不知火白夜
2024-12-20 00:43:04
7133文字
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好きな人の誕生日

一次創作サーバーMisskey.design登録者の為の みすでざアドベントカレンダー( https://adventar.org/calendars/9965 ) 参加作品です。
12月20日を担当しました。
一応お題の「秘められた想い」をテーマにしています。
女→男の片想い描写と、創作BL要素があります。
作品の年代は2011年頃です。

 12月20日――もうすぐ冬休みが始まるこの日は、私にとっては特別な日だ。
 というのも、小学校の頃から片想いしている男の子市河いちかわ雄和ゆうわの誕生日だからだ。
 彼は(少なくとも私から見れば)イケメンで、身長も190㎝以上でとっても高くて体格もよく、勉強も運動もできる。そしてその上非常に性格もいい。二次元の世界のキャラクターですか? と言いたくなるような人で、高校生になってからはめちゃくちゃモテる。中高と男子校にいるのに、他校の女子からモテるってどういうこと? 二次元か?
 そしてそんな彼はなんと、我が家の近所に住んでいる所謂幼馴染みというやつであり、しかも高校生の現在まで友人として交流があり、2人で遊びに行くことすらある。なんということだ。なんかこんな人が幼馴染みなんて未だに信じられない。周りから『付き合ってないの!?』とびっくりされるくらいには仲がいいってどういうことだ。雄和のファンに刺されそう。
 そんな冗談はおいておこう。ともかく、幼馴染みで片想い相手の誕生日なのだ。これを祝わない訳にはいかない。
 私は小学校の時からずっと雄和の誕生日をお祝いしてきた。結局子供がやるお祝いなのでたいしたことはできないのだが、それでも個人的には頑張ってお祝いしていたのだ。
 これまで、私は得意なイラストを描いて贈ったこともあるし、お菓子を贈ったこともある。中学生くらいになってからは文房具やハンカチ、防寒具なども贈った。そんなに高いものは用意できないけれど、それでも私からのプレゼントを雄和はいつもいつも喜んでくれるものだから、こっちまで嬉しくなる。
 そして今回も喜んでもらいたくてちょっと気合いを入れてみた。今年は、お互いが応援しているとある男性モデルが出版した書籍と、そのモデルが宣伝していたブランドの男性向け香水である。あとそれにメッセージカードも添えた。本当は写真集が良かったのだけど、雄和のお母さんはかなり厳しい人だから写真集は見つかったら捨てられるかもしれないと聞いたのでエッセイの方にした。これなら写真もあるけど文字の方が多いし、まだ本棚に並んでいても許される可能性が高いみたい。あと香水は大丈夫か分からないけど、雄和に合いそうだから準備した。もちろん比較的安めのものにしている。そうしないとお小遣いがなくなっちゃうから。
 あとはこれを放課後に渡せれば完璧だ。雄和は部活動に所属しているから、その後に家にお邪魔する感じになりそうだ。
 それを踏まえて、私はお祝いメッセージとプレゼントを渡すタイミングについて書いたメールを書く。
『雄和~誕生日おめでとう! 今年もプレゼント用意してるから、渡しに行きたいな! 雄和の家、何時くらいなら行ってもいいかな?』
 文章全体を見直す。別におかしくはないだろうし、毎年こんな感じのことを書いて送ってるけれど、やっぱり緊張してしまう。ドキドキと胸が高鳴るし、本当に送って大丈夫かなと少し不安になる。だからゆっくりと呼吸をし、日付が12月20日になったことを確認してから、携帯の送信ボタンを押した。
――送っちゃった……
 私は、パジャマ姿でベッドの上に横たわる。胸は未だにドキドキしていて、携帯を握りしめたまま白い天井を見上げた。

