私の自己満足なのだから」
「そういう訳にもいかないだろう? そうだな、俺もあんたと同じように揃いのものを贈ろうか。例えば
……
」
握った彼の手、その薬指をゆっくりと指の腹で撫でる。左手の薬指、その付け根を軽く叩いてやるとその碧眼が見開かれた。
「
……
ここに着けるものは、どうだ」
「
……
大人を、からかってはいけないよ」
「冗談だと思ってるのか?」
小さくサイラスが首を横に振る。宝石のような透き通った瞳がじわりと滲み、部屋の明かりを取り込んで星空のように煌めく様は一等美しい。
「
……
本気にしてもいいのかな」
「ああ、あんたに嘘は吐かない。
……
その時は、受け取ってくれるか?」
「喜んで。
……
ねえ、テリオン」
「なんだ?」
「もう一度、キスしてくれるかい?」
「
……
言われなくとも」
指を絡めるようにして繋ぎ合いながら、再び唇を重ねた。
――
まあ、こんな風に気持ちを確かめ合えるのなら案外悪くない日だ。そう認識を改めながら、離れていく彼の唇を三度吐息ごと奪った。
***
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