urifuji
2021-04-13 16:05:14
5891文字
Public
 

甘い彼との攻防戦 第一ラウンド 現パロ

照れ屋な女主人公といちゃつきたい御神槌の攻防。
いつもより糖度高めです。

 バレンタインを経て、前世からずっと恋い慕っていた人とお付き合いする事となった。いや、お付き合いすることが出来たというべきか。
 正直家族とか過去の事とか、なにより柳生との闘いが連日繰り返されていた私は、お付き合いするという以前にただ生き残る事に必死だった。
 こんな平穏の生活とはほど多い危険と隣り合わせの生活をしていた私は、平和な場所が似合う彼とは生きる世界が違う。彼はきっと素敵な誰かと出会い、私の知らない所で幸せになるのだと思っていた。もちろん、私はずっと彼の事を好きなままだけど、それでも私はどこかで幸せになっている彼とこっそりすれ違い、その幸せそうなその横顔を一目見るだけでいいと心の底から本気で思っていたのだ。
 ……まあ思惑は見事に外れ、仲間たちとリアル鬼ごっこ(鬼の数が逃げる人より多いあれは今思えば完全な無理ゲーだった……)をした後和解し、紆余曲折を得て再び柳生を倒すことが出来たのだけど。
 そんな色々と事件があった中でも彼は私の事を好きだと言ってくれた。前世から同じ気持ちだと伝えてくれた。あの人生最良の瞬間を私はきっと、生涯忘れることはないだろう。
 付き合ってからはお互い仕事や家庭の事がある為頻回にデートをすることは出来ないが、それでも(機械音痴の私が頑張って)毎日連絡は取り合っている。また、時間のない中でも会える時間を何とか作り、少しでも彼と一緒に入れる時間を大切にしている。そうして現世で生きているお互い事を少しずつ知っていくのだ。
 彼と付き合ってまだ数週間だが共にいて分かったことがある。もちろん前世と変わらない事も多いから昔を思い出して微笑ましく思うことも多いのだけど。
 いや、変わらない事はいい。そんなことより問題は……

「あの、みかちゃん……
「はい、どうしました?」

 さわさわ。

「あの……、あのですね……
「はい」

 ぎゅっ。

「ひ、ひえ……あのっ!何故こんな事になっているの是非教えてもらいたいのですがっ!」
「ふふ。……こんな事、とは?」

 ぎゅ~。

「だ、だからぁっ…………

 知ってるくせにっ‼

 たっちゃんもたっくん達も遊びに出かけている今日、私はみかちゃんのマンションに遊びに来ていた。
 20代男性が一人暮らしで住むマンションが大体どのぐらいか見当はつかないが、東京で2LDKのマンションに住んでいる事を考えればかなり凄い事なのではないかと思う。だから今の生活はみかちゃんの努力の結果だし、それまでの彼の功績を褒めるべきだと思うのだが、以前その事を伝え褒めた時には彼は何故かきょとんとしていた。そんなことを言われたのは初めてと話し、その後優しく笑う彼は、だからあなたが好きなんですよと言ってくるため色々な意味で心臓に悪い。
 ……不意打ちはずるい。というか当たり前のことだと思うんだけど。

 そんなことよりも今っ!
 私が必死でSOSを出しているのに理解しながら聞かないふりしているこのっ!目の前……いや後ろにいる少し意地悪な彼が問題です!

 彼は私と付き合ってから色々な面を見せてくれた。
 さっきの回想みたいに思いを伝えてくることや臆面もなく美辞麗句を伝えるところ、は今思えば前から割とあるのだけど、明らかに数が増えた。また、人前では制限しているが、こんな風に2人きりになると彼は始終私に触れたがった。
 例えば私が食事を作っている時一瞬私の髪に口付けをする、例えば横でテレビを見ているときそっと手を握ってくる、例えば自宅に帰る時に寂し気に頬や顔にキスをする……等々。
 お蔭で彼のいる時の私の心臓は、人間の正常な脈拍を超え小動物の様に脈は激しく打っている。
 今、正に過剰な心負荷がかかっている私の心臓はいつか早いうちに止まると思う。

「以前あなたが言ったではないですか。このままじゃ緊張のしすぎで死んでしまうと」
「はいっ!言いました!確かに言いましたし今まさにそのことを思い出してたところです!でも、だからこそっ‼この体制は一体なぜっ‼WHYっ⁉どうしてですか、神父様ッ!?」
「残念ながらこの現世では私は神父ではありませんよ」
「知ってますよっ‼‼知っていたら絶対に告白なんてしませんでしたよ‼‼」
「え、そうなのですか?……この道を選んだ高校の頃の私、本当にいい仕事をしましたね」
「それはよかったです‼よかったついでに教えてもらってもいいでしょうかねえっ?!」
「鈴菜さん。そんなに興奮すると可愛い顔がもっと赤くなって、いよいよ食べごろになってしまいますが……
「ひええっ?‼」

