ずるいという自覚はある。バスケを通して、ただバスケをするだけではない価値観をそこに付加させようとすることに。それを気付かされたのは後のことで、実際には最初から目的は別の物の方にあったのかもしれない。それも更なる責を覚えさせられるけれど。
「別にずるかねえだろ。」
くれるのは、パスだけではない。
「その付加価値があって、その付加価値ごとそれに良さを感じてんなら、それはそれで良さを感じてることに他ならない。どうせ、本体だけに魅力を感じていたとしても、その感じ方なんて、人によるんだし。価値観って、各々違うもんだろ。」
けれどそんなに良いところに居ただろうか、寧ろ頼んでもいないのに、願ってもない。
「魔王様天帝様は、自分の価値観に逆らうことはお許しにならないみたいだけど?実際お前の価値観に賛同した奴だって、それぞれの価値観でお前に付いて行ってるのは事実だろ。それって、赤司サマサマな上、付加価値サマサマじゃねえの?」
勝利というものを手っ取り早く手にするものとして選んだのが必然的にバスケだったと、思っていた。しかし価値観の違いによっては、それは逆転し、バスケに付加するものが勝利ということになる。
それをこの人は、勝利を否定も肯定もしなかった。だからと言って、敗北を肯定して直ぐに諦めたり手を抜いたりもしなかった。
このひとにとっては、どうなのだろう。
「……どうかな。付加価値に、更に付加価値が付いたのかもしれねえな。」
興味のない素振りで時間をやり過ごしているように見えてその実、少し考えているだけなのだ。考えて、そして応えてくれる。
「オレにとってはバスケに気持ちが良いことが付加価値にある。更に、その気持ちの良いバスケをお前はやらせてくれると言った。そんなお前は、面白い奴だった。」
勝利以外の価値観を、大きな手が長い指を折って数えていくのを眺めた。
「三つ、付加価値が付いた。だから俺はバスケ部に戻った。」
悪くなかった。彼は言った。
その内の何か一つの付加価値でも欠けていたら、戻ってはくれなかっただろうか。不要なものは、どれだったろうか。勝利に価値を置く赤司征十郎とは違った価値観のこの人からすれば、最も無意味なのは。
全ては勝利のため。けれど本当は、勝利に意味なんて感じていなかったかも知れない。勝たなければバスケにすら意味なんてないと思っていたのに。求めた意味は違っても、ただのバスケでは意味を見出せないところだけが、唯一のあなたとの共通の価値観かもしれない。
ただ赤司征十郎にとっては勝利が必要で、けれど、ただ当然に得るべきもので、ただ価値だけは確かなもので。それにしか、価値を見出せなくて。だから全てを出し惜しまずに求めた。
「ばーか。どれか一つでも出し惜しみしようもんなら、戻ってなんかやらなかったね。なんなら、あのコートからオサラバしてやってもよかった。」
「それはだめだ。」
咄嗟に、立てられた三本の指を、片手で一掴みにした。三本の、細長いのにいつもしっかりとパスを出す指は、今は束になって、一つみたいだ。
この人でなければ、赤司征十郎に付いて来るのは勝利だと言うだろう。赤司征十郎自身がそうだから。
「まあ。赤司征十郎に、面白いは付いて来るから、実質二つなのかも知れんが。どっちにしろ全部寄越せよ。」
年上のひとは、呆れたように肩を竦めた。赤司征十郎を付加価値呼ばわりするのはこのひとくらいだろう、ずるいひと、だ。
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