約束を取り付けて集まることが有る。やることはバスケなので、仲良しとかいうものより、ただのバスケバカだ。そのメンバーは、キセキの世代を筆頭に、特技や特性が様々なプレイスタイルの個性派揃いなため、互いに再戦への熱意が高い。
取り分けミスディレクションなんて技術を取り入れている、否、それを可能とする選手は希少なため、参加が表明されると、途端に集まりが良くなる。加えて、その当人である黒子はバスケバカも良いとこなので、立地面だけではない参加人数の多さが東京開催にはある。
対して、西の幻の六人目は、自分を仲良しこよしの集まりに混ぜるなど場違いだと論じ、参加不参加の返事どころか連絡自体をしない。
それでも彼の後輩が、上手いこと諭したり煽ったり騙したりしつつ連れて来るので、参加回数が皆無ということはない。集合場所に来ても、バスケをするかはもう一悶着要するのだが、それを苦とせず、コートに入れようとする人間も同行しているので、なんとかなっている。寧ろその参加自体を珍しがって、自分もと参加の名乗りを上げる者もいるため、参加人数に安定のある東京に劣らず、意外と集まりが良い。
そして前回は、そんな彼も参加していた回であった。今回その彼と、彼を高確率で引っ張って来るその後輩は不参加だが、彼の後輩の一人である、実渕が参加していた。
「それでまた上手い具合に征ちゃんが誘導して、ワタシ達の中のメンバーだったら、誰が好きか黛さんに聞き出したのよ。」
「本当にどういう経緯でそんな話題に持ち込めたのか気になりますが。赤司くんなら可能であることには納得出来ます。」
相槌代わりの感想を返す黒子はその回は不参加だったが、今回共に集まれた実渕に、珍しい組み合わせではあるが、その時の雑談の話題を聞くことが出来ていた。
「それでいったい、黛さんは誰を選んだんですか?ちゃんと赤司くんは報われたんですか?」
「黒子くん言葉選びが容赦無いわね。やっぱりキセキの世代で征ちゃんのチームメイトだったからかしら?」
「その赤司くんに言わせると、これは元々のボクの性格らしいですけどね。」
実渕の自分への評価に返事をしながらも、黒子は黛の返事のほうが気になった。
先ず、自分ではないだろう。素直に赤司が報われたとも思わないが。
予想では黄瀬辺りである、二次元イラストのことは黒子はよく分からなかったが、外見が良いのは黄瀬であるし、見た目は良くても頭が悪いという、おそらくギャップ萌えというものに当て嵌まるのではないかと考えた。
次に考えられるのは青峰だ、バスケの技術だけならキセキの世代屈指の実力で、非現実的な浪漫があると思う、たぶん、ギャップというよりも王道を行くタイプの人物だ。
「火神くんだそうよ。」
「火神くんですか!?」
珍しく黒子の口から大きな声が出た。
「そうよね驚くわよね。征ちゃんもびっくりして声も出なかった様子だったし。」
「火神くんは確かにどこに出しても素晴らしいバスケバカですし、性格も素直で良い子だと思いますが、意外です。理由も当然聞き出したんですよね?」
「勿論よ。でも黒子くんも火神くんが好きなのね?」
「ボクは火神くんのひととなりを良く知る立場ですので……決して黛さんとボクに共通点があるという観点ではないと思います。」
黒子は訂正に言葉を告げた。実渕は、あらそお?と返すだけだったが、こう言っておかなければ、黛からは勿論、赤司からも良い顔はされないだろう。
「そうねえ。確かに私達は、ひととなりとかはそんなに知らないかもしれないけれど。黛さんは一人暮らしで偉い、みたいなこと言ってたわ。」
「洛山は寮生ですよね?それだと、洛山生はみんな偉いのでは。」
「ワタシ達はご飯は食堂があるじゃない?火神くんは自炊してるんでしょう?」
「なるほど。でも火神くんは確かにお料理上手ですが、マジバもいっぱい食べますよ。それに料理だったら、赤司くんのほうが実力が高いのでは、あの人何やらせても全てそうですから。」
「そう、そうなのよ、征ちゃん。オレも料理は出来ます、黛さんに召し上がっていただいた時もご満足いただけたはずですが、何故ですか、嘘のようには見えませんでしたが。って畳み掛けてて。」
「赤司くん……。」
赤司は既に黛に手料理を振る舞っていた。
「見てるこっちがひやひやしちゃったんだけど、まあ、黛さんはいつものあの通りで。」
「ああ……。」
黛のマイペースな様子は簡単に想像がついた。
「でね、黛さん、征ちゃんに目もくれず言ったのよ。火神くんは自炊出来るけど、全部をそれにこだわるんじゃなくて、外食という手段が自分にあることを理解して、それを状況に応じて自ら選べることが偉いって、懐の広い性格をしていそうで良いと思うって、勝利にしか価値がないとか自分の選択肢を狭めるような固執の仕方してるよりよっぽど。……ですって。」
