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2024-12-17 10:23:29
2428文字
Public dkmn
 

皇宗01

メインストーリー2部+ハロウィンイベ後の話。匂わせ程度の皇宗

 意外だな、と浄は思った。
 宗雲ほどではないにしても、浄はその人の人となりであったり性格や性質といったものをそれなりに見抜ける方であると自負していたからだ。昔はその特技を利用してあくどい事もしていたが、今現在自分の仕事に大いに役立っている。
 だからこそ、浄は意外だと感じた。それは同じクラスに所属し、職場も同じくしている皇紀という男に対してだ。浄にとって皇紀という男はまるで野生動物のようで、誰にも懐かずただ利害が一致しているから自分達と行動を共にしているに過ぎないと思っていたのだ。もちろんクラスを結成している以上強い拘束力をもった契約が存在していて、むしろそれが無ければ彼は一匹狼として生きていくことを選ぶ孤高の男なのだろうと、そう認識していた。

「皇紀がそこまでウィズダムを大切にしているとは思わなかったよ」
 諸々の出来事が無事解決し、日常のウィズダムが戻ってきていた。誰も彼もが無傷とはいかず、特に浄自身大きな禍根を残すことになったものの、それでもウィズダムは今日も通常営業の予定だ。ただ、始業前に浄は厨房で皇紀にちょっかいをかけずにはいられなかった。
 高塔のバベルプロジェクトの情報が漏れた辺りから、浄は宗雲に自身の真実を見抜かれるのも時間の問題であろうと腹を括っていた。ウィズダムシンクスでの活動を通じて、宗雲と彼が率いるこのクラスの情報収集力や分析力には、恐ろしいと感じるほどの評価を抱いていたからだ。
「まさか俺を探っているのが、お前だとは夢にも思わなかったさ。地道な調査なんて柄じゃないだろうに」
「うるせえ。口を動かす暇があるなら仕事をしろ」
 厨房で下拵えをしている皇紀は、カウンター越しに声をかける浄を無視していたが、いい加減うんざりしてきた様子を隠しもせずに悪態をつく。
 浄は皇紀が反応を示した事に内心にやりと笑った。
「今夜もレディの為にドリンクの準備は万全だよ、だから今俺は暇を持て余しているんだ」
 チッ、と鋭い舌打ちが飛んでくる。これも浄にとっては想定内だ。皇紀は苛立ちを表すように、今日のメニューに使用するらしい肉をまな板の上に置き、凶器のようなミートハンマーで叩きつけ始めた。若干の殺気すら感じるが、気のせいではないのかもしれない。
 皇紀が料理だけでなく調査においても抜かりなく仕事が出来る人間であることは重々承知している。だが、基本的に彼は誰かに命令されることも地道に足で調査する根気の必要なことも苦手なタイプであると思っていた。それが、彼は宗雲の頼みであれば地道な調査の末に浄の真実までたどり着いてしまったのだ。つつきたくもなるというものだ。
「まだ時間に余裕はあるだろう? 俺とお喋りしようじゃないか」
「てめぇと話すような事は無ねえ」
 ダンッと苛立ちそのままにミートハンマーが肉に振り下ろされる。これはこれは、今宵の肉が柔らかいを通り越してミンチになっていなければいいがと浄は大袈裟に肩を竦めた。
「信用ならないねえ」
「自業自得だ」
 それはそうだ、と浄は苦笑を浮かべる。信用されないことなど慣れているし、彼からの信用を得られないのはそれこそ自業自得と言わざるを得ない。とはいえ、こうして根に持っているらしい皇紀にやはり意外だという感想を抱いてしまう。
「お前はもっと野生動物みたいな奴だと思っていたよ。一か所に定住するタイプじゃなさそうだって」
 相変わらず皇紀は苛立ちをぶつけるようにしてミートハンマーを振り下ろし、凶悪な重低音を響かせている。
 ウィズダムシンクスだけでなく、仮面ライダーがクラスを結成している以上契約が存在し、それが自分たちの力となる一方で縛ることにもなっている。ある日突然どこかへふらりと、自由気ままに消えてしまってもおかしくなさそうな皇紀という美しい獣を縛るものは契約だけだと思っていたのに、もしかしたらそうでは無いのかもしれない。
 彼は今でも怒っているのだ。自分たちを欺いていた浄に対して。そういう感情が、ある男らしい。
「いや、もしかして……お前が怒っているのは俺が宗雲を欺いていたからかな?」
 ダンッ! とひときわ力強くミートハンマーが振り下ろされ、振り返った皇紀の人形のように長く白い睫毛に縁取られた、いっそ作り物のように美しい紅い瞳が浄を見る。だが、それが人工物では無いことを物語るように、その紅の中で苛立ちと殺気にも似た強く激しい感情が込められていて、浄は思わず一歩後ずさりをした。これはさすがにからかい過ぎたかもしれない。
「オーケー、その物騒な物を下ろしてくれないか。もう何も言わないさ」
 両手を上げて降参のポーズを取る浄に対し、ひと睨みだけして再びまな板の上へ視線を落とした皇紀は、地を這うような低い声で呟いた。
「次はねぇからな」

 これは文字通りに藪蛇だったようだ、と浄は戦略的撤退を選択してそそくさとフロアの方へ引き上げようとする。と、噂を聞きつけたかのようなタイミングで宗雲が廊下を歩いてきた。その手になにやらメモを持っていることから、おそらく今夜の客でメニューの変更でもあったのかもしれない。
「やあ。今の皇紀はちょっと虫の居所が悪いようだから、気を付けた方が良い」
 顔を上げた宗雲が浄を見て、やや呆れた様子でため息をついた。
「お前がまた何かやらかしたんだろう」
「おいおい、酷いな」
 浄のせいであるのは事実だが、軽く肩を竦めて受け流す。だが、ふと好奇心がじわりと胸の中に浮かんだ。
「今日も君の狂犬は主に忠実のようだから、褒めてやると良い」
 宗雲は一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐに合点がいったのだろう、口元に手を添えて含み笑いを浮かべながら言った。
「可愛いだろう、皇紀は」
 その声音に滲むのはからかいと、愉悦に見えた。
 厨房へ向かう彼の後姿を見送りながら、やはりウィズダムは面白い、と浄は笑った。