「早く返事こないかな……

 手に力を込めて、そわそわした気持ちで返事を待つ。今送ったばかりなのにもどかしくて仕方ない。それに雄和は友達が多い人だ。私だけでなく多くの人からお祝いメールをもらっているだろう。そう思えば、私のメールは後回しになってもおかしくない。それでも、そわそわしてしまう。
――まだかなぁ。
 心の中でそんなことを思いながら、ごろんと寝返りを打つ。すると、その直後に持っていた携帯がメールの受信音を響かせる。わぁ、と驚きの声を短く零してから携帯を開くと、届いていたのは雄和からの返事だった。
 慌てて内容を確認すると、そのメールにはこんなことが書いてあった。
百華ももかお祝いありがとう!  嬉しい! んでプレゼントもありがとな。毎年ありがとう、嬉しいわ~! ほんでプレゼントやけど、オレが部活終わるの19時くらいやから、そこから家に来てもらうの悪いし、部活終わってからそっち行ってもよければ、オレ行くよ!ちなみに行くなら19時半~20時の間くらいかな~。あ、行く前にメールはするで』
 雄和からの返事についつい頬が緩む。この文章の感じからして普通に喜んでくれているみたいだ。ちなみに『百華』が私のことだ。
 そして、この返事を読んで、私は、やっぱり雄和は優しいなと改めて思った。何故なら、この返事で雄和はさらっと『自分がプレゼントを受け取りに行く』という風に持って行っている。いつもそうだ。雄和は、自然とこちらを気遣ってくれるし優しい行動をしてくれる。
 一緒に出かけた時も、身長が大きく違うのに歩く速さを合わせてくれるとか、夜遅い時にちゃんと家まで送ってくれるとか、何か髪型や服装が違っていたら言及して褒めてくれるとか、そういうことを自然としてくれる人だ。三つ目は、私が雄和に片想いしているから嬉しく感じているのだとしても、彼女でもない、単なる幼馴染みの女子相手にここまでしてくれる男子高校生は、なかなかレアじゃないだろうか。しかも男子校育ちなのに。
――やっぱ優しいなあ、雄和。うちのクラスの男子達とは大違い。
 ベッドの上でゴロゴロと悶えながらクラスの男子達と内心比べてしまう。いや、あいつらもそれこそ彼女の前では紳士的かもしれないんだけど、私が雄和を特別視してるだけだからそう思っちゃうんだろうけど。
 クラスの男子のことは今は置いておこう。とりあえず早く返信をしなくては。再度携帯を手に取り、私は慌ててお礼の文を書いて送った。


 それから、20日の19時半過ぎ。私の元に、雄和からのメールが届く。
『今から行っていい?』そのメールに私はすぐさま『いいよ!』と返した。
 さてもうすぐ雄和が来る。ならばちょっとだけ服装や髪型もいい感じにしたい。そもそも今日は雄和が来るから、帰宅後の服装も考えていたけれど、いざ来るとなると本当にこの格好でいいのかなと気になってしまう。落ち着いた色合いのニットに膝上のスカートとサイハイソックス。髪型はいつものサイドテールだが、ヘアゴムは最近買った新しいものだ。雪の結晶みたいなモチーフがついていてちょっと可愛い。これはこの前の休みの日に買ったものだから、雄和は見たことないだろう。彼は気づいてくれるだろうか。いや、気づかなくてもいいんだけど……
 それからプレゼントも再度確認していると、家の中に微かにチャイムの音が響いた。
――来た!?
 反射的に肩を跳ねさせてから恐る恐る部屋の扉を開く。階下からはお母さんが玄関先で話している声が聞こえてくる。話す調子から雄和じゃなくて近所の人かも、と思ったが、やはり雄和だったようで、階段下からお母さんに大きな声で呼ばれてしまった。
 それに返事をして、改めてプレゼントを纏めた紙袋を手に持ち、緊張を抑えるように短く息を吐いて、部屋を出た。
 階段を降りた先、玄関には、学ランの上に部活ウインドブレーカーを羽織り、首元にはオレンジ色のマフラーを巻いた雄和がいた。彼は、私に気づくとにこりと微笑む。寒さのせいか、鼻や頬が少し赤くなっている。ちなみに、お母さんはもう既にリビングの方に戻っていた。

「おまたせ雄和。来てくれてありがとう。ごめんね、部活終わってから疲れてるのに」
「いやぁ、ええよ気にせんくて。すぐそことはいえ、夜に女子うろつかせる方がよくないし。あと、ごめんな、夕飯の時間に」
「いいよ別に。気にしないで」
「いやぁ、ごめんな、すぐ帰るから。……関係ないけどその髪飾り見たことない気がするけど、新しいやつ?」
「え、あ、うん、そうなの。この前買ったばっかで……
「へぇ、いいじゃん、可愛い」
「そう? ありがと」

 雄和の言葉についつい頬が緩む。気づいてくれるのは嬉しいし、その褒め方も嫌な感じがしないからすっと聞ける。だから私は彼のことが好きなのだ。
 さて、それはおいといて、本題は誕生日プレゼントだ。話が一区切り着いたところで、私は紙袋に入れたプレゼントを渡す。