「うわあ。」
黒子は声を漏らした。それは批難の音だが、内心は同意だった。ただ、それを黛が赤司に言っているところが容赦がない。
「黛さんも変なところで洛山生ですよね。」
「それは洛山生への誤解を感じるのだけれど?」
「それで……」
黒子は洛山生への認識を改める促しには応じずに、実渕から視線を、遠くへと移した。決して逸らしたわけではない。その証拠に、実渕も、ああ、という表情で、黒子と同じ方向を見た。赤司と火神がいた。
赤司は火神に親しげに接しながらも、探るように見ていた。帰国して都合の良かった火神は、たまたまタイミング良く参加出来たバスケの集まりで、今までにないほど赤司が自分に絡んで来るのを、嫌ではないが明らかに戸惑った様子で辿々しく応じていた。会って最初に鋏の所持の有無を訊いてはいたが。ちらちらと周りを、特に黒子のほうを見て、助けを求めるようにおろおろとしているが、相手は赤司だ、周りは当然、どんどん遠巻きにしていくし、赤司が火神に構っているせいで、赤司と同じチームメイトであったはずの実渕は必然的にこうして、火神と同じチームメイトであった黒子と話している状況である。
こうして赤い髪が並んでいても、共通点はそこしか感じられない。
「その後も凄くてね……」
「まだ追撃があるんですか……」
実渕が続きを話し出したので、黒子は多少の驚きをもってその顔を見上げた。心なしか実渕はここではない何処か遠くを見ていた。
「当然と言えば当然なんだけれど、黛さんは負けず嫌いもあってか、けっこういちいち煩いとこあるから、なんでそんなこと聞くんだ、って言うわけよ。」
黒子はこくこくと頷いて相槌を打った。凪いだ湖面のような瞳でいて、どうしてあんなに皮肉げな目線を雄弁に寄越して来られるのか、ついで口悪い。
「黛さん、相変わらずの皮肉というか、自虐なのかネタなのか。自分の影が薄すぎて異性に見向きもされないだろうから、同性相手も考慮に入れたほうが良いって話か。なんて言うから、そんなことないです、って否定するんだけど。それを言ったのが、まあやっぱり当然と言うか、征ちゃんだったものだから、黛さんよけいに皮肉に拍車を掛けて。」
「まああの人達はそうでしょうね。」
影が薄いのは黒子もだが、会話の運びが黛と赤司のように悪いほうに盛り上がることはないだろう。
「黛さんったら、赤司様は異性どころか同性でもそりゃ軒並み骨抜きだろうな、なんて言うから。征ちゃんが言い返したんだけど、その言葉が……もうアタシのほうが涙が出るかと思ったわ。黛さんも流石にいつもの調子を固まらせていたのがアタシでも、多分あそこにいたメンバーみんな分かったわ。」
思い出しながら実渕が顔に手を添えていて、黒子は話の展開への期待に、否、心配で、実渕に続きを促した。
「赤司くんはなんて言ったんですか、ねえ実渕さん、教えてください、赤司くんは」
「フラれてしまいました。と言ったんだよ。」
黒子と実渕が勢い良く顔を上げると、赤司本人が、その本人の言葉で以て答えを口にした。火神がその後ろから不思議そうに顔を覗かせているが、今は構っていられない。
赤司が黛に返した言葉に、流石の黒子でも冷水を浴びせられたようだった。隣の実渕は両手で顔を覆っている。
こちらの話がひと段落したのを赤司が見計らってか、二人が近付いて来ていた。火神は明らかにほっとした様子だったが、黒子がいたほうが、火神に黛が覚えた長所の情報を引き出しやすく、有利になることを見越しているだけだと思われる。こういうところなのではないだろうか。
「……赤司くんフラれたんですか。」
「そうだね。」
「あの赤司征十郎がフラれたんですか。」
「そうだね。」
そんなことあるんだ、黒子の率直な感想はそれだった。他人事である。まあ黛さんだしなあ、という気持ちもある。それに相手が火神なら、仕方がない。黒子は内心であからさまに火神を贔屓した。
今の赤司の受け答えの反応は、普通だ。怒りも悲しみも察することは出来ない。他の人物から見るとどうかは分からないが、黒子から見た赤司は、普段通りに見えた。そう、普段通りに。実渕は若干青褪めた様子だが。
「二人が話しているのは、珍しいね。ね、火神もそう思うかい?」
「お、おう。」
「なんの話をしていたんだい、ひょっとして前の、黛さんが参加していた集まりの時の話題かな?」
赤司はいっそ白々しかった。しかし唐突に、しかも内容の分からない話を、再び振られた火神は、ぎくしゃくとしていたので、そう思うのは自分だからなのかもしれないと、黒子は思った。だが良く考えてみれば、火神の反応は、彼のひととなりを考えるに、特に変わりないので、やはりこういうところなのではないかと思う。
