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orikoriko1125
2024-12-17 23:43:44
6707文字
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カキゼイ
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あと二つは食べられる
一番最初に書いた話を書き直しました。
二年生(二回目)つばたと一年生ぜゆの話です。
遠く故郷のキタカミを離れ、もう一ヶ月は過ぎた。
外国の名門校に通うのだから、少しは大人しくしたほうがいいのでは、という実家の家族のアドバイスなんか聞かなければ良かった、と日々後悔している。
いや、聞いた上で実行するべく、ニャースを被ったのは自分の意思だ。
地元ではちょっとした問題児扱いのゼイユが、海の底で物静かな美少女になっているとは誰も思うまい。
そして学園の敷地に無断で穴を掘っている、とも。
入学時に隣の席になったネリネだけが唯一、気の許せる相手。雰囲気のある少女で、不思議と気が合った。
「
……
皆とも仲良くなれば、ネリネと共にいるときのようにボロが
……
本音で話せると思います」
「いまボロが出るって言った!? それができたらこんな悩まないって」
目は口ほどにものを言う、言葉少ないネリネの眼鏡の奥はいつも正論でゼイユを刺す。
しかし、ゼイユには現状を打破すべく、とっておきの方法を考えてあった。
「まあ、ちょっと聞いてくれない? 名付けて王様の耳はバンバドロの耳作戦!」
「察しました。却下します」
「なんでよ!!」
ドーム内の人気のない場所に、穴を掘ってその中に、ひたすらその日言えなかった言葉を吐き出す。
なんの解決にもならないことは自分が一番分かっている。馬鹿馬鹿しいけれども、ゼイユにとっては今の最適解なのだ。
「
……
実家、田舎過ぎて地図に載ってないって? あんたの地図がおかしい。部活のとき、必ず話掛けてくる男子ウザい! 美人だからお高く止まってる、って言った隣のクラスの女、聞こえてんのよ! 大人しいフリしてるからって舐めないで!」
キタカミにいたときの学校は、自分や弟も入れて十数人しかいなかった。学園は人が多すぎて、善意も悪意もごちゃまぜだ。
いつか穴ではなく、本人に言えるのか。どう考えても自分次第なのだが。
「
……
穴埋めんの手伝ってやろうか?」
誰もいない場所は一週間は吟味した、筈だった。
白いフワフワ頭に、ゼイユの地元の不良も御用達のオラチフジャージ、なぜか腰に巻いているマント。
「カキツバタ、先輩?」
「オイラのこと知ってんの?」
バトル強豪校で一番強い人間を知らない奴なんて、いない。
「お前さん、今年うちの部に入った一年生だな。
……
ゼイユ、だろ。合ってる?」
「そうですけど
……
。よく覚えてますね」
掘るのは大変だったが、埋めるのは一瞬だった。手持ちにディグダでもいたらもっと簡単だったのかもしれない。
ブルーベリー学園にはいくつか部活はある。ただリーグ部は学園生活にも大きく影響している、学園の象徴のような部で、部員はどこよりも多い。
「勉強は苦手なんだけど、人の名前覚えるのは得意なんだよねぃ。それに、えらい美人が来たって大騒ぎだろ」
手伝ってくれたフライゴンを撫でるカキツバタを見ながら、ゼイユの頭の中はずっと今言うべき言葉の正解を探している。
ゼイユは得体のしれないこの先輩が、なんとなく苦手だった。
本音で話せない自分を棚に上げて、もっと腹の底が分からないチャンピオンに、秘密を知られてしまったのかもしれない。
「
……
いつからいました?」
「穴掘って文句言ってるとこから? この上、オイラのお昼寝スポットなんでね」
カキツバタが丘の上を、指差す。この場所はノーマーク。
普通に全部見られている、言葉は決まった。
「誰にも言わないで下さい。お願いします!」
「言うつもりねえって。でも、文句言ってる方が面白くていいと思うけどな。ダメなの?」
「みんな
……
本当のあたしにがっかりするかもしれないし」