 何故私がこんなに必死になっているかというと、私の、というか私たちの体制に問題があるから。ではどうな体制になっているか一緒に振り返ってみよう。
 彼はソファーの上に座っている。今の今まで目の前のテレビを見ていたからね。私もついさっきまで隣に座っていた。けれど今は彼の前にいる。
 ……そう前だ。何とかお尻がのるソファーのぎりぎり端に座り、彼の足の間に両手を膝の上に乗せ硬直している。彼はというとちょこんと座っている私のおなかに手をまわし、落ちないように支えてくれている。そして私の肩に顔を乗せ、必死になっている私の様子を耳元で楽し気に笑うのだ。時折吐息が耳もとにかかりくすぐったいため、顔を必死で傾け避けようとする私。その様子を見たみかちゃんはふっ、と空気が漏れる様に笑い、追い打ちをかける様にわざわざ耳元に近づき「ねえ、鈴菜さん」と囁いた。
 彼のアルトテノールの声で名前を呼ばれた途端、体に電気が通ったようなぞくぞくとする何かが走り抜ける。えっ、何か術をかけられた?雷なだけに?とどうでもいいことを考えないと、口から情けない声が飛び出してきそうで、必死に口を噛み締める。
 やばいっ。何か分からないけれど、本気でやばい。本能的な危機感を全身で感じる。私の感は馬鹿にならないのだ、……まあ、彼が私を危険な目に合わせるとは思いたくないけど……

「っみかちゃんっ‼」

 若干泣きの入った本気の抗議を上げ彼に顔を向けようと体を動かすと、みかちゃんはそれ以上揶揄うことは無く、肩から顔を上げる。

「すいません、可愛くてつい……。これ以上やると私も止められそうにないので、名残惜しいですがやめておきましょうか」

 そういって少し力を抜いてくれたが、私のおなかに回っている手は決して離れることはなかった。
 顔があつい、ドキドキが止まらない。……うう、動悸息切れのための薬、いや求心が欲しい……
 火照ったというより茹蛸の様な顔をしている私は、ひかない熱を何とか下げようと手を団扇のように仰ぐ。そよそよと顔に当たる風は熱を下げることは決してなかったが、体感的に感じる涼しさは私の心に少しの清涼感をもたらした。ちょっと、一安心。
 そんな余裕のよ、の一文字すらない私を見て彼はう~んと唸る。

「貴方は大変照れ屋でこんな風に私が触るたび顔を赤くするのも大変可愛らしいのですが、私としてはいつまでも緊張されるのもそれはそれで寂しいものなんですよ?」
……えっ?」

 想像もしなかった彼の思いを聞いて、私は反射的に彼の方に向こうと体をひねった。合わさった視線の先には困った様に眉を寄せているみかちゃん。
 じっと見つめる私にふっと口を緩め、彼はおなかに回していた片手を離し頬を一瞬撫でた。そうしてそのまま私の横髪をくるくると指に絡め、解ける様子を楽しそうに見ている。数回同じ動作をして満足したのかその後は穏やかな顔を私に向けた。

「それにね鈴菜さん。前世では一年も満たないぐらいしか一緒に居れなかったでしょう?しかも仲間として。だから現世では出来るだけ長くあなたと一緒に居たいのです。
 春は山菜取りや花見を一緒に、夏は海水浴や山にいって楽しむのもいいでしょう。秋は紅葉ではしゃぐあなたを見てみたいし、冬は雪で解けてしまいそうなあなたを腕の中に閉じ込めておきたい」
……私は雪に解ける程、か弱くないですよ」
「知ってますよ。どれだけあなたが強いのは体感的にも視覚的にも。ですがあなたと雪のセットは私のトラウマなのでそこは諦めてください」
……すいません」

 前世の体験がまさか現世までも影響しているとは思わず、彼に謝罪する。前世の記憶があるのもよし悪しであるとはこういう時に感じる。必要以上に辛い思いをして欲しくはないんだけど、その原因が他でもない自分にあるのが何とも言えない。もう少し最後の時を何とかできなかったのか、昔の自分……
 バレンタインの時にも薄々感じていたが、彼にとんでもないトラウマを植え付けていた事を知って落ち込む私をポンポンと優しく撫でる彼。

「いえ、貴方に落ち込んで欲しいわけではないのですが、もう少し自分の体を大切にして欲しいですね」
「うう……、努力します」

 慰めながらも釘をさす事を忘れないは流石です。

「あなた方には口酸っぱく言っているぐらいがちょうどいいのですよ」
「心を読まないで欲しい……
「おや?表情に思いの全てが出るような可愛い貴方がいけませんね。それはともかく、私は長くあなたと一緒に居たい。……だから」

 そういって自分の方に引き寄せ、少し空間が空いていた私と彼の距離を再びゼロにした。私とは身長が一回り程違う彼は、私の体を包み込むように腕を回し後頭部を支える。衣類越しに感る彼の体温に、癒しを感じていた清涼感は瞬間的に消失して再び沸騰する私。
 ひえ、ひえ、ひええええっっ‼

