居るのは分かっていたが、何せ霧に消えた儘キスして来るとは思わなかった。視覚情報が無い儘の目に見え無い相手に唇を奪われて居る。怪奇現象だ。
こちらのそんな微妙な所感を察してか、徐々に顕に成る姿。目に近過ぎる距離に在る相手のせいで、別の意味で何も見え無い儘だが、絵を描いた紙が燃える経過をさかしまに時を動かしたような顕現をする。骨のようなものを根幹に、薄く肉付き、皮がぱんと張られ、服を纏う。それが煤を縁取って、じわりと形取ってゆく。
だから白い頭蓋が初めに見え、それと同じ材質のようなのにどろりと柔軟に動く舌が伸び、その先は自分の中に消える。
は、と息づいた声は相手のものだ。今自分はこの男の音しか拾う余裕が無いので。
しかし相手がどんなに妖艶に大口開けて、どれだけ淫猥に舌を伸ばしても、驚きの余り逆に歯を食い縛って仕舞ったこちらには、それ以上侵入することは出来無い。いや、逆にってなんだ。
にもかかわらず相手は今し方こちらの唇をその霧の吐息で濡らして来ただけで無く、引き結んだ、おれの、歯を、右から左へと。
ねっとりと媚びるように舐められた。堪らなくて開いた口は、あっと言う間に奴のおもちゃにされた。
一直線に舌の根本を向こうの舌先で上から抑えられ、けれどえずくことは許されず、大口だけを開かされた。
ふ、とまた霧がはいってくる。それに翻弄されている間に、舌の上に有った相手のそれは、今度は下顎に潜り込んで来る。
引っ張った舌の裏筋が張り詰めて痛んだので、顎を上げて逃げる。そんなこちらを深追いしない相手からは、口に中での熱心さは無く、抗いもせずに顎に口付けられた。
その儘下唇を下から口付けられ、代わりなのか指で体を辿られた。
力を込めて押し込むように胴を押されるが、緊張で強張った体は凹むことが無かったので、吐かずに澄んだ。
これをどうしたと問うても無駄なのだ。
反対に、理由が要るのか問い返されるだけだ。
「びっくりしました?」
だからこんなあどけない声の問い掛けを受けねばならないのだ。
「……ああ。そうだな。」
止める意図も持って体に当てられた大きな手を取り上げて握れば、そっちのほうが驚いたような気配をいとけなく無防備にも醸し出して来るから、こっちの体の内側がじりじりと燃えるようだった。
だから無意識下で、手を握っていない反対の手で、相手の顎を自分の開いた口迄引き下ろした。
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