赤司征十郎の記憶は、いわゆる物心というものがついた以降のものならば、漏れは無いと自負している。その記憶の中では最近に当たる時分、高校一年生の記憶、自ら戻させた元退部員の最上級生に、何かの拍子に、否、勿論思い出すことは容易いが、今この議題においては重要性がないので割愛する、ただ、彼にしては普段ならば、そこまで荒立てることのほうへの面倒さを懸念するであろうところで、その普段よりも苛立ちを覚えたのだろう、言われたことがある。
「お前が人を駒として見てることは分かってんだよ、言えば良いじゃねえか、オレはお前の道具だって。」
「千尋は僕のものだ。」
売り言葉に買い言葉という意識すらなく、夕焼けだと言われたから、現時午後六時だと言った、それだけのものだった。こう例えると、わざわざ親切に正確な時刻を知らせた内容の返しだ。
すると一気に苛立ちを引っ込ませ、代わりに引き攣った顔を返された。押し付けがましい親切心ではなく、わざわざ言えと言われたから、そのように返したにもかかわらず。遊んでほしいと呼ばれたから手を伸ばしたのに、気が変わったと身を翻す猫のようなものだろうかと思った。
どちらにせよ求められた事実は、時が過ぎ去ったというだけで、変わらない。黛千尋は赤司征十郎を望んでいるし、赤司征十郎にも黛千尋が必要だ。ならば、そうあれ。そうあって、当然だ。
そうして彼が引退してしまって、高校生として、もう取り戻せない退部をしてしまって、高校バスケ部としての、彼と自分の試合は終わってしまった。
「もうバスケ部を卒業引退したオレは、お前の駒でもなくなったと思うんだが。ご要望に添えなかった道具だしな。」
「いいえ。あなたをコートから下げなくて良かった、本当に。」
「ふうん?道具でもなんとかなってたってわけか?」
高校生を卒業して大学生になってしまった相手をわざわざ休日に誘うと、怪訝にされながらも蔑ろにはされない。なんなのだろうな、この人は。
「こちらのほうこそ、あなたの扱いを蔑ろにして、あなたのご希望のバスケではなかったはずなのに、それでもあなたは赤司征十郎の指示を聞いてくれた。」
「口の利き方に気を付けろよ、お坊ちゃん。オレはお前が望む望まないにかかわらない、オレが自分でそう決めた結果、お前に従う形になっただけだ、お前はそういうポジションだしな。」
夕焼けだと言われたから、現時午後六時だと言ったら、時間を教えてほしかったわけじゃないと顔を顰められた。夕焼けであることと現在時刻は、この人にとってはどうでもいい。けれど、それをわざわざ事実に反すると指摘するどうでもよくなさは、持つ。全くの無関心ではない、確かにそこに色を持つ。
「あなたが赤司征十郎の人生から退場することもありませんよ。」
「……あ?」
「千尋は僕のものだ。」
「お前、それこそそれはバスケ部員の間だって」
「そこからあなたはオレを呼び起こした。だから、オレは黛さんのものですよ。」
顔を顰められた。けれど望みを絶たれたような、失ったような目はされなかった。
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