urifuji
2021-04-17 11:38:32
5069文字
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ワクワク!バレンタイン 後日談 現パロ

バレンタイン後の話。ツイッターに乗せていた話を再掲。ホワイトデーをどうしようか悩む御神槌の話です。

 御神 槌は浮かれている。
 先日あったバレンタインで、長く長く想い続けた愛しいの人と漸く恋人同士になったからだ。
 前世で悼み続けた約50年と現世で探し続けた7年、アプローチし続けた約2年、合わせて苦節約60年ほど。どれほどこの日を待ち望んだ事か。現世ではこちらの方を悲願と言って良いほどだった。長かった、本当にとても長かった
 彼がどれだけ嬉しかったかというと、彼女と別れた後キャラに合わず全力でガッツポーズを決め、両親と仲間たちに興奮気味に報告した後、神に感謝の祈りを6時間ぐらいぶっ通しでしてしまうぐらい嬉しかった。
 気がついたらチュンチュンと雀が鳴き、カーテンから朝日が差し込んでいた事から彼がどれだけ集中していたか分かるだろう。つい格好つけて次の日に逢いましょうと言ってしまったが、彼女がお休みしていて正直安心した。なにせ朝までお祈りしていてテンションは最高潮だったが、顔は酷いくまが強制装備されていたので。彼女には出来る事ならかっこいい自分を見てほしい。今なら柳生は無理でも北欧の神々の一人や二人や三人、いや四人ぐらいは倒せそうな気がする。ちなみに黄泉姫は一人でも無理なので、彼女は数に入れないでほしい。
 とにかく彼は浮かれていた。
 次の日会社に出勤するとどこからともなく聞きつけた部署や他部署の人達から告白成功したのか!と質問攻めにあったとしても、たとえ周りから彼女を落とす時期の賭け事をされていても笑って許せるほど浮かれていた。倍率が高かったのがバレレンタインとホワイトデーだったらしく、ホワイトデーにかけていた方々からなぜ一ヶ月あとにしてくれなかったかと苦情が入ったときには流石に聖書を読んでしまったが。ただ弾けんばかりの笑顔で追いかけられ攻撃されたのが余計怖かったのか、それから彼を見る度に逃げ回っているらしい。まあ、今はそんなことを気にしている暇はない。
 そんなことより鈴菜さんだ。
 嬉しさのあまり自制も利かず彼女の柔らかくほのかに甘い小さな口に口吻をしてしまったが、あれはいけない。思わず2回も口吻をしてしまった。やめられなくなる、もっと彼女に触れたくなる。欲望が深まるばかりで、まるで禁断の果実を食べた気分だった。
 彼女を大切にしたい、あらゆる災害から守りたい、それは間違いなく本心だ。しかし同時に彼女を自分一人だけのものにしたい、彼女の柔らかな肌を味わいたいと体の底で本能が叫んでいるのも事実だ。しかし、私の独りよがりの欲望を彼女にぶつけるわけには行かない為、これからは違う苦労をするだろうなと苦笑する。まあ、でもこれも彼女と付き合えたからの悩みだろうけど。
 今目前の悩みといえばホワイトデーに向けて彼女に何を渡そうと言うことだ。花はもう渡してしまったし、甘いものがあまり得意ではない彼はお菓子はあまり詳しくなく、どちらかというと彼女のほうが詳しいだろう。個人的には食べて無くなってしまうものより形の残るものがいい。
 そう、例えばアクセサリーとか。


「やっぱり指輪でしょうか。私としては瞳の色に合わせイエローダイヤモンドとかいいと思うのですが」
「ホワイトデーにダイヤモンドじゃと?婚約でもする気か」
「それが付き合って数日の彼氏の思想か?」

 一番候補を伝えた直後一番付き合いの長い二人から駄目出しがあった。確かに彼女は古武道を嗜んでいるので指輪は正直喜ばれるか悩んでいたから納得はする。

「できるなら今すぐ結婚を申し込みたいぐらいですが、まあそうですよね。ではネックレスですかね?ブランドで言えばシャ〇ルとかブル〇リでしょうか」

 じゃあネックレスならいいだろうかと提案するとこれもまた突っ込みが入る。

「何でチョコレートのお返しが10倍どころじゃないブランドのネックレスなんだい。どこぞのドラマじゃないんだから。もらったときすーさんが卒倒する未来が見えるよ」
「なんでお前は師匠が絡むと頭の螺子が数十本緩むんだ?」
「さすが愛の重すぎる男だねえ」

