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三毛田
2024-12-19 23:02:26
2888文字
Public
アドベント24
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19. 一瞬のキス
19
これが俺と彼のファーストキス
19. 一瞬のキス
「わっ」
「穹っ」
滑って転んだ俺を、丹恒のしっかりした腕が支えてくれて。
だけど、勢いがありすぎてそのまま二人で転ぶ。
そして、唇が触れて。一瞬。本当に一瞬だ。
「ご、ごめん丹恒。体痛めてない?」
「大丈夫だ。お前こそ、痛むところはないか」
「大丈夫。ごめん。先に起きてもらっていいかな」
「そうだな。動かないで待っていてくれ」
俺の上にいた丹恒が退くと、改めて彼の胸の柔らかさを感じて今更ながらドキドキして。
さっきのキス、丹恒は気づいているのだろうか。
気づいていないのなら、気づかないで欲しい。
あれがファーストキスだなんて、信じたくないから。
いやでも。
丹恒の唇、意外と柔らかかったなぁ。
「穹。足元に気をつけながら、ゆっくり進もう」
「うん」
丹恒が先行してくれて。彼の歩調に合わせ、ゆっくり進む。
「こら、穹」
「ふえ?」
「歩くのに集中しろ」
唇に触れながら歩いていると、怒られた。ただ、彼からしたら注意を促したのにそれに従わないようにしか見えなかったのだろう。
「ごめん。気をつける」
「ああ。それなら、手を繋ぐか」
「ほへ!?」
まさかそんなことを言われるとは思わず、素っ頓狂な声が出た。
「嫌だったか」
「う、ううん。そんなことない!」
すっと手を引っ込めようとしたので、慌ててそれを掴み。
それから、ゆっくりと指を絡めて。
丹恒は驚いたようで一瞬目を大きく見開いたが、絡めた俺の手を振り払うことなく先導するように歩く。
彼が好きだという気持ちを、知られなくてよかった。そう思うと同時に、知られて欲しいとも思ってしまって。
俺は傲慢だ。
「ここまでくればもう大丈夫だろう。穹?」
丹恒は手を離そうとしたけれど、俺はまだ離したくない。ので、ちょっとだけ力を籠めると不思議そうな表情に。
「穹、どうした」
「まだ丹恒と一緒にいたい」
「列車の中でなら、好きにしろ」
と言われたので、渋々手を離す。
アンカーまでの道すがら、丹恒が先程まだいた場所で見聞きしたことを俺にわかりやすく説明してくれて。
俺はただ相槌を打つだけ。
言葉で伝えられるよりも、文字で観た方がわかりやすいなとは思う。きっと、列車に戻ったらアーカイブに登録してくれるのだろう。
それを待つだけ。
「穹、聞いているのか」
「聞いてる。でも、忘れそうだから、アーカイブに登録されたものを改めて読むから、それで許して」
「そうか」
あ。ちょっとだけ嬉しそう。
アーカイブに登録されている資料を確認したり、それに関して質問するといつもよりも嬉しそうにするから、きっと自分の得意分野に関することを訊ねられるのは好きなようだ。
アンカーで列車に戻り、パムに帰還報告。
「ただいま」
「今帰った」
「よく無事に戻った」
「ちょっとお腹すいたから、軽くつまめるものとかある?」
「あるぞ。今から用意するから、きちんと手洗いしてこい」
「はーい」
丹恒は客室車両の方へと向かう。着いていこうかと思ったけど、止めた。
自室に戻って、手洗いうがい。それから服を着替えてラウンジに戻ると、この間食べたスコーンと紅茶が用意されていた。
「これ、食べていい?」
「ああ、よいぞ。このクリームと好きなジャムをつけて食べるとよい」
「ありがとう! いただきます」
割れているところから二つに分けて、片方にクリームを。もう片方にジャムを塗ってから元に戻して、かじりつく。
「美味しい
……
」
思わず呟くと、俺の様子をうかがっていたパムはニコニコと笑みを浮かべ。
「丹恒にも食べさせたいな」
「一応資料室にも運んである。が、食べてくれるかはわからん」
「まあ、丹恒だから」
「そうじゃな。さっき行った街はどうじゃった」
「詳しくは、丹恒に訊いた方がいいかも。俺から見たら、平和そのものって感じだった。でも」
「でも?」
「なーんか違和感があった。多分、隠してることとかはあると思う。もう少し調査をするかどうかは、丹恒次第かな」
最後の一欠けを口へ入れ、それから唇を指で拭う。
「穹じゃないのか」
「あそこに寄ろうって言ったのは、丹恒だから。きっと何かを感じ取ってるんだとは思う」
「そうか。オレは姫子にそれを伝えておく」
「ありがとう」
礼を告げて、二つ目を手にする。
二つ目は、違うジャムをつけて平らげ。
「ご馳走様でした。丹恒の様子、見てくるよ」
「そうしてくれ。俺はこれから、夕食の準備じゃ」
「楽しみにしてます」
パムの帽子をポンポンと撫で、客室車両へ向かう。
「どうぞ」
扉をノックすると、入出を許可されたので入る。
「丹恒、どう?」
「さっき手に入れた資料や、街の人から聞いた話を録音したものは、半分ほど入力を終えた。それで、何の用だ」
手を止めて、俺を振り返る。
「パムが持ってきたスコーン食べた?」
「一つ食べた。片手間で食べられるから、あれはいいな」
「美味しいよね~。丹恒、お前なら気づいてるだろ? 違和感」
「ああ。だが、俺たちが出来ることは何もないだろう」
「そっか。じゃあ、放っておくしかないな」
「開拓はただの人助けじゃない。必要があれば、手を差し伸べるが、彼らが助けを必要としていないのであれば」
「何もしない方がいい。ってこと?」
「そうだ」
「線引きって難しいな」
丹恒の後ろから抱き着き、おなかに腕を回す。
いつもならすぐに振り払われるけど、今日は集中しているのかそれとも気づいていないのか。
まあ、それならそれでいいや。
肩に顎を乗せて、手元を覗き込む。
「よし。お前
……
」
ようやく俺がお腹に腕を回していることに気づいたのか、呆れた声を出して。ポンポンと手の甲を軽く叩かれ。
「さっきパムがご飯だよって呼びに来たから、ラウンジに行こう」
「もうそんな時間か」
とスマホを取り出して時間を確認し。
それから、俺の腕を剥がして資料室をでいていく。そこは俺もつれていって欲しかったよ。
丹恒はさっさと席に着いていたので、その隣に腰を下ろし。
「今日も美味しそう」
提供されたご飯は、盛り付け方が綺麗なこともあって美味しそうだ。
「いただきます」
「いただきます」
いただきますと口にした後の丹恒の所作は、相変わらず綺麗だ。
スープを飲んでほっとした表情を浮かべ、パンを食べやすいサイズに千切って口へ。
俺も好きなように食べ、気づけばすべて平らげてしまった。
今日はいつもより多めにお代わりをした。ら、食べすぎじゃないか。という呟きが隣から聞こえたが無視。
「丹恒、一緒にお風呂入ろうよ」
「いや、俺は」
「はいはい。ちゃんと眠れるように、入ろう。な?」
渋る丹恒の腕を引き、俺の部屋のバスルームまで向かう。
脱衣所で上着を脱がせば諦めて、服を脱いでシャワーブースへ。
丹恒がシャワーを浴びている間に、入浴剤を選んで投入。
残念だが、俺たちはまだ付き合っていない。
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