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あつき
2024-12-19 20:44:00
3313文字
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名前をつけるのは、お前から
ドラロナ
陥落必死おじさんVS日和見のらりくらりロくん
自覚済みドさんと、思いがはっきりしないロくんのお話。
ドラルクはやけに気が立っていた。もう何年も、ロナルドへの想いを胸に秘めて生活してきた。
この恋を確実に成就させるには、ロナルドがドラルクを好きになるように仕向ければいい。二百余年生きているドラルクにとって、青二才のひとりやふたり、いやあの銀髪の青年たったひとりでいい。情に絆して惚れさせるなんて造作もない、朝飯前だし赤子の手を捻るようなものだ。実際のところドラルクは日が昇る前に寝ているので朝食は摂らないし、赤子になったロナルドにすら負ける予感がしたが横に置いておく。
毎日顔を合わせ、胃袋を掴み、ドラルクが居ない生活など考えられないようにさせてやるのだと息巻いた。疲れた時に心の拠り所となるような、温かく安心出来るねぐらを作ればいい。その為に彼の舌に合わせた料理を日々追求したし、ゆったり寛げるよう清潔な衣類と住居をばっちりと設えた。
そうして毎日これでもかと慈しんで整えた土壌に、惜しげもなく愛情を注いでいれば、焦らずとも彼の心にいつか芽吹いて実を結ぶだろうと鷹揚に構えていた。果報を寝ながら、時として死にながら待って待って待ち続けた。結果、今に至るまで些細でも変化はあったかといえば未だにあのアホはちょっとからかっただけで即暴力だし飯のリクエストは偉そうだし何も意識せず無防備に横で寝てるし。同居当初と何か変わったか? 不動。並行線。なしの礫。
生粋の趣味でやっていると受け取られているのか? 全くの他人にだって畏怖欲を満たすためなら、気まぐれやお情けで一度や二度くらいなら作ってやることもあるだろう。だけど
――
「どうでもいい相手に来る日も来る日もご飯作ってやらんだろ!!」
ダン! と両腕で叩かれたカウンターに音が響き、負けた拳は設置面から砂になる。
「こんなにも私が辛抱強く愛を注いでやっているというのに! あの鈍ちんおたんこなすときたら!! 肥料食いのナスの方が成長する分まだいいわッ!!」
打てども打てども響かず、ついに限界が来て向ける矛先の無い苛立ちを誰にいうともなしに声にすれば、聞く気がなくとも吸血金魚には聞こえてしまう。
「家畜に飼料とか言ってたから自業自得では?」
淡水魚から至極冷静な一言が、暴力のように飛んでくる。確かに好きな相手に言う言葉ではないが、その頃はまさか青二才に傾倒する日が来るなんて爪の先ほども思っておらず、軽口が失言に取って代わり、自身を苦しめる未来なんて予測しようがなかった。今更過去の失態を掘り起こされたって、爆破した城と同じくらいどうしようもない。
「キンデメさんその頃いないよね?」
「退治人がそうぼやいていたぞ。所詮あいつにとって俺は非常食扱いなんだろうな、と。チョロいから情に訴えてねだれば楽勝と思われてそうだと」
「よく自分を分かってるじゃないか」
『実際な、あいつが困っていたら別にやってもいいって思ってる。チョロいって言われたって、何年も一緒に住んでりゃ情だって湧くさ』
「
――
だそうだ」
「
……
えっ、え
……
!?」
(ロナルド君、私に血を吸われても良いって思ってるの?)