 本日は休日であり本来は午前中からデートしたいところだが、彼女は生憎14時までは用事がある様で、自宅で本を読んでいた私の元に火邑さんから連絡があったのは1時間前。待ち合わせをしていた場所に雹さん、桔梗さん、九桐さんがそろっていたのには驚いた。どうやら私たちのその後が気になり呼び出した、ということらしい。
 人が必死で考えたプレゼントをことごとくダメ出しした挙句、言いたい放題言われている。確かに相談したのは私だが、もう少し穏便に言って欲しいものだ。まあ、自分も思ったことをはっきり言われるほうが気が楽ではあるのだけど。

「ではどんなのがいいと思いますか?個人的には形の残るものがいいのですが」
「形に残ることに固執しているところがもう……
「何か言いましたか?」
「いいや?」

 じろりと火邑さんを見つめると、肩をすくめ首を傾げている。うーん……と桔梗さんが口に指を添えて難しい顔をしているが、桔梗さんのアドバイスは的確なので、色々情報が欲しいところだ。

……ネックレスでもいいと思うけど、もう少し安くて可愛いものがあるブランドとかあるだろう?それはどうだい?」
 
 成程。
 桔梗さんから名前も知らないブランド名を何個か教えてもらっていると、それを聞いていた雹さんからツッコミが入った。

「というか、鈴様はそもそもアクセサリーに興味があるのかえ?」

 そう言われてしまえば皆で悩むしかない。
 確かに長い髪に細工の細かい髪飾りをつけているが、あれは龍斗師の手作り品のようでそれ以外の装飾品をつけているのを見たことがない。
 いや、一つだけある。あるけれど……

「ん?たしか両師匠共に耳にピアスをしているだろう。随分高そうな。あれはどうなんだ?」
「鈴菜さんに聞いたことがありますが、あれはご両親の形見の品ですよ。遺骨をダイヤモンドにしているそうです」
……そうか。それは悪いことを聞いた」
「いえ……、私も最近知りましたから」

 いつも前向きに笑っていることが多いので忘れやすいが、こんな平和な時代なのに龍斗師や鈴菜さん、まだ小さい龍麻くんは両親と生き別れている。それどころか多くの親族もいないのだ。改めて彼らの背景がどれだけ凄惨であり困難であったのか浮き彫りになり、悲しみの様な悔しさが身を包む。
 なんとも言いようのない気まずい雰囲気が流れるなか、パンッと1音、乾いた音が響いた。ふと見ると、桔梗さんが手を叩いてこちらをジロッと見ている。

「はいはい、当事者じゃないのにそんな暗い雰囲気になっても仕方がないだろう。御神槌、あんたもすーさんに同情している暇はないよ。あんたはこれからはあの子を支える立場にあるんだ。もっとしっかりするんだね」

 ずいっと私の顔の前に指を差し出し睨むように話す彼女。鈴菜さんを妹のように可愛がっている桔梗さんは色々な事が心配なんだろう。ぐっと口を引き締め、彼女に宣言するように伝える。

「はい。もちろんです。誰よりもあの人を幸せにすると決めていますから」

 神に誓って、この魂に誓って。
 目を見て真剣に話す私に桔梗さんはふっ、と表情を和らげ「それならいいさね」と優しく笑った。

「まあ、何が好みかわからん以上もう少し様子を見てはどうじゃ?まだ一ヶ月ほどあるからの」
「まあ、それが妥当だよなァ」

 私達のやり取りを静かに見守っていた三人はそう話頷く。
 そんな中火邑さんが目を輝かせながら私の方に身を乗り出した。

「なあ、御神槌よ。ちなみにお前はどんなチョコレートをもらったんだ?ちなみに俺様はチョコレートサラミ?ってやつみてぇだが、美味かったぜ」

 指で丸をつくり大きさを示す。それに便乗するのは女性二人と九桐さん。

「ふむ、妾とは違うの。妾は生チョコだったぞ。日本酒がきいておったな」
「そうさね、私もそうだよ。でも私のはお酒なんか入っていなかったさ」
「俺は若と同じでブラウニーだったな。甘いかと思ったが、コーヒーと共に飲むとちょうど良かった」
「へぇ……天戒様もブラウニーだったのかい。しかし多くの仲間たちに渡すのに随分色々種類を作ったんだねぇ」