「〇×%$っ~‼」
……ぶっ」
「~~~っ‼‼」
「ふふ、すいません、揶揄っていませんよ。真剣な話です。ちゃんと聞いてくださいね」

 嘘だ、絶対に揶揄っている!だってとても楽しそうなんだもん!
 それにちゃんと聞いてほしいなら今すぐ離れてほしいとぐぬぬっと唸る私に絶対に気づいているはずなのに、それでもこの腕の拘束は離れる気配を感じない。
 彼が動かないなら、今はともかくこの鼓動を何とかしなくてはいけない。彼の腕の中で相変わらず主張の激しい私の心臓に向かい、鎮まれ~、鎮まれ~と念じていると、何か違和感を感じる。
 この鼓動、私の心臓と少し音の速さが違うような……
 気になった私は彼の体に耳を近づけ、耳を澄ます。私がすり寄った途端、その鼓動は先ほどより早くなった。

……っ聞いていますか?」
「き、聞いています!」

 彼の少し硬い声に思わず肩が上がるが、耳は依然に早い鼓動に集中している。
 もしかして、もしかしてこれって……
 じっと動かなくなった私を不可思議に思いながらも彼は続けた。

……やや納得は出来ませんが、まあ良いでしょう。以前読んだ本にこんなことが書いてありました。生物は生まれつき心臓の総拍動数は同じである、というものです。その本では小動物と大型生物のの違いについて書いてありましたが、小動物が寿命が短いのは普段の拍動数が多いから、大型動物はその逆で拍動数は緩やかとなっていると。
 その本の内容がどこまで確証があるのかはわかりませんし、信憑性も明らかではありません。が、何度も言いますが私は長くあなたと居たいのです。だから、私は考えました」

 言葉を区切って少し力を込めるみかちゃん。

「私が触れる度緊張して鼓動が早くなり最終的に寿命が短くなってしまうのならば、緊張しないようにすればいい。つまり慣れてしまえばいいじゃないかと。なので私に慣れるまでこんな風にくっついていましょう、鈴菜さん」

 先ほどまでの真剣な内容が吹っ飛ぶほどの結論。
 なんでそうなった?

「なんで?」

 緊張していた事も忘れ、思わず真顔で尋ねてしまう私。

「思っている事をそのまま言っていますね」
「え、真剣に考えた結果がそれですか?」
「そうですよ。私も緊張しているのは貴方も知っている事でしょう?こんなに近いのですから」

 そういって少し体を離し、私の手を自分の胸に当てさせる。
 私の掌には先ほど聞いた音ぐらいドッドッドッと鼓動が早い。

……みかちゃんも緊張しているの?」
「当たり前ですよ、ずっと触れたかった人に触れているのですよ?緊張しない筈がないでしょう」
「いえ、女性慣れしているから、こんなふうな事も慣れているのかなあと……思って……
……嘘ですよね?今の今までそんな風に思っていたのですか?」

 まさか他でもない貴方にそう思われていたなんて……と呟き、明らかにショックを受けた様子で落ち込むみかちゃん。
 え、違うの?本当に?
 ショックを受けた彼はこちらに体重かけて圧し掛かる。私の肩に顎を乗せ、はあ~と深くため息を吐いた彼の姿をみて、本当に誤解だったと知った。
 彼を無意識的に傷付けてしまったと慌てた私は、相分からず体重をかけてくる彼の背中を優しく摩り、弁明を図る。

「ご、ごめんさない。あんなにモテているからてっきり……
……あなたほどモテていませんし、私はずっとあなた一筋でしたよ。はあ~……傷つきました……。心底傷つきました。これはもう傷つけられた責任を取ってもらうしかありません。今後は鈴菜さんからも抱き着いてきてくださいね。約束ですよ、お互い長く生きるために」
「え、あ、は、はい?」
「はい、言質は取りました。今後頑張りましょうね」

 彼の勢いに反射的に頷いてしまったが、体を上げた彼は先ほどの落ち込みは嘘のようににっこりと笑う。そしてぽかんとする私の頬にチュッと軽く触れる程度のキスをした。

「っ‼‼」
「ふふ、我慢ですよ、鈴菜さん」
「いや、いやいややっぱり無理ですよっ!一生我慢できる気がしませんっ」
「では日常的になるまで何度でもしましょう。私も緊張しているので、50:50ですよ」
「本当に?本当に50:50?私の方が不利な気がするのは気のせいですかっ?」
「もちろん気のせいですよ」

 私の訴えはやはり彼の笑顔にかき消され、相変わらず高鳴る鼓動と赤くなる顔はそのままに彼の甘い拘束は帰る時間になるまでずっと続くのであった。




「いくら寿命を短くしないような訓練だとしても、刺激がありすぎるのは問題ですよね……
……本気で言ってる?ねえ、本気で言ってんのか?」
……?」
……我が姉ながら、ちょろすぎて心配になるわ