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溶けかけ。
2024-12-16 21:49:38
980文字
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ほぼ日刊
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海朧
終幕後。
ぼんやりしてるフリーナと探しに来たヌヴィレットとルエトワールのお話。
青く霞む水平線から陽が昇る。空の青とお日様の赤が混ざりあって、まるで彼の瞳のようだ、なんて詮無いことを思った。
長い髪を揺らしながら海岸沿いを突き進むフリーナの足には無数の砂粒がびっしりとこびりついていた。彼女はそれすらも気にも止めないで歩みを進める。宛もなくただひたすらに砂浜を歩く彼女は端から見ればさぞ、異常に見えることだろう。
「フリーナ殿」
穏やかな声が波音に混じりフリーナの耳を撫でた。不意に彼女がぴたりと止まる。
声の持ち主──ヌヴィレットはフリーナの手を取った。彼女はその手を反射的に振り払う。揺らぐ瞳は酷く憔悴していた。
「帰ろう、フリーナ殿」
もう一度、ヌヴィレットはフリーナの手を取った。白魚のようだった手は痩せ細り、手入れを怠った肌はがさがさで、まるで枯れ木のようだ、と彼は僅かに眉を顰めた。
「
…………
」
フリーナは答えない。彼女の視線は打ち上げられたルエトワールに釘付けだった。そのことに気づいたヌヴィレットはゆっくりとルエトワールを拾うと小さな手に握らせる。そして、静かな声で「帰ろう」と口にした。
返答はない。しかし、フリーナの頭は微かに縦に揺れた。
ヌヴィレットはその様子をしっかりと認めると小さな手を引いた。その足取りは彼女の歩幅に合わせて、もどかしくなるほどゆったりとしたものだ。以前とは逆だな、とヌヴィレットは苦笑する。舞台に幕が下りる以前は、やれ、召使いとの茶会だの、やれ、貴族の開催する舞踏会のパートナーになれだのと、宣いながらフリーナがヌヴィレットの手を引いていたものだった。
「どうした?」
フリーナが立ち止まり、ヌヴィレットも立ち止まる。彼女はぼんやりと朧気な水平線を眺めていた。
「
…………
キミの色」
水平線の上で霞んだ朝焼けを指差してぽつりとフリーナが呟いた。ヌヴィレットも彼女の指の先へと視線を向ける。
「あぁ。確かに私の瞳の色に似ているようだ」
ヌヴィレットが同意を示せばフリーナの口の端が仄かに吊り上がる。笑みというには歪だが、あの日以来、初めて見せた笑みだった。
それからフリーナは興味を失くしたように手をだらりと体の横に戻した。ヌヴィレットはまた彼女の手を引いて、パレ・メルモニアを目指して歩き出す。
明日は彼女への手土産にルエトワールを取ってこよう、と考えながら。
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