 は〜、と感心したように呟くのは桔梗さんに同意した。

「本当ですね……。彼女のマメさが出ているようです。ちなみに私はこれですよ」

 携帯を取り出し、写真を見せる。

「トリュフかい?」
「いえ、さくらんぼの洋酒漬けボンボンショコラです」

 彼女のくれたチョコレートは中のさくらんぼがブランデーにしっかり漬かり、ビターのチョコレートと非常にマッチして本当に美味しかった。量の少なさを残念に思うぐらいに。
 本当は自宅の祭壇に本気で祀る予定だったが、あそこまで念を押されたので彼女にとってあまり喜ばしい事ではないのだろう。せめて食べ終わった後、チョコレートの箱を置いておくのは許してほしい。

「とても美味しかったです。鈴菜さんは本当に料理上手ですよ。欲を言えばもう少し量があったら嬉しかったですね……

 携帯を見ながらしみじみ呟くと呆れた火邑さんから「彼女なんだからまた作ってもらえばいいじゃねぇか」とツッコミが入る。
 その言葉を受け、自分の技を受けた時のような衝撃が走った。

「火邑さん……、天才ですか……?」
「お前……いや、もう。まあいいや」

 私の様子に完全に呆れていた火邑さんだったが、うん、そうだった。あの人は私の彼女だった。
 言葉の響きに思わず胸に手を当てじーんとしていると

「ん?でもサクランボは今の時期はないだろ?もう少し暖かい時期だった気がするが」

 と九桐さんは顎を触る仕草をして疑問を呈した。
 ……確かに。

「確か旬は……そうそう、5~6月のはずだよ」
「そういえば今は見ねえな……。ん?じゃあすーすんは海外のやつ使ったのか?」
「いや、それはないじゃろう。以前果物酒を飲んだことがあるが、その時の店長は果物によって漬かる時期が違うと言っていた気がする。サクランボは確か半年ぐらいかかるとか……
 御神槌、お主が食べたのは洋酒漬けがしっかり漬かったものだといっておったの」
「は、はい。確かにお酒は効いていましたよ」

 確かにチョコレートにも入っていたが、それよりも中の果物から洋酒の味が染み出していた。
 果物の甘さと洋酒が合さってあれだけでも美味しかったのだけど……

「まじか、じゃあその時期にわざわざ買って漬けたのか?こいつに渡すチョコ、いやバレンタインの為に?」
「え?」

 思いもよらない展開になってきた。
 もし、それが本当なら。彼女は。

「用意周到だねえ。御神槌、あんた思っているより随分愛されているじゃないのかい?」
「なんじゃ、よかったのう」

 女性陣が笑って祝福し、男性陣もやれやれといった顔をしながら笑っていた。しかし、そんな周囲の雰囲気をぶった切るように私はガタッと立ち上がる。

「どうした、御神槌?」
「今から……
「ん?」
「今から鈴菜さんに、真相を確認してこようかと思います」

 本人に気づかれないような愛の込め方をする可愛い人に、胸の奥から激しい感情が溢れ、思わず目が開眼した。

 あの人は、本当にっ、どうしてくれようかっ!

 湧き上がる感情は優しいものではなくどちらかというと怒りの様な熱気。
 尋常じゃない気迫に周りは気圧されそのまま出ていく御神槌を見送った。

……あいつ、糾問でもする気か……?」
「本当にあの二人は大丈夫なのかね……?」



 その後恋人になってから初めてのデートにウキウキな鈴菜であったが、待ち合わせの喫茶店で恋人の尋常ではない圧を見たときにはすぐにUターンした。しかし時既に遅く退路を断たれており、7ヶ月前からバレンタインの準備をしていた事、洋酒漬けに使った酒は家に来た時秘密裏に出す予定だった事など吐かされた挙句、前世でも彼が魘されないよう夜な夜なお邪魔し気を整えていた事など最後まで気づかれなかった事までも白状させられる事となる。
 仲間たちが心配して喫茶店にいった時は、意味がわからないまま尋問され半泣きになっている鈴菜と感情の限界を超えた御神槌が無表情で詰めている場面であり、その様子はまるでドラマで見る警察の取り調べの様であった。