「そんなん、しねえって! そもそも、決めつけられんのが嫌なんじゃねえの?」
自分でも矛盾していることは理解している。視線を地面に移すと「お前さんにも色々あんだよな」と優しく言われた。
こんなことで泣くような女だと思ったのかもしれない。キタカミの女はただでは転ばないのだ。
「はい、色々あるんで何でもするから言わないで」
明らかに、うわ
……
というような顔をされた。
「それ、お前みたいな子が言ったら絶対ダメなやつだからな
……
」
「なんで?」
「世の中、悪いヤツがいっぱいいるんだって」
正直なんの話をしているのか、全くわからない。が、ここで口封じをしておかないと平穏な学園生活に支障が出る。
「大丈夫だって、誰にも言わねえからもうこの話はおしまい!」
「はぁ!? あたし、先輩のこと全っ然信用してないから無理!」
今度は面倒くさそうな顔をすると、少し考えてカキツバタが妙な提案をしてきた。
「じゃあ、一時間だけオイラの彼女のフリする、とか
……
」
「やります!」
「やんねーよな
……
やんの!?」
「なんでもする、って言ったじゃない」
はぁ、と大きなため息をつかれた。
「自分で言って面倒な顔しないで下さい」
「普通断るだろぃ」
「なりふり構ってられないんで! あ〜良かった!」
最初とすっかり立場が逆転していた。安心したゼイユと裏腹に、カキツバタは青い顔で嘘だろ
……
と呟いた。
「だから却下したのに。それに自分をさらけ出す好機、だったのでは?」
ネリネの言ったことは全て正しい。ゼイユの判断が少し間違っていた。
放課後の教室は二人しかいなかった。
「そうなんだけど、あたし意外と気が小さいのかも
……
」
「今の話の中に、気の小さいゼイユは居ませんでしたが?」
二人でしばし目を合わせた。気の小ささから、とんでもない約束をしたつもりだったが。
はぁと溜息をつかれた。
「
……
起きてしまったことはしかたない、どんな話になっているんですか?」
「なんか遠ーい親戚のおばさんの娘に会って欲しいって言われて、面倒だから彼女いるんでって嘘ついて断ったのに、じゃあどんな子か見定めるとか言われたんだって。そんなの無視すればいいのに」
話の内容はわかるが、あの先輩に娘を宛てがいたい女性の気持ちも、無視もできない状況も正直理解できない。
なんせあの先輩ときたらポケモンバトルがやたら強くて、見目が良いくらいしか良い点が見当たらない。
「
……
ていうか、カキツバタ先輩って何者?」
ネリネがスマホロトムを呼ぶ。
「ゼイユはイッシュに来たばかりだから、知らないのも当然。カキツバタ先輩はイッシュリーグのジムリーダーのお孫さんです。ドラゴン使いの出なので、将来性に期待されてる方が多いのでしょう」
見せられた画面には厳しい年配男性と、かわいらしい、いかにも元気いっぱいな少女。
「この方です。この女性はイッシュチャンピオン」
「ただのバトルが強いだけの不良だと思ってた
……
そんな凄いヤツなの?」
「ご本人は我関せず、と言った感じみたいですね。それに留年もしているので、素行不良には間違いないでしょう」
「やっぱりそうじゃない」
ますます分からなくなっただけだった。
ネリネは居住まいを正すと「カキツバタ先輩への認識はそれでいいと思う。それよりゼイユは自分の軽率さを反省するべき」と再びゼイユへ矛先を向ける。親友の説教は耳が痛い。
軽率とは言われたものの、彼女のフリをするならば、ある程度裏口を合わせたほうがいいのかもしれない。
それに、苦手な人間とも歩み寄ってみようとも思う。仮にも先輩だ。
ゼイユは問題児の割に真面目だった。
部室の椅子と一体化している印象があったため、向かったが不在。
代わりに在室していた先輩に聞くと「ポーラスクエアじゃないかな?」と教えて貰えた。
ポーラには授業で数回訪れたのみ、とにかく寒かったため秋制服の上からジャージを羽織る。
嫌々被ったニャースを被り続けるために、こんなことをするよりも、ネリネの言う通りあるがままの自分で過ごした方が絶対にいいのに、乗ってしまった船からは降りられない。
カキツバタはポーラスクエアの前にいた。
雪の中で手持ちのブリジュラスをウォッシュしている。