「まあ、火神くんは敬語は不得手ですが、後輩力が低いわけでもありませんしね。」
「ほう……?」
「コウハイリョク?ってなんだ?背中の筋肉だっけ?」
「それは広背筋かしら?」
「ア、そうかも、デス。」
「ほら。この通りですよ、赤司くん。」
「へえ……?」
実渕の言葉に対しいつもの良く分からない言葉で応じる火神を、黒子と赤司の二人で見遣る。しっかりフラグ回収も出来るのだ、火神は。
「やっぱりどこに出しても素晴らしい光です、火神くんは。」
「……つまりそれは黛さんに対しても、かな、黒子?」
「黛さんに限らず、ですよ、赤司くん。」
火神は、今度は黒子と赤司がただならぬ雰囲気で遣り取りを始めたと思って、落ち着きかけた気持ちがまたもそれを失いそうだったが、今まで赤司に謎の絡まれかたをして、それが再び自分に向けられるのは嫌だし、黒子はいつもこんな調子で変に挑発的だったと思い直し、大人しくしていることに決めた。実渕は黒子に若干引いていた。
「人のいないところで、なに勝手に人の話してんだ。」
「うおわっ!?」
「あら。」
ここで当人が登場した。黒子は後ろから掛かった黛の声を聞く前に、赤司がそちらに顔を上げたので分かったが、火神は大変に驚いていた。実渕はさして驚いていない。
「来てくださって嬉しいです、黛さん。」
赤司が普段通りにこやかに黛を迎える。
「っち。オレは途中参加なんて空気読むのが面倒臭いことしたくないし、お前らと仲良しこよしもしたくない。」
「はい。ありがとうございます、黛さん。」
「いいじゃない、黛さん。どうせアナタ、一度退部したのを戻って来ていたんだがら。こんなの慣れっこでしょう。」
黛がまたガラ悪く舌を打つ。
「洛山生ですね。」
「旧型はどんな誤解の仕方してんだ。」
旧型はやめてください、と黒子が言う前に、黛と、驚きから回復して、遣り取りに首を傾げていた火神の目が合った。
「ちわス。」
「おう。」
なにげない、本当にちょっとした挨拶だ。それを思わず黒子も実渕も、そして赤司もじっと見てしまっていた。火神は心当たりもないのに居心地悪そうにしていたが、黛は全く意に介した様子もなくマイペースだ。
「火神くんはあげませんよ。」
なんなら今も他のメンバーがしているバスケに参加するでもなく挨拶に行くでもなくラノベと分かるカバーのそれを取り出して読み始めようとしている黛に、黒子が言った。黛はラノベから顔を上げて、黒子を見た。
「……なんの話をしているのかと思ったら。」
黛は周りにいる、今の会話の参加者で、内容を察したらしい。
「別にあげる貰うって話でもねーだろ。寧ろ生意気なお前なら、自分の光だとか言って、勝手に自慢して来るかと思ったが、見込み違いだったか。」
「それもそうですね。火神くんはやっぱり素晴らしい光です。ボクはフラれてませんし。生意気は余計ですが。」
影の薄い者同士だが、確かに両者の間には誰の目にもあきらかな火花が散った。しかしそれも一瞬のことだった。黛が次の話題を口にしたからだ。
「……つーかお前は赤司がフラれても驚かないのか、流石は同じキセキの世代様は違うってか?」
「いえ。さっきはしっかり驚いてました。黛さんこそあっさりしてませんか。」
途中参加でも誘われてなんだかんだでここに来ているのだから。見るからに、気まずさとかそういうのは、さっぱり感じてなさそうだ。
「いやオレも驚いたって。赤司ってフラれるんだ?」
あっさりというより、きょとんとした顔が、髪を揺らして小首を傾げながら言った。
「前回と表情まで同じですね。」
それを見て赤司本人が言った。こちらはこちらで、どういう神経をしているのだろうか。
「黛さん。黛さんの仰った通り、オレも火神からの学びを、積極的に得ようと思います。」
「オレそんなこと言ったか?」
「だからオレが火神より好意的に思えたその時は、即刻教えてください。」
黛の最もな疑問は拾われなかった。
「は?お前フラれた身だろ?」
「ええ。でも何度負けてもまた挑む、ということは、もう学んでいますから。」
赤司は黛に笑顔を向けた。一度の負けも許さなかったあの赤司くんが、と思うと黒子は感動的のような気もしたが、勝つまで挑む、という真意に気付かずにはいられなかった。黒子の背中が薄ら寒くなったところで、あたたかい光の姿を探すと、なんとその場にいなかった。
火神はいつの間にか、おそらく実渕に連れられて、ワンオンしていた。黛には、火神は渡さないと言ったそばから。
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