urifuji
2021-04-17 11:33:02
4976文字
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ワクワク!バレンタイン 数日前 現パロ

バレンタイン話です。(ツイログから再掲)御神槌→女主人公
火邑視点のお話です

 御神 槌は九角カンパニーに所属するプログラマーである。
 次期社長である九角天戒を慕って今の会社に就職をしたが、電子関係の知識は凄まじく、今でも彼をヘッドハンティングしようと声を掛けられることがあるらしい。
 仕事態度は勤勉実直であり博識多才、性格は穏やかで誰にでも平等で公平に接している事から元々の人気は高いが、何より声がいいと本気で恋をする社員もいるほどだった。
 しかしその人気を妬んだある男性社員は彼に粗暴な態度をとり、何度も仕事を押し付ていたらしい。残念ながら目立った効果はなく、鬱憤が溜まり続けた彼はある日、御神槌の信仰している宗教を冒涜した。しかもよりにもよって彼の目の前でロザリオを踏みつけたとのこと。
 社内で有名な逆踏み絵事件である。
 全部曖昧な表現なのは事件が起きてから軽い小話として嵐王から聞かされた為。軽いどころかヘビー級の爆弾を聞かされた時、飲んでいたコーヒーをぶちまけ、書いていた設計図をすべて駄目にした俺様は悪くない、はずだ。
 仕事を押し付けられても困った顔をして取り組み、期限に間に合わせ涼しい顔を見せていた御神槌だったが、目の前の暴挙を見たときの顔は通りすがりの社員が夢にうなされるほどだったらしい。元鬼道衆メンバー揃って自殺志願野郎と称した男性社員が、その後不祥事をおこし、会社に居られず自主退職したと聞いた時は、皆で御神槌を見てしまった事は仕方がないだろう。彼は我らの視線に気が付くと「おや、皆さん。どうしましたか?」とにっこり笑ったため、今でも彼を本気で怒らせてはいけないと再認識できた事件だった。さらば自殺志願野郎。もう顔も思い出せないが。
 そんな御神槌であるが傍から見るといい物件のようで、バレンタインの時は多くの女性から声を掛けられている。明らかに義理チョコだと分かるものは受け取っているが、本命だと分かるものや告白を受けると決してプレゼントや告白を受け取ることはせず、心に決めた人がいるときっぱり断っていた。学生の時から見慣れた光景だ。 
 泣きながらそれでも受け取って欲しいと縋ってくる女性もいる様だが、それを宥めながらも彼は決して折れる事はない。バレンタインに泣く女性の多さから、この時期になると本命を受け取らない男として女性社員の中で注意喚起されている、と噂で流れるほど。まあ、それでも普段優しくされている女性からすると(彼はただ公平なだけだが)、もしかしたらと期待する様で、果敢にもチャレンジしては玉砕している姿が毎年恒例行事になってしまっているようだ。
 御神槌自身も毎年の事とは言え少し辟易している様であり、この時期になると顔を暗くしていた。モテない男からすると腹が立つほどの羨ましい事案である。度し難い程許し難し。一遍殴りたい。倍返しされるけど。
 しかし、今年の御神槌は違う。2月になり周囲がバレンタイン一色となってくると明らかに浮足立っていた。チョコレートの相場を見たり、恋人のいる同僚にバレンタインのプレゼントを聞いてみたり。
 毎年とは違う態度に同じ職場の社員は「ああ、あの、弁当屋の子……」と相手が想像できてたが、職場の違う女性社員からすると恋人ができたとショックを受けている様だった。そんな彼女らをみて、「同じ職場で働けばいい、本命との対応の違いに恋も一瞬で覚め、その甘さに胸やけがする」とは彼に憧れを抱いていた女性同期のなつみ(21)の言い分である。これが彼らの対応を目の前で何度もみた女の言葉だ。重みが違う。
 本命が分かりやす過ぎる男、のろけ話だけで甘党がブラックコーヒーを飲める、と噂の彼は彼女に対する対応は実は無自覚で、告白していないし付き合ってもいない事、彼女の方は自分に好意を抱ているとは欠片も思ってもいない事を周りに伝えると大体は信じられないような顔をしてこっちを見る。
 分かる分かる。不思議でしょうがねえよな。