本来ならば微笑ましい光景も、ここでは見ているだけで寒々しいのであった。
「ゼイユ、どうした? 約束、断りてえんなら大歓迎だけど?」
「
……
断んないですよ。裏口合わせなくていいのかなって思って」
この間と同じ、面倒そうな顔。一瞬だけ向けて、すぐブリジュラスの方へ向き直る。
「そんなんしなくていいって。綺麗な女の子が隣で大人しくニコニコしてりゃ終わるから」
やっぱり苦手、というよりムカついた。
何も言わずに睨み続けていたら、視線に気がついて「
……
わりぃ、今のは失礼だった」ときちんとゼイユの目を見た。
「ギリギリ許してあげます。
……
なんでこんな寒い所でウォッシュするんですか?」
ウォッシュ、というよりも磨き上げているというような感じだったが。
太陽の光のないポーラでは雪の光が眩しいのを知る。
「ここで捕まえたやつだから、その方が嬉しいと思って。ピッカピカにしてやるとすげー喜ぶんだぜ!」
「確かに嬉しそう
……
。ピカピカでカッコいいわね」
褒められたのを理解したのか、ブリジュラスも得意げに近づいてくれた。触りそうになって、慌てて手を引っ込める。
歩み寄るついでに、前々からの疑問も聞いてみることにした。
「なんで学校で一番強いのに、チャンピオンを名乗らないんですか?」
もっとも本人が自称していないだけで、周囲はチャンピオン扱いをしているが。
「質問多いな〜、ツバっさんに興味持っちゃった?」
「全然興味ないです! ただの疑問!」
今度はゼイユが面倒そうな顔をした。
「
……
畏れ多いから。 あとは部長とかめんどーだし」
これは後半が本音だろう。責任という言葉が嫌いそうな先輩への評価が一段下がった。
「すみません、カキツバタ先輩。今いいですか?」
「先輩とかいいって! 同級生なんだからよ!」
スクエアにいた部員が声を掛ける。どうやら真面目な相談のようだったため、ゼイユは距離を取って見守る。
部員の持ってきたタブレットを一緒に覗いて、真剣に話を聞いてる様に驚く。そんな顔もするのか。
「ありがとうございました!」
「いいって」
先輩部員がゼイユに「ゼイユさんも、分からないことがあればカキツバタ先輩に聞くといいよ! 何でも知ってるから」と声を掛け去って行った。
「あ、はい」
「何でもは知らねえよ
……
」
面倒見がいいのか、意外と頼られているようだ。
いつか相談してもよいのかもしれない。
上から怒鳴り声が落ちてくる。
「カキツバタ! お前、オレのプリントどこやったんだよ!! 返せって」
「今日のオイラ、人気者すぎねえ?」
怒っている先輩がエアームドに乗って、頭上から現れた。
「あ〜
……
わりぃ! 無くした!!」
「お前マジでふざけんなよ!!」
先程少し上がった評価が、二段階下がった音がする。
結局、当日まで裏口を合わせることもなく迎えてしまった。
何も言われてはいないが、例のおばさんへ少しでも印象を良くするため、白いレースのワンピースにしておく。髪も内巻きにして、大人しそうな女の子に。
待ち合わせのエントランスロビーにいたカキツバタは黒いスウェットにジーンズで、思わず「先輩はいつもと変わんないですね」と挨拶より先に言葉が出てしまった。
「おはよーさん、ゼイユはかわいいなー」
この男が気の利いた言葉が言えるとは思わなかったので、少し驚く。
「知ってます。今日は特別に脳裏に刻ませてあげますよ」
「ありがてー、使わせてもらうわ」
相変わらず、意味の分からないことも言うが。
地下鉄に乗ると、行き先のカフェのメニューのアドレスが送られて来た。
「今日の用事終わったら好きなの一個ご馳走してやるから、選べよ」
大きなフルーツがたくさん載ったタルトも、幾層にも重なったパフェも全てが宝石のように見える。
吟味を重ねていたら、笑いながら「甘いもん好きなの?」と尋ねられた。
「
……
地元にカフェとかないんで。家で出される甘いものってお餅ばっかだし」
「ゼイユの実家ってなんかすげー遠いんだろ? 山奥?」
事実ではある。が、都会の人間に言われるのは非常に腹立たしい。
「確かに山奥だけど、都会に無いものもいっぱいあるんで!」
「じゃあ、いいとこなんだな」
