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のから
2024-12-20 10:31:04
1380文字
Public
月影の鎖 - text
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悋の小花(理めぐ)
ちょっと嫉妬しちゃっためぐみさん。
朝から霧のような小雨が降っていたから。月のものが近いから。最近忙しくて少し疲れていたから、とか。
牛乳屋の店先で、言葉を交わす理也と女性の様子がやけに親しげに見えて、心臓のあたりが急に冷え込むような心地がした。些細なことにつまらぬ嫉妬をくすぶらせた言い訳を、昏々と脳裏で並べながら、めぐみは自分が情けなくなって近くの路地裏へ逃げ込んだ。
あくまで遠目に見たかぎりだから、理也に見咎められていないことをめぐみは祈った。自分の醜いところなど、今まで彼の前で晒したことは数知れず
――
とはいえ、それでも羞ずべきだとめぐみは胸もとをきつく握り締めた。たかが、話していただけではないか。この気持ちを明かせば、少なからず理也を縛ってしまう。
(それは、駄目)
項垂れながら首を横に振る。
でも、と一片の感情が明滅する。このままやり過ごせることを祈る一方で、見つけてほしい、とも思っている。ちょうど袖の裾で、顔を覆った時だった。
「
……
こんな暗い所に入り込んだら、危ないですよ」
聞き慣れた、低く柔らかい声が薄暗い路地裏に舞い込んできた。せめて何でもない風に取り繕えたら良かったのに
――
袖で覆った顔の、その目尻には薄く涙が滲んでいた。
路地裏に身を潜めた女が何を考えていたのか、下手に語るより雄弁な有り様ではないか。めぐみは咄嗟に理也に背を向ける。
「ねえ、めぐみさん」
名を呼ぶ声に戸惑いは無かった。理也の声色は、あたかも全て分かっていると言わんばかりの深さを湛えていた。
理也はすっかり小さくなっためぐみの両肩にそっと手を置く。理也の体温を近くに感じ、めぐみの頬が知らず熱を持つ。しかし、理也を見返る勇気は持てずにいた。
「遠目に貴女を見つけて、すぐに切り上げて貴女を追ってきたんです」
「そう、
……
なんですか」
理也にも、理也と話していた女性にも申し訳なくなって、相槌はぎこちなく震えてしまった。
「最近はね、少し淋しく思っていたんです」
(え、)と、思わぬ言葉にめぐみは思わず顔を上げる。落ち着いた声で理也は続けた。
「俺が誰と話していても、平然としていることが増えて
……
それはそれで、俺への信頼が感じられるようで嬉しかったんですよ」
――
本当ですよ?
悪戯っぽく微笑む彼の表情が想像できて、めぐみは振り返りたくなったが、涙に濡れて赤らんだ顔を見られたくなくて何とか堪えた。
細い肩の形を確かめるかのように、両手で宥めるように撫でながら、理也は語る。
「でもね、久しぶりにめぐみさんの可愛いやきもちが垣間見られて、不謹慎ですけど、少しだけ
……
嬉しくなってしまいました」
とうとう堪えられなくなって、めぐみは理也へと向き直る。理也は桔梗色の目を優しげに細め、ただただめぐみを見つめていた。その頬は淡く紅潮しているように見えたけれど、雨上がりの夕空のせいかもしれなかった。
「ひどいひと
……
」
「
……
すみません」
言葉とは裏腹に理也は悪びれることなく朗らかに笑い、めぐみの両手を取る。互いの息が触れそうな距離まで身を寄せると、小首を傾げながら、めぐみに囁いた。
――
許してもらえますか?
ずるいです、と。
微かな喜びを含んだ、女のささやかな訴えは、重なった二つの唇の奥に溶けて消えていった。
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