ortensia
2024-12-02 18:02:36
1122文字
Public その他
 

余裕


 本当は床に倒れ込みたくなんか無いし、汗でベタ付いて不快だし、身体のためにも水分とか摂ったほうが良いんだろうけど、横たえた体はちっとも動かせない。代わりとばかりに思考だけが目紛しい程回っているが、それも最近出て来たほんの少しばかりの僅かな余裕だ。
「そんな無防備で余裕だな。」
 誰に余裕があるって。
 見下ろして来る赤銅と黄金に目を向けて睨み付ける余裕もない。それでもその色を容易く頭に浮かべられる。思考は動かせるから。
 それを余裕だなんて、この色にだけは言われたくない。
「平伏すまで体力の配分を考慮せずに動くなんて、余裕があることだろう。」
 こちらが返事をする体力もない状態で、無視も同然の相手に、尚も話を続ける。横暴、鬼畜、魔王。
 ペース配分を完璧に、それは自分の体力だけでなく、全てにおいて当然のように考えのもと動いている、それが出来るチート野郎には、そりゃ縁のない光景だろうな。
「そうやって自分は体力切れで倒れ伏していても、僕がきちんとケアするから、確かにそれは余裕のあることだな。」
 は。疑問と怪訝の声は上手く上げられず、単に息を吐いただけのものとなった。
「千尋には僕がついている。」
 こちらにある余裕とはつまり赤司征十郎のことだと、なんでかそう勝手に解釈された。
「それは事実なのだから、お前がそうするのも、仕方のないことだったね。幾らでも無防備に余裕を見せると良い。」
 どこか満足そうにそう言う勝手な奴だが、まるでこいつのほうが余裕がないみたいだ。
「けれど試合でもその体たらくなのは許さない。例え倒れても、僕がお前をコートから出さない。」
……。」
「ん?」
 あかし、まだしっかりしない声で言ったが、耳聡く応えて相手は身を屈めた。
 初めは無様だと、そう言われるもんだと思ってたんだ。
「お前も普段の余裕取っ払った無様な姿晒してたまにはオレに見下させろよ」
 体力切れの息切れで、少し多めの言葉を連ねれば、床に這いつくばった状態の儘、更には盛大に咳き込むハメになった。
 現状それを見下ろしている相手は、少し目を見張っていたようだったが、直ぐに背中をさすって来て、それが落ち着いて来ると、首の辺りに手を当てられた。普段は運動している人間特有の体温を持つその手が、今は冷たく感じられて気持ち良い。暴言吐いて勝手に咳き込むこちらの背をさする相手も相手だが、その手に心地良さを覚えたこちらもこちらだった。
 体力の回復を感じる。それが目に見えて分かるらしい主将様は、そっとかたわらに水分を置くと、音も立てずに立ち上がって、そのまま体育館の中心に戻って行った。頭が高いの一言でも、飛んで来ることはなかった。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。