「えっと、改めて、誕生日おめでとう!」
「ありがとう! いやあ嬉しいな、中身見ていい?」
「もちろんいいよ!」

 差し出した袋に、雄和がパァッと笑顔を見せた。続けて袋の中身を取り出すと、驚いたように目を丸くする。本と香水という意外な組み合わせだが、雄和はすぐその意図に気づいたようで、ボソッとモデルの名前を口にした。

「これ……オレが欲しかった本じゃん! それにこの香水はあの人が宣伝してたやつだし……ありがと! 嬉しいよ!」
「ほんと? よかったあ……本当は写真集にしたかったんだけど、雄和のお母さんに見つかったら捨てられちゃうかもって聞いて、こっちにしたんだよね」
「いやぁ、そっか、悪かったな、気遣わせて。でも嬉しい。香水は……まぁ、休みの日につけるなら母さんも文句言わんと思うけど、没収されたらごめんな」
「んー、まあ、その時は仕方ないよ。少なくとも雄和には喜んでもらえた訳だし」

 困ったように眉を下げて一言付け加えた雄和に、私も言葉を返す。雄和のお母さんが香水を許してくれるかは分からないけど、おしゃれアイテムの一つとして許容してくれないかなあ。
 何はともあれ、雄和に喜んでもらえて私は満足していた。気持ちが温かくなっている。
 そんなとき、ふとあるものに目が行った。それは、首元にあるオレンジ色のマフラーについてである。

……ねぇ雄和、いきなりだけどそのマフラーってどこで買ったの?」
「え、あぁこれ? これは……えっと、買ったものじゃなくて、エドに貰ったものなんだよな。手編みだって」
「え、そ、そうなの?」
「うん。びっくりだよなあ、まさかあいつが編み物するなんて」
「そうだねえ」

 雄和の口から出た『エド』――正確には『エドヴァルド』というその名前に、一瞬心がちくりと痛む。何故ならそれは、雄和が付き合っている人の名前だから。
 そう、雄和には恋人がいる。北欧に住む男の子で、すごい遠距離恋愛だ。異性じゃなくて同性だから、これは一部の人しか知らないことだけど。
 だから、頻繁に顔を合わせていても、オタク向けのイベントに一緒に行くことがあっても、周りから『付き合ってないの!?』と驚かれるほどの関係であっても、私はあくまで彼の『異性の友人』だ。もしかしたら『異性の親友』ではあるかもしれないけど、どうやっても私の片想いが成就することはない。
 そもそも私はとっくに彼に告白し、エドくんとの関係を理由に振られている。それでも私は雄和に片想いしたままだし、それこそバレンタインデーには毎年チョコレートをあげている。諦めていないわけではないのだ。雄和とエドくんの関係を応援しつつ、私はずっと雄和に片想いをしているだけなのだ。
 雄和も、私から好意を向けられていることを自覚しているものの、それを意識せずに仲良くしてくれている。
 つまり、私は、雄和に彼氏がいることを知っている上でずっと片想いをしているし、雄和は私から恋愛感情を向けられていると知った上で、彼氏と付き合っている。そして、私を突き放すことなく友人として交流しているということだ。

 妙な関係だとは思う。でも、これで一応上手くいっているのだ。
 けれど、だからといって、こうして雄和がエドくんからのプレゼントを使っているのを手放しで喜べるかというと、話は別である。
――面倒くさいなあ、私。
 内心自嘲しながら、私は笑みを浮かべる。

「いいじゃん、マフラー似合ってるよ」
「そうかな、ありがとう」
「綺麗に編めてるしいいよね。ていうかそれ、私のプレゼントより嬉しいんじゃない?」
「いやいや、どっちもめっちゃ嬉しいよ! エドのはエドので嬉しいし、百華のは百華ので嬉しい! どっちが上とかない!」
「ほんと?」
「ほんとほんと! だってこの本も香水も、エドからはもらえないプレゼントやしさ!」
「そっか。それならよかったかな」

 力強く発された雄和の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。でも、私のプレゼントを下げるような発言はしなくても良かったかもしれない。雄和ならきっとわざわざ確認しなくても私のもエドくんのも大事にしてくれるだろうに。
 というか、親友から貰ったものと恋人から貰ったものなら、恋人からの方が嬉しいに決まってる。それでもどっちも嬉しいと返してくれるのだから、その優しさが嬉しい気持ちと気を遣わせて申し訳ない気持ちと両方ある。
 ちょっともやもやした気持ちを抱えている私に対して、雄和は表情を崩して改めて礼を言う。