喧嘩を売ってきたのはそちらなのに、勝手に終わらせようとされたようで、気持ちが収まらない。反撃に出ることにする。
「先輩の実家はどういう感じなんですか?」
一瞬だけ、ゼイユを見るとまた外して「
……
口うるせえジジイのいる、フツーの街」と言い捨てた。
「こんなに綺麗なガールフレンドがいるなんて!!」
カキツバタの遠い遠い親戚の女性は、それはもうゼイユの容姿を気に入り、褒め称え、非礼を詫びた。
裏口なぞ会わせなくても彼女が勝手に話し続け、結局は隣でニコニコしていればすぐに終わりそうなのが癪ではあったが。
とにかくこの場を切り抜ければ、先程見た宝石が食べられる。
「でも、今年は留年してしまったとか噂で聞いたけれども
……
。学校そんなに大変なのかしら?」
素行不良の先輩は先生の言う事すらまともに聞いていない。授業にも出ていない。
逃げられない場所なのだから、たまには誰かに説教されればいい、とその時まではゼイユも思っていた。
それに居心地悪そうな先輩は内心、面白い。
「そんなだらしない子でも学校で一番になれるなんて、ブルーベリー学園ってポケモンバトル強豪校って言われる割に大した事ないのねぇ〜」
隣にいるカキツバタが何か言おうとしていた、のには気がついた。でも、その前に勝手に口が言葉を発していた。
こう見えても自分だって地元の問題児、ここは大人しくする場面ではないのだと。
「申し訳ありません、でも聞き逃せないのでいいですか? カキツバタ先輩、確かにだらしないですし、留年していて授業もまともに出ていないのは事実です。けれども、手持ちのポケモンたちに対する思いも人一倍あります。それに、後輩たちからもとても信頼されていますよ。ブルーベリー学園、大したことない? 是非いらして下さい。先ずは入学したばかりのあたしからお相手させていただきますね」
先程まで静かにニコニコしていただけのゼイユはどこへ行ってしまったのかと、目の前の女性はびっくりして目を見開いている。
隣のカキツバタは必死に笑いを堪えているが、全く堪えられていない。
自分でも分からないが、言わなければ気が済まなかった。
「あー、めちゃくちゃ面白かった! ババアの顔、ヤバかったな」
「最後ちょっと怒ってたけど、よかったんですかね」
約束のケーキは季節外れなのに、大きくてピカピカのイチゴが載っていた。イッシュのイチゴ農家は優秀なのかもと少し都会を見直した。
「いいの、いいの。もう二度と会わねーから!」
それならばよかった、心置きなくケーキを堪能しようとフォークを刺す。
「
……
なんでオイラを庇うような事言ったんだよ?」
食べる瞬間を邪魔された。そんなことを聞いて何になるのか。
「ケーキ代? あとはおばさんの言い方がなんかムカついたから?」
「ふーん
……
」
そこで会話が終わったようなので満を持して、一切れ口に入れる。
中のクリームもイチゴ味で美味しい。こんなケーキがいくらでも食べられるのは、都会の利点かもしれない。
「
……
いくらあたしがかわいいからって、そんなに見られたら食べ辛いんだけど」
「いや、美味そうに食うなーって。同じの頼めばよかった」
「あげませんよ!」
「一口あげますくらい言えって、可愛げねえなあ
……
」
カキツバタは約束通り、誰にもあの日の出来事は口外しなかった。空けて埋めた穴も、もうどこだったか思い出せない。
それに、被っていたニャースも次第に剥がれていき、更に一月経つ頃には本来のゼイユに戻っていた。
「雰囲気変わった?」と聞かれれば「そう? 最初からこんな感じよ」とそしらぬ顔で言い放つ。
「だから最初から口封じなんて余計なことを考えないで、普通に過ごしてればよかった」
「
……
それは本当にネリネの言う通りだったわね」
二人で出掛けていたところを目撃され、ほどなく付き合っているという噂が流れてしまったのだ。
聞かれるたびに全力で否定し続け、火消しに奔走する日々。
しかもカキツバタがまんざらでもなさそうなのが、また腹立たしい。
こんな海の底では、平穏な学園生活なんてないのかもしれない、と偽物の空を映す教室のモニターを睨んだ。
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