「嘘だろ……?あんなに甘い雰囲気なのに……?」
「え、あの対応を普通だと思っているの?声もあんなに甘くて吐きそうなのに?彼女大丈夫?色々麻痺してない?」

 話したい事があり御神槌の職場に来た火邑は、彼がいない事を確認すると帰ろうとした。
 しかし際同僚に声を掛けられ、はじめは他愛もない世間話だったが行動がおかしい御神槌の話になり今に至る。いつの間にか増えたギャラリーを考えると、どうやらそちらが本題の様だ。

「個人的には同意しかないが、残念だがら真面目にそう思ってんだよなァ~。俺様も随分疑ったが、御神槌は優しいから誰にでもそう対応している、だとよ」

 腕を組み辟易したように話すと、隣にいたメガネ野郎が一瞬で映画でみた国民的電撃黄色ネズミのしわっとした顔を彷彿させるような顔をした。

「カ~ッ‼ペッ‼普段の御神を対応をその子に見せてやりたい‼何が優しいだ‼」
「顔芸乙。お前、御神に個人的な恨みがあるのかよ」
「あいつ、最近気になっている子が御神の声が素敵だってベタ褒めしていたのを聞いたらしいぜ……
「ああ……しょうがねえよ、cv.石田だしな。敵うはずねえだろ……。諦めろよ……
「メタ発言やめろ」

 モブ職員の声が聞こえるが、気にせず続ける。

「俺らも大概吐きそうだがお前らも大変だな……。多分もっと大変になるから頑張れよ」
「なにその死刑宣告!」
「ふざけんな火邑!職場に御神連れていけ‼お前らも同じ思いをすればいいんだ!」

 周りからブーイングが飛び交うが、俺様からしたら鈍っちょろい言い分にしか感じず、ため息が漏れる。

「ばっか野郎、いつも助けてもらっているだろうが。困るのはお前らだからな!それに職場はまだ自制しているからまだいいほうだぜ。私生活で会ってみろ、もっと酷い事になってるわ」

 目の前のスタッフ全員あれで自制……?とドン引きしている。

「大体なんであいつの苦情先は俺様なんだ!確かに御神槌とは同期で同級生だが、俺様はアイツらの生活消費センターじゃねェんだよ‼雹と御神槌両方の苦情対応している俺様にもっと感謝しやがれっ‼」
「うわあ……
……お疲れ様です」
「今度同情という名の義理チョコ差し上げるわ」

 感情のまま叫ぶとさらに憐みの眼差しを受けた。
 違う、俺様は感謝してほしいが憐れまれたいわけじゃねえ……
 思わず頭を抱えていると、その悩みの種は笑顔で現れた。

「これは、火邑さん。モテモテですね」
「出たな諸悪の根源」
「?何ですか、急に」
 胡散臭いと称される事もある笑顔を携えて、御神槌が外から帰ってきた。
 一緒にいたスタッフは「あ、休憩時間にちょっと見たい資料あるんだよな~」「私も化粧直ししなきゃ」等そそくさと散らばっていく。くそう、アイツら逃げやがった……
 仕方なしに御神槌に向き合うと、彼は手ぶらでいつも買ってくる弁当を持っていない。

「ん?お前すーたんの店に行ってたんじゃねえのかよ。珍しいな」
「もちろん行ってきましたよ?ですが……
「もちろんときたか。で、何だよ?」
「今日は特別にお休みでした……。昨日は何も言っていませんでしたが、一体どうしたんでしょうか?」
「さぁな?俺様もなんにも聞いてねぇよ」

 露骨に残念そうな顔をする御神槌に、昨日も会っているやつにそんなに会いたいのかと嫌味の一つでも言ってやりたいが、当たり前ですよと平然に言う事が想像出来るため無駄な質問はしない。 
 そんなことよりようやく彼が戻った為に当初の目的を果たすべく、彼に近寄るようジェスチャーをした。不思議そうに近づく御神槌に小声で質問する。

「っていうか、お前、結局どうするんだ?」
「?どうするとは?」
「バッカ、お前。その、すーすんにだよ」
「ああ。その事ですか」

 以前に御神槌からバレンタインの事で相談された事があるが、どうやらすーすんにプレゼントをしたい様だ。彼いわくバレンタインは何とかいう偉人を称える日であり、愛を伝える日である為男性から贈り物をする事はおかしくないとの事。以前飲み屋で相談されたときには、確かバラの花束を送ることにしたとかなんとか。結局どうなったのか気になり、わざわざ聞きに来た訳だ。