「ほんとにありがとな、これ。本も香水も嬉しいし、また出かけることあればつけるわ」
「うん、こっちこそありがとう。喜んでもらえてよかった」
「ちょっと意外なプレゼントやったからびっくりしたけどな。……んじゃ、オレはそろそろおいとまするわ。長いことお邪魔して悪かったな。百華もずっと玄関におって寒かったやろ」
「別に大丈夫だよ。気にしないで。またうち来てよ。それで一緒にアニメ観ようよ」
「せやな。楽しみにしとるわ。――あ、おばさんにも一言言っといて。長居してすみませんでしたって」
「うん、一応言っとくよ。お母さん、そんな気にしてないと思うけどね」
「そうかなあ、まぁ、よろしく言っといて。それじゃ、また! ほんとプレゼントありがとな!」
「うん、こっちこそ本当にありがとね。じゃあね、バイバイ!」

 無限に続きそうな帰り際のやりとりを何往復かしたのち、雄和は玄関を後にする。一応玄関を出て門のところから家の方へ帰る雄和を見送った。彼の家はすぐ近くだから、門のところから雄和の家も見えるけれど、家に入るまで見ているのはちょっと違うかも。だから途中で振り返って再度手を振ってくれた雄和にもう一度手を振ってから家の中に戻った。
 お母さんに雄和が言っていたことを軽く伝えてから、一旦部屋に戻る。部屋のエアコンをつけたままにしていたから止めないといけないし。――というのはおいといて、今の心境で親と話すのはなんとなく嫌だったからだ。


 部屋に戻って、布団にうずくまる。ベッドに置いてあるクッションを抱きしめながら、ふと私は、やっぱりエドくんに嫉妬しているような気持ちがあるんだと改めて認識した。
 雄和とエドくんのことは応援している。超遠距離恋愛を続けているのはすごいし、そもそも男子同士だから、男女のカップルより色々思うことはあるだろう。現実とBL漫画は違う。
 だからこそ、お付き合いしている二人はずっと仲良くしていてほしいし、私を信用して打ち明けてくれた雄和の信頼に応えられるように振る舞いたい。
 でも、結局、雄和がエドくんと仲良くしているということは、私の片想いは報われないと言うことだ。それは自分でも納得しているし、もう別にいいことなんだけど、でも、寂しいような、悔しいような、そんな気持ちになる。
 だってエドくんは今後、雄和と手も繋げるかもしれないし抱きしめてもらえるかもしれないし、キスだってできるかもしれない。でもまあ、私は絶対に無理なわけだ。
 別に雄和に私と付き合ってと迫りたいわけじゃないけれど、今の関係性に満足しているけれど。でも、やっぱり悔しいのだ。私も頑張ってプレゼントを選んだのに、エドくんからの手編みのマフラーがあるなんて分かったら、私のプレゼントが霞んでしまう。
『どっちのプレゼントも大事』――それは本当だと思う。でも、悔しい。こういうのは誕生日だけでなくバレンタインデーでも起こりう得ることなのに、結局私はエドくんに対する気持ちがどうしても荒々しくなってしまう。
――気持ちを切り替えなきゃ……
 ベッドの上で体を起こして、頬をぴしゃりと叩く。この気持ちにもそろそろ慣れなきゃいけない。それに、私だって、エドくんより有利な点があるじゃないか。
 私は、エドヴァルドくんよりずっと物理的な距離が近いところにいるし、更に、ずっと長く雄和の近くにいる。通っている学校は違うけど、休みの日に一緒にアニメを見たり外出したりするし、ときたま勉強会なんかもする。私は、エドくんより頻繁に雄和と顔を合わせる。
 私は、雄和の彼女にはなれないしなるつもりはないけど、それでも、こうして本命の恋人より長い時間を過ごしていること、プレゼントでより彼の趣味に合うものを渡せること、普段から共通の趣味で盛り上がる時間が多いこと……そういうことは、私がエドくんより得をしている点だ。それに対して、私は、密かな優越感を抱いている。
『あなたが遠い異国の地で雄和に会いたいと思っている頃、私はその日にでも雄和に会うことができるのだ』と。
 でもこれは誰にも言うつもりはない。あんまりいい考え方じゃないし、エドくんにも雄和にも失礼だ。だからこれは、勝手にエドくんに対抗意識を持っている私だけの、秘めたる感情だ。
 雄和。恋人とお幸せに。でも、純粋に雄和を想うことも、エドヴァルドくんを羨み妬むような気持ちも、近くにいられることに対する優越感も、理不尽に他人にぶつけたりしないから、心の中で思うだけなら、許してほしいな。