ぜひ情には流されて欲しいし血をくれるというなら吝かではないけれど、恐らくドラルクが望んでいる情とは違う。交わらない道筋に気付いて塵となり崩れ落ちた。しかし鬨の声と共に瞬時に再生する。
「軌道修正!!」
「どうやって?」
「ンァー!! なんかこう、いい感じにアレしたらアレになって
……
取り持ってくれませんキンデメさん?」
「思考を放棄して魚類に頼るな。そして巻き込むな」
「確かに私は彼の血が欲しい! でもそれは食料としてなんかじゃなくて、彼のすべてが欲しいという」
「あのさ」
「ヴァー!? ロ、ロナルド君!?」
そこには俎上に載せられた張本人が、呆けたように立ち尽くしていた。頭に血が上り熱くなっていたせいか、同居人が帰ってきた物音に一切気が付かなかった。
「き、君、さっき仕事に出たばかりでは?」
「忘れ物して
…
取りに帰ったら、なんかお前の怒鳴り声が聞こえて。珍しくひとりでなに怒ってんだろと思って」
「タイム。じゃあ、君まさか最初から全部聞いて」
「ごめん」
ああぁぁぁと唸りながら塵になる様を見届けて、ロナルドは頭を掻きながら吸血金魚に向き合った。
「こいつが変に巻き込んでごめんな。ちょっと話し合うから待っててくれ」
そう言って金魚鉢に移して事務所へ避難させてやれば、「今後は我輩を巻き込まないよう、互いの気持ちを確認してすり合せろ」と尊大慈悲なアドバイスを賜った。
しっかりと扉を閉めてふたりきりになると、ロナルドは砂山の横にしゃがみ込んだ。
「なあ、さっきの続き聞かせろよ」
「んんん゛むりぃ」
「へたれ」
さりさりと冷たくなめらかな砂粒に指を梳き入れて、穏やかに問う。
「お前、俺の血飲みたいの?」
「飲みたい」
「ンブッ、即答」
忌憚のない返答に、忍び笑うつもりが堪えきれず吹き出してしまう。
「それは、食欲でないならなんなんだよ」
「
………………
」
「沈黙はずりぃよ。散々、期待させておいてさ」
ズッと、砂がかすかにうごめいた。
「なあ、俺だってさ、この気持ちに名前をつけそびれてんだよ。お前とダチでいたいのか、家族と言いたいのか、それ以上なのか。分かんねえから、お前の気持ちを教えてくれよ。何の根拠もないけどさ、多分おんなじだと思うんだよ。ほら、一緒に暮らしてたら考えとか似てくるっていうじゃん」
指のすき間から塵が駆け上り、それは細い指を形作った。手袋はなかった。見慣れた、血色の悪い肌の先に、視線を奪う鮮やかな赤い爪。まるでロナルドに見せつけるように、きゅっと指を曲げて握り込まれた。そこから腕、肩、首、くせ毛まで綺麗に再生した時、ドラルクは何故か不機嫌に眉を寄せて、拗ねたように口をへの字に曲げていた。
「もし私がこの関係は友愛だと答えたら、君はそうあり続けるのか?」
「んー
……
?
……
残念ながら? お前となら、それでも楽しいだろ」
それだって紛れもないロナルドの答えだ。この吸血鬼はがらりとロナルドの生活を変えた。転がり込んできた時から始まった日々がそうだったように、これからも退屈しないだろうとまるで未来を見てきたかのように思えるのだ。
「でもさ、お前は本当にそれで後悔しないの?」
悪戯小僧のように無邪気な笑みで、そそのかすように言いのける。その笑みを受けてドラルクは無性に可笑しくなって、前髪が乱れるのも構わずグシャリと握り込みながら、カラカラと喉を鳴らした。
「ハハッ! 若造が随分言うじゃないか! いいだろう! 享楽主義の私は、後悔なんて大嫌いだ」
いつの間にか心を占めるように、どっかりと我が物顔で居座っているこのむず痒い想いに名前をつける必要があるのかと問えば、そうでないと存在の証明が難しいからだろう。友愛なのか恋なのか、真実がどうかなど当人にしか推し量れない。
言葉にすることでしか変わらない現状を前に、ドラルクを意気地なしと揶揄しておきながら、真に臆病なのはロナルドの方だった。
その甘えを分かっていて、享楽主義の吸血鬼は言葉にしてくれる。
「ロナルド君が好きだよ。毎日私のご飯を食べて作られた体から漂う、芳醇な香りに酔わされても、君からの許しがないとその血は欲しくない。君の全てが欲しいけど、それは君がくれると言うならだ」
例えしっくりくる名前でなくても、今の生活を続けられるならそれで構わなかった。ロナルドが情けなくもこの気持ちの決定権をドラルクに委ねたのは、重ならない名前がついて分かれ道を選ぶことの方が怖かったからだ。
変わらず一緒にいれるならどちらでもいいと思っていたはずなのに、ドラルクの答えは確かにロナルドの鼓動を早めた。
「うん。俺も、多分ずっと前からそうだったのかも知れない。好きだ、ドラルク」
「今は、その血よりも先に欲しいものがある。許可を貰えるだろうか」
君にも後悔は、させない。
そう言って寄せられた唇を受け入れたのは、ロナルドの最初の許しだった。
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