「予定では赤いバラの花束99本送るつもりでしたが……

 この時点で周りがきゅ……!と動揺する気配を感じた。御神槌が周りに視線を送ると途端に静かになる周囲。

 ……聞いてんな……、コイツら。

 彼等に背を向けて壁に向かいひそひそ話を続けた。

「桔梗さんに近くに大量な花の取り寄せができる良い花屋がないか尋ねると、プレゼントに大反対されましてね」
「へぇ?どうしてだ?」
「それが、桔梗さん曰く……
『恋人でもない仲間からバラの花束、しかも99本も贈るなんて本気で言ってるのかい?本当は999本贈りたかった?正気?しかも何時、何処に送る予定?え、朝一?馬鹿じゃないのかい!朝の忙しい時間帯に余計な手間を取らせるんじゃないよ!しかもすーさん宅に花瓶とかあるのか知ってるのかい?……はー……。何も知らなくてよく贈ろうと思ったね……
 いいかい、99本の花を維持するにはそれなりに大きな花瓶がいる。しかもバラに負けないような立派なやつがね。天戒様のようなお屋敷にならあるかもしれないが普通の家庭では置いている事のほうが少ないさ。しかも時間帯が問題だ。すーさんも仕事をしているから昼間は困るだろうし、かと言って朝なんて論外だよ。あの子の家は小学生の子供がいるから支度や家事で一秒たりとも忙しいだろうし、そんな時間に花束を届けられたら逆に殺意がわくさ。わたしだったら相手にいい感情を持たないねぇ。嫌われたいなら止めないけど』と」
「すげぇ参考になる意見」
「ですよね」

 流石桔梗。
 分かりやすく現実的で女性ならではの意見だ。意外とロマンに憧れがある男達には反論の余地がない。二人してうんうんと頷いた。

「それでじゃあどうしたら贈り物として花を贈ったら喜ばれるか聞いてみたんですが……
「お前、散々ボロクソに言われてもまだ花を送りたいのか……
「当たり前ですよ。赤い薔薇は重要な意味があるんですから」
「マジか……知らんかった」

 女は花が好きだからという意味で選んだのかと思っていたら全然違ったらしい。さすが知識人の御神槌。ただのロマンチストなだけじゃない。

「馬鹿にしてますか?」
「頼むから思考を読むな。そして感心してるんだよ馬鹿にしてねぇだろうが!」
「そうですか。まあ、いいでしょう。それで桔梗さんは『そうさねぇ……赤い薔薇なら一輪だけ。後あんたさえ良ければ瓶に入ったお菓子とかバスソルトとかいいんじゃないかい?ジュースでもいいね。ラベルや瓶自体が可愛いものだよ。中身じゃなくて外が大切なのさ』と助言を頂きました。
 流石桔梗さんです。私が言いたい内容を汲み、なおかつ相手が困らない本数を言うとは……
「たまたまなんじゃねぇの?」
「『あんたが言いたい内容は一本でも大丈夫だろう?』と行っていた彼女ですよ?」
……やべぇな……。ん?本数の意味って割と常識なのか?」

 もしかして俺様疎いのか?と思い、ちょっと、いやだいぶ焦りがくる。思わず周りを見るが、男性社員からはブンブンと激しく首を降るヤツや顔の前でばつをつけるやつが多い。……安心したぜ。

「まあ、知らない人のほうが多いと思いますよ。私は小説で知り得たものですし」
「ふーん」
「これで彼女に渡すプレゼントの参考になりますか?火邑さん」
「ああ、ありがとよ。これで、……ん?」

 上機嫌でお礼を言った後、なにかおかしい事を言われた気がして、ギギギ……と隣の御神槌を見つめた。
 相分からず思考の読めない顔で微笑んでいる御神槌。戸惑いを隠せない俺様に対し、小声で話す。

「私の話を気にしているふりをして、ほのかさんに渡すプレゼントをリサーチしていたのでしょう?今の関係をなんとか脱却する為に。今年、意識してもらえるといいですね」
……
 目の前の男はすべてお見通しであったらしい。俺様は小さく「ああ……」としか言えず俯いた。